↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/120

第8話「人も投げられた」

 儀式の日になった。


 川へと突き出した崖に500名ほどの人間がずらりと並んでいる。

 村長と神官と巫女、村人と兵士たちだ。

 不幸なマリさんを見て楽しみたい。

 そういう目的で集まったギャラリーなので、みんなわくわくとしている。


 彼らの身なりは貧しい。

 土地は豊かなのだが。

 領主と土着宗教が二重に税を取っているので、負担が重たいのだ。

 似たような村の平均と比べても豊かさは2分の1。

 呪われた民衆と言える。

 そりゃー、儀式でたまのガス抜きでもしなければ暴発するというものだろう。


「それでは、生贄をここへ!」


 太った大巫女が叫んだ。

 マリさんが連れられてくる。

 堂々としたものだ。

 手を引いて歩いているのがカルラとその護衛のため、目立って仕方がない。


 どよめきが走った。

 そりゃそうだ。

 天上人ともいうべき公爵家の跡取りなわけだし。

 カルラは金ぴかの鎧を仕立てた護衛を5人ほどはべらせている。

 魔力も圧迫感を感じるほどに強い。


 マリが舞台に立った。

 音楽に合わせて踊りを披露し、祝詞をあげて神に祈る。

 後はその身を川にささげるだけ。

 というところへ進んだので。

 僕は待ったをかけた。


「ちょっといいか?」


 ずかずかと舞台に上がり、マリの傍によって彼女の腕を取った。

 周囲の視線が集まる。

 いったい何ごとか。

 そのように無言で問いかけられたので、僕は最前列にいる巫女頭に向けて言う。


「大巫女よ」

「ははっ」

「この娘のことだが、少し生贄にするには問題があるのではないか?」

「と、申されますと?」

「神秘性が足りないように思える」

「そのようなことは……」

「あるのだ。彼女が生贄では川の神に対して申し訳がない。ということで、お前は川の神のところへ行って交渉をしてきてくれ」

「こ、交渉とは?」

「他の子を選ぶゆえに、少し待ってもらうように頼むのだ」


 ぽかん、としている大巫女に向けて、僕は指をさした。


「やれ」

「ははっ」


 またたくまに僕の近衛が駆け寄り、巫女頭を担ぎ上げた。

 止めるほどの間もなかった。

 太った体を持ち上げられた老婆は舞台へと運搬され、そして、空を飛んだ。


「わっ」


 舞台から川の水面までの高度は10メートル弱というところ。

 大巫女は弧を描いて落ちた。

 川ぽちゃだ。

 岸から5メートルほどの地点に投げ込まれ、そのままあがき、沈んだ。


 痛いほどの沈黙が場を貫く。

 何が起こったのか。

 誰もいまだに理解できていない。


 1分ほどの静寂。


 さすがに、多くの者は思考力を取り戻しつつあった。

 特に儀式の責任のある者たち。

 土着宗教をまとめる神官や教祖などは、顔色を変えて僕に詰め寄ってくる。


「ウォーレン様!」

「どうした?」

「このようなこと、許されませんぞ!」

「ううん? 何か問題が……ああそうか、そういうことか!」


 相手に発言を続けるゆとりを与えずに、僕は手を打って話を進めた。


「僕としたことが。大切なことを忘れていた。巫女頭一人を送って、供回りの者をつけないとは!」


 これはしたり、失敗だ、あっはっはっ、と僕はひとしきり爆笑し。


 そのまま指を向けて、


「やれ」


 と一言、近衛に向けて命令した。


 神官は空を飛んだ。


「ひっ!?」


 僕に詰め寄っていた教祖がガタガタと震えている。

 視線を向けると反転して逃げようとした。

 しかしだめだ。

 近衛が取り囲んで離さない。

 舞台に引き上げられた教祖は近衛に担がれて運ばれ、そして空を飛んだ。


「や、やめろ! やめてくれ! うわあああああああああああ!?」


 今度は恐怖を知るための暇があったらしい。

 叫ぶ余裕がある者。

 叫ぶ暇もない者。

 どちらが幸せなのだろうか。

 生贄の儀式というのは深遠な哲学を僕に投げかけてくる。


 さて。

 これでひとまず、彼らは川の神へと交渉に向かったわけだ。

 あとは待つだけか。


 何を待つかって?

 もちろん、彼らの帰りを待つのだ。

 無駄だとわかってはいるが。

 それでも。

 きっと。

 儀式とはそういうものだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。