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第7話「賽は投げられた」

 ゴール地点にたどりついたマリさんは、思いつめた表情で説明文を見ていた。


「人生最後の賭け……これで勝てば」

「おい、やめとけって」


 人生ゲームには財産を差し出して倍にするチャンスが何度かある。

 中でもゴール地点で行われる人生最後の賭け。

 これは所有財産を3倍にできる敗者向けの救済措置なのだが。

 一番でゴールしたマリさんは挑むつもりらしい。

 バカな。

 そりゃー当てればいいだろうが、外したらどうするのだ。


 現状、すでにカルラはボロボロだ。

 そのままでも勝ち目はない。

 僕もボロボロだ。

 人生の最後で賭けるための財産さえ残っておらず、借金まみれである。


「いえ、やります。勝負は最後までわかりません」

「そうそう。トータルの浮き額によって賞金も増えるという仕様ですし」

「カルラも煽るな!」


 この女、現状だと勝ち目がないからって自爆を狙ってやがるな。

 人の不幸を祈るとか。

 ふてえやろうだ。

 僕はというと、すでに勝負の圏外なのでまったく無視されている。


 つーか、徳政令カードを使えよ。

 持ってるだろ。

 何回も交渉しているのだが、頑としてうなずいてくれない。

 ひどい。

 自分より下の人間がいるのが珍しいらしく、カルラは上機嫌だった。


「問題ありません。勝てばいいのです。勝てば」


 生贄巫女さんがぶつぶつと言っている。

 これで今までの人生を買いなおすんだとか、なんとか。

 こええ。

 チャレンジャーすぎるだろ。

 いくら命がかかっているからって、ちょっと本気すぎるぞ。


「行きます!」

「どうぞどうぞ!」


 カルラがはやし立てる。

 魂の乗り移ったダイスが投げられた。

 これで外していたらドラマチックだったのだが。

 マリは普通に当てた。

 財産を三倍にした。

 カルラの人生ゲーム換算で、向こう10年は遊んで暮らせる大金を手に入れた。


「や、やった」


 マリは泣いていた

 拳を握りしめてぷるぷる震えだした。

 この子、大丈夫だろうか。

 当てたからいいようなものの。

 外していたらただのマヌケだし、無駄なリスクを踏んだだけに見えるのだが。


 まあいいか。


「おいカルラ」

「なんですか?」

「交渉しよう。徳政令カード、持ってるよな」

「持ってませんよ」

「持っているやつはみんなそう言うんだ」

「ほんとに持ってないです。まじまじ。カルラちゃん嘘つかない」

「じゃあ、せめて融資してくれ」

「すでにレンは銀行の融資枠を使い切っているのですが」

「個人的に貸してほしい」

「いくら?」

「金貨10万枚」

「お客様の信用力では10枚が限度です」


 チャリーン。

 最低単位のチップが地面に落ちた。

 ついでにカルラの山が蹴飛ばされ、伏せていたチャンスカードがあらわになる。

 昇進、スリ、讒言、ダイス2倍、第3セクター、裏カジノ。

 そしてやはり、カルラの山札には徳政令カードも入っていた。


「あらあら、ついうっかり」

「やっぱり持ってるじゃねーか!」

「気づきませんでした」

「気づかないわけねーだろ! つーか今、わざと見せたよな!? 僕を煽るために手札をさらしたよな!?」

「なんのことやら」

「僕は傷ついたぞ! 融資しろ融資! 金をたくさん貸せ!」

「フリ1(ダイス1振りにつき利子1割)でよろしければ。5万枚ほどなら」

「それでいい」

「じゃーどーぞ」


 カルラは金を出した。

 と同時に。

 銀行の支払手形と相殺して金を奪い、後には借金だけが残った。


「……あれ?」

「次からダイス1回につき5000枚払ってくださいね」

「何が起こったのだ?」

「何がって、銀行の支払手形がなくなったのです。よかったではないですか」

「しゃ、借金は」

「私に5万枚ですね」

「あんまりだ」

「まあまあ。ほら、銀行の融資枠が空きましたよ」


 僕は金貨を2万枚借りて投資カードを使い、全財産をぶっこんで勝負に出た。

 当たり前のように外す。

 確率6分の5で当たるのに。

 普通当たるのに。

 銀行とカルラに対して金貨7万枚の借金が残り、さらに利息までついた。


「人生ってなんなんだろう」

「負け犬のフーガじゃないですかね」

「カ、カルラさん、もう一回お金貸してくれません?」

「ちょっとちょっと。違うでしょ」

「え?」

「カルラ様でしょ!?」

「……!?」

「借金持ちが貸主に対して頭が高すぎですよ。ほらほら、ぺこぺこして頭を下げて、もっとへりくだってお願いしてくれないと」

「ぐううっ、か、かるらさま、どうかわたしにおかねをかしてください」

「もう一回」

「おかねをかしてください」


 死んだ魚の目で機械的にお願いを繰り返す僕。

 ああ。

 負け犬の気持ちがよくわかる。

 今なら少しだけ、借金で首が回らなくなった貧民とも分かり合える気がした。

 それは間違いなく気のせいだが。


「あ、あの。あまりケンカはよくないかと」

「勝ち豚は黙れ!」

「巫女は河豚でも食べてろ!」


 罵声を浴びたマリさんはショックを受けた顔で一位席に向かった。

 人生ゲーム勝者一位席。

 そこにはゴージャスな食事が用意されている。

 黄金梨、ケーキ、ステーキ、華河豚、串焼団子、ワインやチーズなど。

 さっそく料理人に焼きを入れてもらい、ステーキを切り分けてぱくつく。

 ケーキをもぐもぐする。

 巫女さんはうっとりした顔になった。

 幸せそうである。


「やってられるか!」


 僕は怒りとともにダイスを振り続けた。

 勝負目はことごとく外れる。

 どうやっても浮きにまわれない。

 カルラは僕の財産を吸い取って肥え太り、2着を危なげなくキープ。

 うれしそうだ。

 なんでも最下位にならなかったのは珍しいらしく、にこにこと笑っている。


 最終的には僕が負け犬になり。

 罰ゲームとしてお手やお座りやちんちんといった命令にひとしきり従った後。

 カルラレートに従って賭け金を分配し、ゲームの全てを終えた。


「長い夜でした」

「そうだな」


 時刻は午後二時ほど。

 遊びっぱなしなのでそれなりに疲れている。

 僕やカルラは体力的に二徹ぐらいならできるのだが。

 緊張を解けば別だ。

 ベッドに横になってぼんやりすれば、すぐに眠りへと落ちるだろう。


「あ、あの、これで私は、本当に?」

「ええ。約束は守ります」


 目を赤くしているマリさんをよしよしと抱きしめる。

 慈母のような姿のカルラちゃん。

 そんな彼女は僕へと首を向け、いたずら好きそうな笑顔を浮かべてこう言った。


「では、プランBで」

「了解だ」


 もともと彼女が死ぬ目は多くなかったのだが。

 より盤石にしよう。

 僕は生贄少女のマリさんをカルラに預け、とりあえず眠りについた。

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