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第5話「近衛兵を使おう」

 約束の日時になった。


 ウォーレン親衛隊の総数は50名。

 うちの正規兵は10名。

 見習いが40名。

 僕の住んでいる屋敷に集まったのは、そのうちの37名であった。


『うわ、ほんとに来てないし』


 妖精さんはあきれ声でつぶやいた。

 そりゃーあきれるだろう。

 僕の親衛隊メンバーには普段、訓練して自らを鍛えよと命じている。

 持っている仕事はない。

 つまり暇人だ。

 彼らが集合日時に遅れたのであれば、それは単なる怠慢以外にはありえない。


『どうするの?』

『ひとまずは一日待つ』


 集まった人間を呼び出して能力を確認し、そして採点をつける。

 とびぬけて優秀なのは20名ほど。

 うち10名が正規兵。

 さすがに彼らは全員集まっている。

 僕の父から直接紹介された人員であるため、能力も忠誠心も高い。


 見習い27名のほうは、まあ、玉石混交というところ。

 食客や民間人から引き抜かれた連中は強いかわりに忠誠心が低い。

 縁故採用の場合だと能力に問題がある。

 一長一短。

 誠実さと有能さを兼ね備えた兵士もいるようだが、決して多くはないようだ。


 来なかった人員は……だいたいが縁故採用か。

 ウォーレンが過去に抱いた女の親戚とか推薦者とかがそれである。

 彼らは能力が低くて忠誠心も低い。

 正真正銘のゴミだ。

 まとめて解雇でいいだろう。


 さて。

 仕事をはじめるか。

 一日も猶予があれば、37名の顔と名前を一致させるなんてわけはない。


 翌日の朝、僕は全員に旅支度を命じて広場に集合させた。


「フィル、サディアス、ユアン、セリーナ、スティーブ…………」


 僕は親衛隊の名前をいちいち呼びつけて目線を合わしていく。

 別に遊んではいない。

 これは好感度を稼ぐための一手である。

 名前も覚えてもらえない主に仕えるなんてまっぴらだ。

 そのように感じる慮外者もけっこういるので、こちらから配慮しておいた。


「以上37名。お前たちを僕の近衛兵として認める。この場に遅れた者に対しては処分があるだろう。以後、僕の信用を失わないようにつとめよ」


 僕は威厳を込めてそのように命令した。

 つもりだったのだが。

 反応は様々だ。

 やはりデブで不摂生な15歳の若造がいうことなので、言葉の重みがない。


 どこか困惑したような表情を浮かべる者。

 顔を引き締めてうなずく者。

 好奇の目を向ける者。

 よそ見をしてぼんやりとしている者。

 明らかに嘲笑と分かる種類の笑みを浮かべる者。


 まあいい。

 今はそれでいい。

 いずれ全員が僕に敬意を払うようになる。

 そうでなければ解雇だ。

 誠実さが足りない者は、僕の近衛には必要ない。


「これより、アマールの村に向かう。集合は2日後だ」


 クロノの港を出て目的地へと向かう。

 距離にして100キロ。

 けっこうな強行軍である。

 近衛なら1日100キロぐらいは楽勝だ、などとカルラは言っていたが。

 実際にやるとつらい。

 朝から晩まで走りっぱなしのため、下の方の人間はへとへとだ。


 なんとか初日の夜に村へたどり着いたため、そこで宿を確保する。

 アマールの村は人口1700名ほど。

 放牧と農業だけが仕事という重要度の低い村だ。

 土地がやせている上に平坦な場所ではないので、作業効率は極めて悪い。


 それに加えて。

 今は活気もない。

 盗賊に襲われて困っているそうだ。

 治安維持と人気取りとをかねて、まずはこの問題を解決することにしようか。


「明後日から山狩りを行う。おのおの準備せよ」


 僕がそのように告げると、集まった近衛はバカな主君を見る目で僕を見た。

 気持ちはわかる。

 山の奥深くに潜む盗賊を見つけるのは難しいものだ。

 ほとんどの場合は徒労に終わるだろう。

 父から紹介された練達の兵でさえ、積極的には賛成しなかった。


「ウォーレン様、意見をよろしいですか?」

「許そう」

「山狩りは危険なだけでなく困難です。あてもなく探して盗賊を見つけられる可能性は低いと言わざるをえません」

「なるほど。よくわかった」

「では?」

「作戦に変更はない。出発は明後日の朝7時である。入念に準備せよ」

「承知いたしました」


 意見してきた近衛兵はそれで引き下がった。

 ずいぶんと不服そうだ。

 顔には出さなかったが空気でわかる。

 賛成しているのであれば、無表情ではなくやる気に満ちた表情に変わるものだ。


「明日までは自由行動とする。村で使えそうなやつでも探しておけ」


 僕はそう言ってその場を後にする。

 近衛の反応はいまいちだ。

 やる気はない。

 命令には従うだろうが。

 おそらく積極的に何かする気はないだろう。

 

 まあ、仕方がないな。

 これまでずっと放置してきたバカ君主こそが僕なのだ。

 急にやる気を出したところで無駄だろう。

 上の気まぐれに付き合うのは疲れるぜ、ぐらいが正直な感想というところか。


 ふむ。

 だったら、準備のほうもある程度僕がやるしかないな。

 もともとそのつもりだったし。

 僕は護衛を連れて村長の家に行き、そこで人と物資とを受け取ることにした。

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