第6話「収束する確率」
灼熱の夜になった。
マリさんは波乱万丈といっていい人生を歩んだ。
魔族のハーフとして生まれ。
親に捨てられ。
所持金はゼロスタート。
結婚に制限がかかり。
職業も限られ。
代わりに無尽の体力と、昇進のチャンスとが与えられた。
彼女は成人と共に冒険者の道を選んだ。
「私は生まれ変われるなら冒険者になりたかったのです」
マリさんは誇らしそうにそう言った。
冒険者は貧者の職業だ。
カルラゲームにおいてもそれは変わらない。
だいたい6回ぐらい昇進すると大金が稼げるのだが。
そこまで育つのがきつい。
序盤の昇進チャンスで全部あたりを引かないと割に合わないぐらい。
相当にピーキーな職だ。
しかし、駒にマリさんの人生が乗り移っているせいか。
彼女は昇進のダイスロールであたりを引き続けた。
外れた時には僕からチャンスカードをねだり、サイコロを何度もふった。
裏取引を繰り返して出世街道を進んだ。
最上級冒険者になった。
単独で大型魔獣を撃破し、ゲーム前半で領地を得るほどにまで上り詰めたのだ。
ちなみにカルラは場末のダンサーのままゲーム前半を終えた。
中盤から一気に盛り返し、鬼のように昇進ダイスを当ててメジャーデビュー。
晩年はアイドル活動の知名度を生かして政治家に。
しかしその時のマリはすでに領主だった。
カルラに勝ち目はない。
人生ゲームは社会の縮図である。
中盤までについた積み上げた財産の差は、終盤になっても決して覆らない。
ってか、このゲーム、絶対考案したのカルラだろ。
前世の影響が強すぎる。
僕は起業の道を選んで商人になったのだが。
不動産投資に負けて破産の連続だ。
不渡りを出し続けた僕は借金漬けになり、大量の支払手形を手に入れた。
銀行プレイヤーであるカルラに利息が流れていく。
みじめだ。
なぜこんなことに。
てゆーか、ダイスの出目が悪すぎだろ。
確率6分の5で勝てる賭けが10回ぐらいあったのに。
8回も負けるとか。
なんだこのクソゲーは。
「ダイスにイカサマでも仕込んでるんじゃないのか?」
「そんなことしませんよ!」
「ほんとに?」
「ほんとです。てゆーか、この手のゲームで私レベルに運がない人って、見るのはじめてだったりしますけど」
カルラは感心したように僕を見た。
おかしい。
理不尽だ。
確率が偏りすぎている。
暇なのでメモに取って検証してみよう。
10C2に6分の1の8乗をかけたとする。
45割る1679616。
答えは0.0000268。
およそ4万回に1回。
うーむ。
ありえないほどではないのか?
『財力ステータスが高すぎる弊害だね』
『なんだそれは?』
『現実世界での運を操った反動で、現実と関係ない場所に反動が来てるんだよ。よーするに、上級貴族に生まれた分の負債を今払ってるってこと』
『初耳だぞ』
『まー、私も今はじめて知ったぐらいだし。この世界のシステムはわかりにくいよね』
すると、なにか。
カルラや僕は、この手のゲームにおける運に逆補正がかかるのか。
やばいな。
システムとやらを舐めていた。
この世界は現実だと今まで信じていたのだが。
案外そうでもないのか。
『つーか、財力ステータスは外部環境のみに影響するって話じゃなかったか?』
『私もそう思ってたんだけど、違うみたいだね』
『不安すぎだろ。ちゃんと仕事しろよ。世界システムの翻訳機能はどーなったんだ』
『別に嘘はついてないよ。見えないどうでもいい場所には影響があるってだけ。君って魅力とか低いから、ほら、人生ゲームではモテモテだったじゃん』
確かに。
僕はカルラゲームで5人の妾を持った。
ぜんぶ押しかけ妻だ。
しかも僕に財産を貢いでくれている。
その金はことごとく、僕が商売で失敗し続けて溶かしてしまったわけだが。
むなしい。
ゲームでもててどうするのだ。
現実でノエルちゃんといちゃいちゃするのがいいのに。
ぺたぺた触りたいのに。
ぺろぺろと全身くまなく舐めたいのに。
まあいい。
しょせんはゲームのことだ。
現実とは関係ない。
そう決めた。
魅力が低いからダイエットしても無駄だというなら、あまりにも悲しすぎる。
僕は頭を切り替えて、人生ゲームに集中することにした。




