第9話「投げっぱなし」
しかし、あれだな。
待つ身というのは退屈だ。
僕は舞台に数人分の席とテーブルを作り、カルラと差し向かいで歓談した。
「おかしいな。浮かんでこないぞ」
「交渉が長引いているのではないでしょうか?」
「ありそうな話だな」
「カードならありますけど」
僕たちはババ抜きをしながら時間が過ぎるのに任せた。
生きたいと望んだマリさんもこの状況でゲームを楽しむ余裕はないらしい。
顔を蒼白にしてなりゆきを見守っている。
村長たちは言わずもがな。
生贄の優先順位として高いことは理解しているらしく、彫像のように動かない。
「おそいな」
「話がこじれてるんでしょうかね」
「新しく使いを出そう」
「今度は宗教のからまない人がいいと思います。村長さんとかどうでしょう」
ひいっ、と村長のホプキンが顔をひきつらせた。
僕とカルラは周囲に聞こえるように朗々と叫んでいるので会話は筒抜けである。
指をさした。
村長が担がれる。
許してくれ、助けて、と悲鳴が聞こえたが。
僕たちはクールだった。
「やれ」
「わあああああああああああ!?」
村長は川に落ちた。
水しぶきが流れに飲み込まれてすぐ消える。
もはや誰も話さない。
しわぶき一つ聞こえなくなっていた。
村人や兵士たちは狂人を見る目で僕とカルラとを見ていたが。
しかし、僕たちはあくまでもクールだった。
「まだか」
「みたいですね」
「話が長引きすぎではないか。やはり身分が高すぎると身軽さが足りないのか」
「信心が足りないのかもしれません」
「そうだな。もう少し若くて信仰心の強いものを選ぼう。教祖直属の祭司長はどうだろうか?」
「妥当かと思われます」
「では」
近衛に担がれた祭司長2人は悲鳴を上げ続けた。
許してくれと叫んだ。
恐怖は伝染する。
ギャラリー全員がいびつに固まった表情で僕とカルラを見た。
しかし僕たちは常にクールだった。
彼らは比較的若いので、万が一がある。
ちゃんと手足を壊してから投げるように指示した。
2人が落ちて。
おぼれて。
そして川に沈んでから、しばらくの時が経った。
「不思議だな」
「不思議ですね」
「なかなか戻ってこないぞ」
「顔なじみの祭司がいないのかもしれません」
「もしくは華がないとか」
「なら、女性をもっと増やすべきでしょう」
「巫女をやろうか」
僕は指をさした。
マリではないもっと上級の巫女を確保し、近衛に担がせて放り投げる。
どんどんと川に投げ込む。
神の加護はなかった。
物理法則にしたがって宙を舞った巫女さんは川にざぶんと落ちた。
放り込まれた娘たちはおぼれ、もがき、なげき、そして、いずれ沈んだ。
ついでなので、土着宗教の主だったものは全員川に沈めた。
村で協力していた者も同様だ。
あとくされになりそうな人間をぽいぽいと川に捨てる。
何もかも水に流すのだ。
遺恨も怨恨も反抗者も水に流し、生まれ変わったつもりで新しい村になろう。
村人たちはもう視線を上げることもなくうつむいて沈黙に耐えている。
連れてきた兵士たちも震えているようだ。
そんなにびびるなよ。
僕とカルラとはクールなんだから。
反抗する気力のない者をいじめたりはしないぞ。
「お前たち、安心するといい。彼らは水神様と昵懇ということだ。いまごろは歓待を受けているだろう」
「歓迎されすぎて戻れないのかもしれません」
「なるほど。向こうのほうが居心地もいいということか。これは困ったな。いつまで経っても帰ってこないのは道理というわけだ」
そろそろ飽きてきたので、僕はこのへんで儀式を切り上げることにした。
「どうやら川の神のところは居心地が良すぎるようだ。これでは誰も戻ってくることができない。生贄の儀式は今年で中止とする」
「異存のある者はいますか?」
カルラが問いかけたが、誰一人として声を出すものはなかった。
主だった人間はすでに川の底だ。
残りの村人たちは恐れおののき、氷像のように動かない。
彼らからすれば、哀れなマリさんを見て楽しむだけの儀式だったのだ。
ああ、気の毒に。
なんてかわいそうなのかしら。
そんな風に生贄の羊をひとしきり愛でた後。
彼女は水神様のもとに行ったのだ、向こうではお幸せに、とかなんとか。
てきとうにいい話でまとめる手筈だった。
ところが、あろうことか。
なんか実行役の教祖や巫女や神官が根こそぎ死んだのである。
意味不明な状況だ。
もちろん支配者が不幸になれば庶民は嬉しいのだが。
その喜びを受け止めるためには、いましばらくの時間が必要であるらしい。
しばらく待つ。
待つ。
待つ。
誰も止めに来ないな。
止めに来たら、儀式を汚す背教者だとなじって斬り捨てる手筈だったのだが。
ちょっと生贄の数が多すぎたのかもしれない。
お腹いっぱいというところか。
まあ、村長や教祖に人望がなかったというのもあるだろう。
特にここの宗教の場合。
お布施と称して常識を超える額の金を巻き上げていたということだし。
最低限の味方さえ作れていなかったわけだ。
「異存はないようだな。皆の者、静聴ご苦労だった。もう帰ってよいぞ」
「これで儀式を終わります。お疲れさまでした」
そのように話をまとめると、村人たちはぞろぞろと帰路についた。
動きがやたらと素早い。
ここにいると何をされるかわからない。
そう思っているのだろう。
反抗的なやつは追加の生贄として殺すつもりだったので、彼らの反応は正しい。
うむ。
儀式もこれで終わりか。
ずいぶんとすっきりしたな。
今年は村の権力者が大量に生贄になったので、満足してもらえただろう。
今日の思い出があれば5年ぐらいは幸せに暮らせるに違いない。
僕はそれで頭を切り替え、今後の治水工事の手筈について考えることにした。




