第3話「処女じゃないけど」
ヘルシイの村は人口7000。
川の傍の沼沢地に家々が点在している。
特産物はコメ。
沼地に種をまいて収穫するという原始農法だが、広いので問題はなかった。
自然が豊かなので食べ物に困るということはない。
土地はうなるほどある。
本来ならば10万人を養える土地に7000名ほどしか住んでいないのだ。
水害で苦しむことを差し引いても、気楽に暮らしていける。
そういう恵まれた場所だ。
「これはウォーレン様! ようこそいらっしゃいました!」
ヘルシイ村の村長。
深いしわの刻まれた50代男のホプキンが僕たちを歓迎した。
「このような僻地に足を運んでいただいたこと、なんという栄誉でしょうか! このホプキン、身の震えるほどに感激しております!」
目に涙を浮かべながら僕を熱い目で見つめるホプキン。
忠臣っぽい顔だ。
あくまでも見た目だけは。
村長宅の前にずらりと使用人を並べて頭を下げさせている。
外見のハッタリなら及第点をあげてもいいだろう。
が、だめだ。
こいつはいらん。
本当に忠臣なら、治水工事の不手際を詫びて地に頭をこすりつけている。
責任感ゼロでおべっかだけが特技とか。
うぜえ。
こういうやからをひいきすると、他の部下の士気まで落ちてしまう。
「長きにわたる村長職、ご苦労なことである」
「ははっ」
「在任中、何か問題はあったか?」
「それでしたら」
ホプキンは揉み手をしながら僕を見た。
「ウォーレン様が連れてこられた兵ですが」
「うむ」
「なんとかならないでしょうか」
「なんとかとは?」
「村の者どもが不安がっております。兵士とは粗暴なもの。乱暴されることを恐れて外も出歩けぬほどでして、せめて武器だけでも預けていただければと」
「はあ?」
いったい何を言ってるんだこいつは。
バカじゃないのか。
ああ、バカか。
ノエル級のバカだな。
僕は失笑しながら隣の女の子を紹介した。
「こちらはブロッコリー公爵家の令嬢で、公爵家の次期当主だ」
「カルラです」
「ははー!」
ホプキンが頭を下げた。
勢いがいい。
めちゃくちゃびびっている。
粛清公女カルラの名前が響き渡っているせいかどうかは知らないが。
僕の時の倍増しくらい、身も心も恐縮している。
「彼女の護衛には200名でも不安がある。万が一傷つけでもしたら10人20人の首が飛ぶだけではすまん。徹底的に周知させておけ」
「ははっ! かしこまりました!」
「お前の命など彼女の機嫌に比べれば些細なものだ。それを間違うなよ」
「し、失礼しました。兵士はそのままで結構です!」
「当たり前だ」
つーか、兵士に口出しするのはお前の管轄じゃねーだろ。
風紀の乱れについての話ならまだわかるが。
武器を預けろとか。
何様だ。
こいつまさか、マジで僕の暗殺でもたくらんでるんじゃないのか?
とはいえ、指摘する必要はない。
教育とは今後使っていく部下のためのものである。
ホプキンは最後まで何も知らないまま村長を辞めることになるだろう。
「僕たちが来たのは、観光のためだ。そろそろ水神にささげる生贄の儀式がはじまるということだな」
「はい。明後日からでございます」
「手順を教えてくれ。それから、僕たちが見て楽しめるように場所を作るように」
「かしこまりました」
どことなくほっとした顔のホプキン。
ああ、あれだな。
自分が処刑されるかもしれない立場なのは理解しているわけか。
それで正解だ。
せいぜい今のうちに、楽しい余生を過ごしておくといいぞ。
「ところで、村長よ」
僕はちょっとおどけた感じでホプキンに身を寄せた。
「聞くところによると、生贄というのはたいそう美女であるそうな?」
「ははっ。村で選りすぐりの者に白羽の矢を立ててございます」
「見たいな」
「と、おっしゃりますと?」
「わかっておろう。今夜にでも機会を作れ」
「ははっ! このホプキンに、万事お任せくださいませ!」
何も言わずともその意を察したらしく、ホプキンは自信満々でうなずいた。
夜になった。
村の夜は静かである。
虫の声や川のせせらぎが聞こえる。
僕はぼんやりと星を見た。
きれいだ。
前世では電灯に打ち消されていた無数の星々が、夜空にきらめいている。
「ウォーレン様」
「来たか」
僕は腰を上げ、深夜の密会を楽しむことにした。
「こちらが生贄に選ばれた巫女姫です」
「マリと申します」
生贄少女のマリがぺこりと頭を下げた。
気配がよどんでいる。
ハーフか。
若干だが魔族の血が入っているのかもしれない。
黒髪赤目のやせ女で、どことなく東洋的な雰囲気の美少女だ。
まあ、生贄に選ばれるぐらいだからな。
何かしらの事情はあるだろう。
彼女は人間に近い。
むしろ外見的にはほとんど区別がつかない。
魔力感知が得意な者ならかろうじて、という程度の魔族ハーフである。
服装は白衣と緋袴。
を、ちょっとファンタジーっぽくエロくした感じの衣装だった。
太ももや腹などがわずかに見える。
チラリズムをわかっている。
神秘性とエロさを両立させた、けしからん仕上がりの服だ。
「なかなか美しいな」
「ありがとうございます」
「今夜は僕の暇つぶしにつきあってもらおうか。さあ、来るといい」
「はい。よろしくお願いいたします」
手に触れる。
やわらかい感触だ。
荒れていないし、しっとりと湿っている。
生贄の巫女は一年ほどちやほやされてから川に沈められるらしい。
巫女姫という呼称は別に伊達ではないのだ。
マリは僕に手を引かれながらしずしずと夜道を歩いた。
話しかけると丁寧に受け答えをする。
声が涼やかだ。
神秘的な雰囲気をまとっている。
全体的に礼儀正しいが、ハーフなら誰でもその特徴を持っている。
ハーフは礼儀正しい。
そうでなければ死んでしまう。
どの組織にあっても社会的弱者はみんなそうである。
傲慢が許されるのは子供と強者だけだ。
『しかし、すごい神秘オーラだな。妖精さんも見習うといいぞ』
『巫女だからね』
『僕はこういう大和撫子的な女の子が超好みだ。今回のことが終わったら側室に誘うのもありか』
『ノエルのことは?』
『どうにでもなる』
妖精さんが軽蔑したような目で僕を見た。
おいおい。
処女すぎだろ。
もともとノエルが僕と寝るのは義務なのだし。
断られるほうが異常だ。
『嫌われると思うけど』
『それは困るが、僕にも性欲というものがあるのだ。さすがにそろそろ発散せねばならん』
『巫女さんでそれを解決しようってわけ?』
『そういうことだ』
『不誠実だとは思わないの?』
『思うが、いい加減我慢の限界だ。いつまでもやらせないノエルが悪い。ノエルがだめなら、他の処女で代用せねばならん』
最近は好感度が上がっているようだし。
多少は強引に迫ってもいいな。
領地にいる間に誘って、それで断られたら巫女さんで代用することにしよう。
うむ。
我ながら完璧な計画だ。
『でもこの子、処女じゃないけど』
妖精さんがいらんことを言った。




