第5話「賞品は人生で」
「ところで、賞品はどうしましょうか?」
ルールを把握するための練習プレイの後。
人生ゲームの賭け代について。
カルラから提案があった。
「人生ゲームなのだから、勝利報酬は人生がいいですよね?」
巫女さんのほうを見ながらカルラがそのように聞く。
意味のわからないセリフだ。
人生とは。
いったい何なのだろうか。
美少女巫女のマリちゃんも困惑顔である。
「本来は金貨で支払うものなのですが、生贄さんの場合はそれでは喜べないかと思いまして。使うあてもないですし」
それはそうだろうな。
マリは生贄だ。
明後日には死ぬという人間が財産などため込んでいても意味がない。
「マリさんでしたっけ」
「はい」
「あなたが勝った場合、あなたの人生が明後日からも続くようにしてあげます。それが報酬でどうですか?」
「……っ!」
生贄少女のマリが顔色を変えた。
なるほど。
どうやら生贄になるのは嫌なようだ。
当然か。
溺死は苦しいものだし、いかに神秘の皮をかぶっても本能までだませはしない。
「……私は生き延びたとしても、この村で生きていくことはできません」
「だいじょぶです。私の領地でかくまってあげますので。なんの問題もなく暮らすことができますよ」
カルラは安請け合いをして親指をぴっと立てた。
任せろと言いたいらしい。
それを見た巫女姫のマリに喜んだ様子はない。
むしろ与えられた屈辱をかみしめるかのように、ぷるぷると震えている。
「カルラ様は残酷です」
「どうして?」
「私は知っています。ゲームとは素人が勝てるものではないということを」
「そんなことないですよ? むしろ私、この手のゲームは弱いです。いままで何回もやりましたが、勝率は1割ぐらいでしたか」
確かに。
ハンデなのかどうかは知らないが、カルラはチャンスカードを使わない。
ダイスの目に従って進むだけだ。
純粋な運によるパワープレイである。
仮に本番でもそのままだというのなら。
マリに最低限の知能があれば勝つことができるだろう。
しかし、どうだろうな。
しょせんは学のない僻地の巫女姫なわけだし。
生きている魔族ハーフには優秀な者が多い、というのはあくまでも基本である。
優秀でなければ死ぬからそうなっているだけで。
巫女姫としてぬくぬく暮らしていたマリが優秀だとは限らない。
「私は負けた時に差し出せる対価を持っておりません」
「いやいや、別にそれはいいですよ。誰も妖怪ゼニナシから徴収しようとか思ってないですし。レンから取り立てるので大丈夫です」
「おいおい」
なんで僕が払うんだよ。
そのような視線でカルラを見ると、すぐに返事が返ってきた。
「だって、この生贄ちゃんってレンの領地の人でしょう? つまりレンの財産。私はこのゲーム、実質的には2対1の戦いだと認識してますけど」
「お前がそれでいいなら、かまわんが」
「私が勝ったらお金をもらいます。マリさんが勝ったら人生を。レンが勝ったら、まあ、お金でいいですよね?」
金か。
別にそれでもいいが。
僕は金に困ってはいないのだ。
この場合の報酬としては、むしろ金では買えないものを求めたいところである。
「カルラのおっぱいをつんつんする権利でもいいぞ」
「それは高すぎです。掛け金が跳ね上がりますよ」
「いくら?」
「レンの命と等価」
「高すぎる!」
「むしろ自己評価をいくらに設定しているのかが気になるところですが」
「僕が死んだらエニウェア侯爵領の民はどうなる!」
「どうなるって、別にどうもなりませんよ。政治混乱で税金が1%ぐらい上がって苦しくなるかもしれませんし、最悪だと内乱勃発で5%ぐらいの被害はあるかもしれませんけれど。それで死ぬ数は100万人以下じゃないですかね」
それでも、1万人ぐらいは間接的に死ぬはずだが。
むうう。
これは、僕が自意識過剰でお高く止まりすぎているのか。
それとも1万人の命と等価というカルラのおっぱいが高いのか。
判断の難しいところだな。
つーか、おっぱいつつくだけで僕の命を狙うなよ。
許容値低すぎだろ。
あんまり自分の値段を釣り上げてると、嫁の貰い手がなくなるぞ。
いや、まあ、カルラは貰う側だから、その心配はいらないのかもしれないが。
「まあいい。今回は金で済まそう」
「妥当なところです」
話がまとまった。
と思われたのであるが。
「待ってください!」
生贄少女のマリは突如として瞳を燃え立たせて叫んだ。
「その、本当に私が勝てば明後日から生きられるのですか? 嘘ではなく?」
「もちろんです。公爵令嬢カルラの名誉にかけて、マリさんの命を保障します」
「後からなしだなんてことは」
「しません。今の取り決めはここにいるレンも聞いているので。自分の信用を減らすようなことはしないです」
「……ルールの再確認がしたいです。練習プレイをもう一回増やしてください」
「ふむ。まあ、夜は長いですからね。いいですよ」
カルラは嬉しそうに笑った。
おお。
この要求さえも呑むのか。
前から思っていたが、カルラは貴族以外の庶民に対して少し気安すぎる。
今までの付き合いの中でなんとなく察しているのだが。
彼女は人の情熱に触れることを喜ぶ。
ゲーム代金をつりあげるのは、何かに必死になっている人間を見たいからだ。
カルラは礼儀を気にしない。
相当に無礼な態度をとったとしても許す。
人形のような無表情よりも、我意を押し出して叫ぶ人間を好む。
そういう性質の人だった。
もっとも、それはあくまでも民間人に対してだけ。
部下についてはその限りではない。
マリは民間人。
ただの他人である。
そういう相手と付き合う時にのみ、カルラは子供のような無防備さを見せる。
人としては好感が持てるかもしれない。
貴族としては隙がありすぎる。
ただ、カルラの仲間たちはそういう隙の部分から近づくことができる。
彼女の近衛には民間人出身の者が多いということだが。
納得のいく話だった。
さて、そんなカルラに焚きつけられた、生贄少女のマリさん。
彼女はマジだ。
目がもう本気である。
よっぽど死にたくないらしい。
人生地図の説明文とチャンスカードを見つめ、必死で戦略を練っている。
まあ、そうだな。
それでこそ、というべきか。
ゲームは必死でなければつまらない。
そういう意味において、僕よりもよっぽどプレイヤーとしては適材だ。
僕はというと。
特に勝っても得られるものがないため。
練習の間は舐めプで流しながら、全力でがんばるマリさんを観察して楽しんだ。




