第6話「お別れです」
「それじゃあ、魔物退治をはじめるか」
「はい。まずは聖域北側をナワバリにしているギガントオークをやりましょう」
なかなか好戦的だな。
まあ、ダンジョンに住んでいるのだ。
それぐらいでなくては生きてはいけないだろう。
僕達はツバキの案内を最大限に生かし、強力な魔物達を次々と屠っていった。
身長4メートルという巨体を持つギガントオーク。
骨ごと喰い千切る咬力を持つレッドタイガー。
岩を割る拳のダンジョンゴリラ。
2メートルを跳躍する首長走竜。
刃を跳ね返す外殻に身を包んだアイアンビートルや大蠍など。
いずれもダンジョン浅層ならば出会うことさえない強力モンスターである。
とはいえ、こちらは常に万全だ。
聖域の魔力補給があるし、装備も充実している。
ツバキの情報もある。
あらかじめどういう戦術が有効かがわかっているので、対策を立てやすかった。
柔らかい相手には弓を。
固い相手には槍を。
素早い相手には網や毒玉などを使い、かんたんに処分していく。
ツバキの働きはすさまじい。
常に最前列で動き回って斧をモンスターに叩きつける。
やたらと速い。
近衛2人に迫るほどのスピードだ。
しかも動きが精密で、魔力障壁と体さばきだけで敵の攻撃をいなしている。
僕の役割はというと、弓での攻撃か壁役だ。
ギガントオークのように強い攻撃力を持つ相手とは距離を取って戦う。
逆に動きが素早かったりする小型モンスターはやりやすい。
なにせ力が弱いのだ。
防御を全開にして攻撃を受け止めるだけで動きを封じられる。
その後で誰かに斬ってもらえば戦闘終了となる。
「このあたりのはずなのですが」
『右の通路の奥、岩陰に一匹、睡眠中』
「そこにいるようだ。右の岩陰に気を付けろ。眠っているような反応がある」
「了解です」
探索効率は過去最大をマークした。
なにせツバキと妖精さんの二人がかりである。
現地住民の案内プラス、妖精さんパワーによる魔物探し。
護衛の2人もいる。
ノエルもいる。
ほとんど間をおかずに死体の山ができ、荷車は満タンになった。
「こんなに狩りが簡単だと思ったのははじめてです」
黒髪の美少女ツバキは感心したように僕を見た。
「軍の精鋭でも、ここまでの成果はなかなか出せないものですが」
「侯爵家の近衛とはそんなものだ」
「ウォーレン様はずいぶんと謙虚でいらっしゃいますね。半分ぐらいはウォーレン様の索敵能力のおかげかと思われます」
まあ、僕の力というよりは妖精さんの力だが。
確かに強力だな。
奇襲を警戒しなくていいし、探すのにも気を遣わずに済む。
正確さはほぼ100%と言ってもいい。
これほど有利な条件で狩りができるパーティーは他にはいないだろう。
「ところで、もう十分退治したと思うが?」
「そうですね。あまり生態系を乱すのもよくありません。戻りましょうか」
どうせ新たな縄張りを求めて魔物はやってくるのだ。
無害な魔物ならいいが。
次にやってくるのが有害な魔物である可能性もある。
ちょっと迷惑、という程度のモンスターであれば生かしておくべきだろう。
僕たちは荷車を引っ張って帰還した。
そして、その夜。
僕たちは明日に備えた豪勢な夕食を取ってから。
ツバキたっての希望ということで。
昨日の夜と同じく、遅くまでカードゲームをして遊んだ。
はじめは魔族に対しての偏見があったノエルも、ここにきて打ち解けたらしい。
楽しそうに二人で笑いあっている。
まあ、年頃の女の子同士なのだ。
接点も多いだろう。
少なくとも僕や近衛より、はるかに気安く付き合える関係なのは間違いない。
翌日。
地上へと戻る僕たちを見送るため、ツバキは着物姿で現れた。
管理人としての正装であるらしい。
彼女を気に入った軍の高官がわざわざ用意させたそうで、すごく似合っている。
「ツバキさん、とても綺麗です」
「ありがとうございます」
「昨日の夜はとても楽しい時間をすごせました。よければ私を、ノエルのことを忘れないでくださいね」
「はい。ノエル様も、お元気で」
そこで一泊置いて、ツバキはまっすぐな瞳で僕を見た。
「あの」
ツバキは何かを言おうとして、そして口を結んだ。
「またのお越しを、お待ちしています」
そう言って頭を下げた。
ツバキの声が泣いている。
しかし無視だ。
世話のできないペットを拾うべきではないし、彼女はよその家の犬だ。
さっさと立ち去るに限る。
僕が背中を向けて早足に出発すると、ノエルが追いすがって声をかけた。
「その、ウォーレン様」
「なんだ?」
「ツバキを地上に連れて行くわけにはいきませんか?」
「それは無理だ」
「どうして!」
わかりきった質問であるだろうに。
聞くなよ。
いや、ノエルのことだ。
本当にわからないのかもしれん。
僕は噛んで含めるようにして説明した。
「それは、ツバキが僕の部下ではないからだ。彼女の意志が明らかでない以上、僕の一存で配置を動かしたりはできん」
「そんなの! 彼女が出奔したことにでもして、ウォーレン様が個人的に引き取ればそれで済むではないですか!」
おお。
ノエルのくせに正論を。
たしかにそのやりかたであれば、一応の筋は通る。
彼女の上司との軋轢は生むだろうが。
ツバキが本心から望むのであれば、もちろんできなくはない。
しかし。
「ツバキが僕の部下としてやっていけるとは思えんな」
「そんな馬鹿な! あの子でダメなら誰が合格するというのです!」
「能力の話ではない」
「能力以外の何が問題なのですか!?」
「種族の話だ。ツバキでは僕の部下たちと仲良くやることができん。お前自身、ツバキと話す前には魔族への偏見があっただろう?」
「それは……でも、話せばわかってもらえます!」
そりゃそうだ。
ツバキほどの優秀な人物であれば、人と付き合うことはできる。
知人に対しては仲良くやっていけるだろう。
だが。
「どうやって話すのだ?」
「どうやってって、それは、その、普通に」
「王立貴族学校の中でさえ、お前がいったい何割の生徒と話したことがあるのだ? 1000人を超えているのか?」
「そ、それは」
「世界には数十億の人がいる。その全員が思うのだ。人と違う生き物がいるのは気持ちが悪いものだと。だから僕たちは青眼族と年中戦争をやっている」
「そんなの、間違ってます!」
「かもしれん。しかし、実際に人を恨んで襲うハーフもいるのだ。ツバキも今は違うようだが、いずれそうならないとも限らない」
それに、地上に戻れば地上のしがらみがある。
人は人と自由に付き合えるわけではない。
優先順位がある。
魔族ハーフであるツバキの順位は低い。
断言してもいいが、地下よりも地上にいるほうが寂しい思いをするだろう。
「ツバキはいい子です」
「そうだな。魔族ハーフのいい子だ」
「いい子の魔族ハーフです」
「違いがわからんな」
「人として善良であることが重要だということです。ウォーレン様はそう思われませんか?」
「どうしてもと言うのなら時期を待て。お前の侍女として引き取れるように頼んでやってもいい」
「ぜひともお願いします」
ノエルはそのように言った。
ふう。
まあいいさ。
どうせ1年後には忘れているだろう。
道ばたで捨てられている犬を見た時の感傷を、人は覚え続けたりしない。
それからは口数も少なく、僕たちはもくもくと地上への道を進んだ。




