第2話「5年後に備えて」
第五ダンジョンは3日前まで閉鎖されていた場所だ。
原因はバッタの大繁殖。
それはもう。
通路を埋め尽くすほど大量にバッタがいた。
空が暗くなるほどのイナゴの群れを想像するといいのかもしれない。
今も通路は死体で埋まっている。
もちろんバッタの死体だ。
僕たち4人は死骸の園を歩き、下層へと向けてどんどんと進んで行った。
『うえええええ、気持ち悪いいいいい』
『黙って歩け』
草を踏むような感覚でバッタを踏んで歩く。
彼らの死因は餓死。
もしくは魔力切れである。
生き物である以上はエサがなければ飢えて死ぬことになる。
それはモンスターといえども決して例外ではない。
「なんだか息苦しいですね」
「魔力が減ってるからな」
「ここの探索は一般学生には難しいかもしれません」
「虫が多いからな。魔力障壁は絶やすなよ」
僕たちはダンジョンを進んだ。
バッタの群れの中から、死骸を食って繁殖する虫が大量にあふれてくる。
僕たちの血を吸おうとするやつらもいた。
全員失敗したが。
ある程度の実力者であれば全身を魔力の膜で常に覆っている。
虫の突破力では、その防御を抜けられない。
3層。
4層。
5層。
ようやくバッタの死骸が消えた。
代わって現れたのは、バッタを食って丸々と太ったカマキリだ。
「グレートマンティスです!」
「僕が前に出る。隙をついて斬り殺せ」
体調2メートルほどのカマキリの前に立ち、僕は殺虫丸を投げつけた。
握り飯程度の毒薬玉が目の前で炸裂する。
カマキリが奇声を発した。
キィキィと耳障りな音を立てている。
声があるのか。
今日まで知らなかった。
僕は大カマキリの懐に飛び込み、両腕の鎌を受け止めて封じ込めた。
「今だ! やれ!」
「はあっ!」
気合い一閃、ノエルが左の複眼を剣で刺し貫いた。
すぐに護衛が足を斬る。
カマキリは地面に倒れた。
僕は右足で上半身をガシガシと踏みつけて、カマキリにトドメを刺した。
ふう。
結構手ごわい相手だ。
中級冒険者でも一対一では後れを取るというグレートマンティスである。
バッタが大量に沸いた後にはこれが出る。
放置しておくのはまずい。
個体によっては5メートルぐらいの巨体になることもあるようだし。
その場合、上級冒険者以外では対応が難しくなる。
体重で言えば、だいたい300キロぐらい。
そのへんがグレートマンティスを危なげなく倒せるボーダーラインである。
冒険者のランクはおおむね体重で決まる。
100キロ以下だと初心者。
200キロまでが中級者。
300キロ以上が上級者という位置づけだ。
もちろん100キロ以下でも知恵と技術で倒せないことはないのだが。
なにせ安定度が違う。
何かの拍子に大鎌の一撃を受けた時、無事でいられるかどうか。
それは生き死にに直結する分岐点だ。
モンスター退治を生業とする者は、格上の相手とは絶対に戦わない。
冒険者は無理をしない。
ケガをすることさえ嫌がる。
一度負けたら死んで終わりなのだから当然の話である。
物語のように格上の敵を次々と倒していくような勇者は地上に存在しない。
いたとしてもすぐ死ぬ。
勝率10%の戦いを10回生き残れる人間は1000億人に1人。
勝率50%の戦いだとしても、30回やれば20億人に1人しか残らない。
33回やれば160億人だ。
しかもケガをしないという前提での話である。
一か月ほど毎日死闘を繰り広げれば必ずどこかで死ぬ。
世界というのはそういう風にできている。
まあ、それを気にしなかった人間も相当数いるようだが。
初期ポイント
ウォーレン・エニウェア(香山美咲)
155ポイント
25/40 277/416
残り25人です。
残り277人です。
0人殺害。
転生して1か月。
クラスメートのみなさんは順調に死んでいるらしい。
さすがにペースは落ちてきたが。
この調子だと3か月ぐらい経てば、半数を割っているのかも。
ふむ。
しかし、155ポイントか。
ここから多少増えたとして200ポイント。
寿命にして50年。
十分だ。
他の転生者がどこにいるのかも不明だし。
あるいはクラスメート同士の殺し合いなど、最初から発生しないのか。
妖精さんに聞いてみたところ、今はわからないとのこと。
あくまでも、今は。
何かが起こりそうな気はしているらしい。
システムは開始猶予期間を5年と定めているそうだ。
5年。
それはどういう意味の数字なのだろう。
5年以内に誰かを殺していないと問題が起こるのか。
あるいはその逆か。
仮に5年後に転機が訪れるのだとして、それはどういった内容なのか。
まあ、考えても仕方がない。
前世の学校のやつらは将来のエリート予備軍だ。
偏差値も高いし能力もそれなりにある。
5年もあれば、10人に1人ぐらいは才覚を表すかもしれない。
勝負はそこから、ということか。
ただ、彼らと比べれば、まだしも王立貴族学校にいる人材のほうが優れている。
頭脳では圧倒的に。
彼らが勝てるとすれば、上等のスキルを使ってのパワープレイか。
前世知識を生かしての内政チート。
そんなところだろうな。
特別に優秀なやつがいるのなら、僕が拾ってやってもいい。
しかし、それも生きていればこそだ。
今から5年。
いったい何人が生き残っているというのか。
クラスメートならば10人は残るだろう。
20人だと厳しい。
なにせもう25人しかいないのだ。
一か月生きているのであれば、それなりに生活基盤は整っていると思うが。
今はせいぜい、僕自身が生存競争から落ちないようにはしておくか。
まずはレベル上げだ。
10も上げておけば今後がだいぶ楽になる。
僕達はより多くの経験値を稼ぐため、ダンジョンの奥深くへと進んだ。




