第7話「ぺろぺろ」
「言い分を聞きましょうか」
肩を抱く僕の手をぺしっと払った後。
カルラは距離を取り、仁王立ちになって僕をにらみつけた。
「あれ? ここは感謝されるべき場面のはず」
「感謝ですか。それはそうですね。助けていただいてありがとうございます」
「いえいえ」
「でも、最初のほう、私を見捨てて逃げようとしませんでしたか!?」
「そんなこともあったかな」
僕はすっとぼけた。
困ったな。
どうやらカルラの思い描く理想の展開とは違っていたらしい。
一体何が悪かったのか。
凌辱願望を持つカルラの欲求を、僕は完全に満たしていたように思うのだが。
少しだけ先の騒動を思い出してみる。
ふむ。
なるほど。
よく考えればカルラが怒っている理由は明らかだ。
僕は反省した。
「すまん。もう少し助けるタイミングを遅らせるべきだった」
「はい!?」
「つまりカルラは、あの状況をもっと楽しみたかったんだろ? 服を脱がされたり、触られたり、殴られたりしてから助けに入るべきだった」
「違いますよ!? 逆です! 逆! もっと早く助けてほしかったのです!」
「どうして?」
「どうしてって……いや、その疑問のほうがどうしてなんですけど!?」
「ドキドキしなかったか?」
「しましたよ! ドキドキしました! めっちゃ怖かったですし! いったいレンは私を何者だと思っているのですか!?」
ふうむ。
カルラがあの状況で怖がる意味がわからないのだが。
僕はもう少し考える。
ああ、そうか。
凌辱願望というのは公言できる趣味というわけではないし。
もしかするとカルラは、自分の中にある異常性癖に気付いていないのかも。
異常性癖は異常性癖として。
常識は常識として混在しているのか。
僕の中にいるウォーレンのようなものだ。
ウォーレンを優先する場合もあるし、僕を優先する場合もある。
それは気分しだい。
カルラもそうなのだろう。
先のケースだと、あくまでも単なる女の子として助けてほしかったわけだ。
「すまんな。助けに入るのが遅れた。許してくれ」
「え、えええー」
カルラはものすごく納得いかない表情で僕を見た。
「レンは何もわかってません! 世の中には誠意というものがあるでしょう!」
「誠意とは?」
「謝り方が雑だということです」
「めんごめんご」
「より雑になった!? レンはちゃんと反省しているのですか!?」
「ほらカルラ、あれを見ろ。露店だぞ」
「話題のそらし方までが雑! 露店なんてそこら中にありますよ!?」
「ほらカルラ、プレゼントだぞ」
「タイミングを考えなさい! プレゼントって、なんですか、こんな、もの?」
うやうやしく差し出された僕の貢物を、カルラはおずおずと受け取った。
「指輪?」
「さっき見つけといた。カルラに似合うと思う」
「高いものなのでは?」
「予算の範囲内だから、金貨1枚の品だが」
「目利きができるというのは本当なのですね。これ、すごくいいものですよ」
そりゃそうだな。
妖精さんサーチによると、金貨50枚相当の品だし。
「機嫌を直してくれたか?」
「ちょ、ちょっとずるくないですか。このタイミングで渡すなんて、その、返せる物もないですし」
「だったら、代金としてあれをくれないか?」
「あれって?」
「カルラにちょっと似た人形だ。あの陶器のやつ」
「……も、もうもう! なんなんですか!」
カルラは珍しく顔を赤くしてうろたえた。
うーむ。
めちゃくちゃ可愛いな。
これ、今から押し倒してもいけるんじゃね?
いける。
いけそうに見える。
護衛さえついてなければ。
カルラは恨めしそうに僕を見た後、護衛から受け取った人形を差し出した。
「あげます」
「どーもどーも」
「私だと思って、大事にしてください!」
「わかった。部屋に飾って手入れをして、たまにはぺろぺろもする」
「ぺろぺろはいらない!」
「えっ」
「えっ、じゃないでしょうが! なんでわざわざオチをつけるのです!」
「いやだって、カルラだと思えって」
「レンは私が部屋にいたらぺろぺろするつもりなの!?」
「カルラが望むなら」
「ちょっとかっこいい風に言っても無駄ですから! 内容が無理ですから!」
つっこみ疲れたカルラはぜーはーと肩で呼吸した。
大変だな。
あれだけ全力投球するのはエネルギーを使うだろうに。
僕は肩を回し、カルラから受け取った人形を護衛に預けて提案する。
「そんじゃ、デートを続けようぜ」
「はあ。そーですね」
色々あきらめたカルラはため息をつき、指輪を薬指にはめて歩き出した。
それから。
以後はこれといったトラブルもなく。
僕とカルラは買い食いや買い物を楽しみ。
昼過ぎになって品数が減り始めたので、馬車に乗って帰った。




