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第2話「貴族とは」

『まず、貴族のランクはわかるか?』

『それぐらいは。ステータス設定とも関係するし。公爵が一番偉くて、騎士が一番下だよね?』

『そうだ。一番偉いのが公爵で、次から侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士という並びになる。僕は上から二番目の侯爵家だ』

『で、その上に立つのが王様ってわけだよね?』


 妖精さんがいきなり妄言を吐いた。

 おおう。

 そこからか。

 香山美咲には本当にこの世界の知識がないのだな。

 貴族なら10歳ぐらいまでには教えてもらえるのだが。

 夏休みが終わったら、歴史の授業とかに出席するべきなのかもしれん。


『現在、紅眼族の国には王様がいない』

『え、でも、カルラが今住んでるのって、5代魔王とかの息子の屋敷なんじゃないの?』

『昔はいたのだ。今から200年前か。伯爵家の次男だった赤の傀儡師が全ての貴族に服従を誓わせて大陸北部から中央部までを制圧し、5代魔王を名乗った。彼が死んでから現在に至るまで、魔王は一人も出ていない』

『魔王って何なの?』

『大陸の支配者のことだ。エロゲマ大陸の三分の二程度を支配した勢力のトップがそう呼ばれる』

『全部制圧しなくてもいいってこと?』

『その通りだ。有史以来、それを達成した王は一人もいない。今後もおそらくないだろう』


 なにせ、大陸南部に巣食っている青眼族は紅眼族にとっての不倶戴天の敵だ。

 やつらは死ぬまで抵抗する。

 絶対に降伏などしない。

 交渉によって土地から追い出すことはできても、根絶は困難なのだ。


『よーするに、公爵がトップってことだよね。何人いるの?』

『公爵は3人だ。侯爵は7人。伯爵は58人。子爵は300人ぐらい。男爵は2000人ぐらい。騎士は15000人ぐらいだな』

『めちゃくちゃ多いね!』

『人口自体が多いからな。前世の貴族と同じ感覚でいると間違うぞ。公爵家ってのは領土人口で1億人ぐらいはある。それがみんな公爵の財産なわけだ』

『うわー』


 妖精さんは感嘆したようにつぶやいた。


『侯爵家だと、領土人口は3000万から5000万ぐらい。伯爵はまちまちだが平均して500万ほどだ。子爵は100万。男爵は15万。騎士はほんとうにピンキリだが、強いて言えば2万人ぐらいかな?』

『2万ってゆーと、町長さんレベル?』

『まあそうだ。騎士が町を支配して君臨する、なんてことはめったにないけどな。普通は騎士同士で組んでもっとでかい組織を作ることになる』


 もともと騎士というのは、200人ぐらいの集団で固まって世の中に出てくる。

 そこから国盗りの過程で集合離散して変形する。

 最終的にどのような勢力に育つのか、それは神のみぞ知る世界だ。

 伯爵まで行くこともあるし。

 若くして死んでしまうということもある。


『貴族の領地ってのは国から与えられるものなの?』

『そうではない。領地は武力で奪って手に入れる。同じ貴族に戦争を仕掛けてぶんどるか、もしくは支配者がいない空白地帯に兵を出して切り取るかだ』

『支配者のいない空白地帯なんてあるの?』

『ある。市民によって革命されてたり、敵軍を恐れて放棄したり、他の民族によって支配されている土地なんてのがそうだ。もちろん紅眼族以外の支配者はいるわけだが、それは問題にならない』

『土地から追い出せばいいってわけね』

『そういうことだ』


 まあ、実際には追い出すというか、殺してでも奪い取るわけだが。

 旧支配者が生きていると面倒ごとが起こる。

 家臣については懐に入れるとしても、支配者一族は殺しておくにしくはない。


『貴族ってどうやったらなれるの? 世襲オンリー?』

『そんなことはない。騎士は毎年300人程度が叙勲される。そのうちの200人が王立魔法学校の卒業生だ。彼らは大量の資金援助を受けて軍を編成し、大陸中央部へと進軍する』

『そこで戦って領地を奪うってわけ?』

『そういうことだ。卒業生のトップ3は男爵スタートになるし、武功があればさらなる昇進も望める。侯爵まで成り上がった例はここ200年間ないが、伯爵ならそれなりにある』


 ようするに、才能と運に愛された一般人のゴールが伯爵ということだ。

 野心のある人間は全員ここを目指す。

 15億人の頂点であればそこにたどり着ける。

 僕は生まれた時から侯爵家なので、何もしなくてもその上に立つわけだが。


『騎士の残り100人はなんなの?』

『学問や文化の発展に尽くした者や、大商人、英雄的な活躍をした兵士、大貴族の推薦を受けた者なんかに与えられる。王立貴族学校の成績トップ10とかも叙勲されているな』

『それだと増え続けるだけにならないかな?』

『いや、騎士は死ねば世襲されない。男爵以上の場合は次期当主に引き継がれるが、それも永遠というわけじゃない』


 実のところ、貴族社会の勢力図はここ200年間ほとんど変わっていないのだ。

 毎年増えた分だけ常に減る。

 そういう風にできている。


『爵位がなくなることってあるの?』

『ある。めったにないが、たまにはある。爵位にふさわしい領地を保てなくて降格したり、極端な不祥事を起こして騎士位をはく奪されたりだな。王立魔法学校が編成する南征軍への支援金を出せなかった、というのも降格の理由の一つだ』

『はく奪って、王様はいないんでしょ? 誰がするの?』

『3公の合議で決まる。一応7侯爵が全会一致で抗議すれば覆るが、そんなことは起きん。実際には3公のうちの2人が委任状を書いて、残りの1人が全てを決めるというケースが多いかな』


 なにせ、世界は広い。

 移動するだけでも一苦労なのだ。

 何かを決めるためにいちいち集まるのは現実的ではない。


『1人に任せるって……そんなことがありえるの?』

『もちろん自分勝手に決められないように代弁者は出すし、要望書も出すだろうけどな。3公が仲たがいすれば、困るのは3公自身だ。基本的に上級貴族同士は蜜月関係にあると思っていい。彼らの敵は庶民や下級貴族達に限られる』

『庶民は貴族の敵なの?』

『もちろんそうだ』

『庶民の味方をする貴族とか、いないの?』

『建前として標榜するのであれば全員が庶民の味方だ。そうでない貴族はいない』

『本音のほうは?』

『下賤で気持ち悪い生き物だ。頭が悪いし、言いたいことだけ言う。さっさと滅びればいいのにと思うが、それをすると貴族も困るからな。奴隷として身の程をわきまえて生きてくれればというところか』

『うええ、ひどい話だねえ』


 妖精さんが引いている。

 そりゃそうか。

 しかし、さすがにそんなことを公言する貴族は少数派だ。

 反感を買うのはまずい。

 最近では庶民の力が向上しているようだし。

 歴史的にはそろそろ、市民革命とかが起こりはじめてもおかしくない。


 まあ、この世界では貴族の力が強いので、革命は起こらないのかもしれないが。

 カルラはどうだろう。

 原作知識を持っているという彼女なら、何か知っているのかも。


 聞いてみるべきかもな。

 場合によっては領内の締め付けを強化し、庶民から力を取り上げる必要がある。

 多少国力が落ちたとしても。

 革命が起こると確定しているのであれば、そのほうが結果としていいはずだ。

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