第1話「嫌われ者のノエル」
ノエルの謹慎が解けた。
もともと一週間程度の反省期間である。
勉強ばかりしていたノエルはずいぶん体がなまっていたらしい。
復帰して早々にパーティーの募集を行った。
一緒にダンジョンを攻略する人はいませんか、と呼びかけて回ったらしい。
その結果。
応募者はゼロであった。
一人の仲間も見つけられなかったノエルは、すっかり意気消沈してしまった。
自分はこんなにも人望がなかったのか。
嫌われているのだろうか。
謹慎中にウォーレンのデブが移ったのか。
そのような疑念にとらわれたノエルは、僕の屋敷で恨み言をつぶやいた。
「ウォーレン様のせいです」
「自業自得だな」
「なんだか謹慎前とは視線が違うのです。ものすごく、なんというか……まるで敵を見るような目を向けられます」
「ノエルは庶民の敵だから、当然の反応だろうな」
「どうしてですか!? 私は何も変わっていないのに!」
少女の主張をするノエル。
いまいち自分の立場がわかっていないらしい。
相変わらず可愛いな。
人がどう思うのかということと、ノエル自身の内面は一切関係ない。
そんなのは常識だと思うのだが。
「いや、だって、周囲の目から見ればパーティーメンバーを見殺しにして自分だけのうのうとしている貴族ってことなんだぞ? 挽回のしようはないだろ」
「私は最大限かばいました! 謹慎もしました! できることは全部やっていたつもりです!」
「貴族から見ればそうだな」
「だったら!」
「しかし、庶民から見れば誰もそうは思わん。結果としてお前は自由の身だし、お前のパーティーは全滅状態だ。これを差別と言わずになんという」
「それは……だって、そんなの、どうしようもないじゃないですか」
「そうだな」
ノエルはしゅんとうなだれた。
今まで庶民のヒーローだったノエル。
気に食わないウォーレン侯爵子息にたてつく民意の代弁者。
だから人気があった。
僕との仲が悪いというのもいい。
貴族が不幸であればあるほど庶民は嬉しいものだ。
ブタ侯爵の犠牲になった悲劇のヒロインとして、一定の需要もあっただろう。
が、先の事件によってその立場は失われた。
ノエルは貴族側になったのだ。
当然、庶民からは蛇蝎のごとく嫌われる。
今までノエルが反貴族運動を続けられたのは、僕がそれを許していたからだ。
ウォーレンはノエルを甘やかしていたと言ってもいい。
ノエル本人はそう思っていなかっただろうが。
貴族から見ればそうなる。
庶民の味方をする貴族というのは、貴族からしてみれば完全な裏切り者なのだ。
よく庶民の味方をする貴族、というのが物語に登場する。
現実でもたまにいる。
バカな話だ。
自分がどの勢力に属しているのかもわからないから、そういう愚行に走る。
貴族の味方はあくまでも貴族だけである。
それを忘れて民衆につこうとしても、結局どちらからも嫌われるだけで終わる。
人は自分より上の人間を許さない。
誰にでもプライドはある。
ノエルが彼らと友達になるためには、僕との婚約をやめて庶民になるしかない。
そうでなければ敵だ。
恵まれた立場にいる人間というものは、ただ存在するだけで人を不幸にする。
「ある意味では、都合がよかったんじゃないか? この段階でノエルに近づく奴は一か月以内に退学になったはずだし」
「そうなのですか!?」
「いや、だって、現状だと傷心のノエルに取り入って僕を探らせるぐらいしか利用価値がないだろ。今のお前と仲良くしたい奴は腹に一物あると見て間違いない」
「そんな……みんながそうではありません!」
「それはそうだ。しかし見分けはつかん。人を見る目がある、なんて言うやつは、自分が馬鹿だと公言しているのと同じことだ」
嫌われ者にあえて近づこうというのだ。
体目当てか。
利用するつもりか。
どちらかしか選択肢はない。
今のノエルに近づけば庶民の不評を買う。
そんなリスクを冒してまで近づく人間に、下心がなかろうはずがない。
まあ、もちろん純粋な友達だっているかもしれないのだが。
ノエルと同格の貴族なら問題ない。
もしくは婚約者仲間の格上相手とか。
ノエルにはそういった世界の人間と付き合ってほしいものだ。
「まあ、そのうちノエルにも金と人事権を渡すから。その力で何かやってみるといい」
「わかりました。時期を待ちます」
「部下を使うのはいいが、友達は使うなよ。そいつらは役には立たんぞ」
「覚えておきます」
「ま、とりあえず体を動かして遊ぼうぜ。ダンジョンに潜るんだろ? また僕のパーティーに入れよ」
「それは、その、迷惑では?」
ノエルが口ごもったので、僕は彼女の手を取ってしっかりと視線を合わせた。
「お前は結構動けるからな。その力を頼りにしている」
「……なんだかウォーレン様が魅力的に見えて、自己嫌悪してしまいます」
泣き笑いのような表情を浮かべてから、ノエルは力強く僕の手を握りしめた。
うむ。
どうやらやる気が出たようだ。
それでいい。
落ち込んでいるノエルも可愛いが。
活動的に動いているノエルのほうが、やはり見ていて美しいと思えるからな。
「それじゃ、行き先を決めるか」
「今からですか?」
「もちろんだ」
「ウォーレン様は女の子の都合をまったく考えませんね」
「嫌なのか?」
「いえ、むしろありがたいです。どこを攻略しましょうか?」
僕たちはさっそくダンジョン攻略の作戦会議を開き。
1時間ほど協議を進めた後。
いつもの護衛2人を呼んで、第五ダンジョンの攻略に入ったのだった。




