第6話「ちょっといいとこ見てみたい」
カルラは美少女である。
超美少女である。
そういう女の子を横に連れて歩いていると、周囲からの視線がものすごい。
「次はあの店に入りましょう!」
にこにこ笑いながら手を引くカルラ。
それに引っ張られる140キロの巨大ブタ。
明らかにアンバランス。
いったいどういう関係なのかと、道行く人はみんな僕らを見る。
そもそも、イイユメ朝市にはカルラのような女の子はほとんどいない。
いたとしても全員戦士風か商人風の恰好だ。
新品同然のサマードレスに身を包んで、明らかにデート中ですというこの状況。
目立つ。
ものすごく目立つ。
そして困ったことに、僕やカルラはそれを気にしてはいないのだ。
なにせ、僕たちは生粋の貴族なのである。
注目されることに慣れている。
学校でもこういう視線を常に浴びているため、人の悪意に鈍感なところがある。
それゆえの失態というべきか。
気づいたときにはすでに囲まれていた。
チンピラ風の男達だ。
前方から進んできた5人のごろつき集団を避けて壁際に寄ったところ。
彼らはそのまま進路を変え、僕たちを包囲したのだ。
「おお、すげー美人の嬢ちゃんだな!」
「今日はブタの散歩かい?」
「そんな冴えない豚よりも俺らと遊ぼうぜ!」
げひゃひゃひゃ、と男達が笑っている。
すごい絵面だ。
世紀末無法地帯にでも紛れ込んでしまったような感がある。
周囲には人もいるのだが。
みんな我関せずだ。
トラブルに巻き込まれるのは遠慮したいのだろう。
遠巻きに見物している。
さっさと逃げ出すにしても、男達はきれいに半包囲しているので逃げ場がない。
さて、どうしようか。
カルラの様子を見てみる。
彼女はきょとんと首をかしげた後、隣にいる僕の腕を引いてささやいた。
「どーします?」
「どもうこうも、呼べばいいだろ」
「そりゃそうなんですけど」
「つーか、そもそもこの状況自体がおかしいぞ。どうなってんの?」
「なるべく手を出さないように言ってあるのです。レンは違うのですか?」
「僕もそうだが」
「なら、お互い様ではないですか。レンのちょっといいとこ見てみたい感じです。なんとかしてください」
「ちっ、わかったよ」
やたらと面倒だが。
しかしまあ。
やむをえないか。
僕は一歩前に出て、カルラが最も望んでいるだろう言葉を口にした。
「す、すみません。この女は好きにしていいんで、見逃してくれないっすか?」
「はあ!?」
カルラが仰天した。
「おうおう、連れのブタちゃんに見捨てられちゃってまあ! とんだ災難だな!」
「まあ悪いようにはしねえよ。ちょっと付き合ってくれりゃいい」
「あっちのほうも付き合ってくれていいんだぜ」
「ぎゃはははは!」
「ちょ、え、なにこの状況!? レン! レン! まさか見捨てるつもりなのですか!?」
「そんな女は知りません。じゃ、そういうことで」
僕は巨体を揺らし、そさくさとその場を後にした。
ふう。
デート相手を見捨てるのは心が痛いな。
しかしまあ、カルラのことだ。
凌辱願望持ちだ。
きっと喜んで状況を楽しむことだろう。
僕はしばらくカルラの様子を見守る。
さらわれる気配はない。
というか、彼女の護衛が遠巻きに包囲をはじめている。
ことが起これば3秒以内に全員制圧できるだろう。
「ちょっと! ちょっとレン! 冗談では済みませんよ! 早く助けて!?」
「……ウォーレン様。あのようにおっしゃっておりますが」
「カルラに助けが必要なはずがない」
「そ、その、おっしゃることはわかるのですが。助けられた方がよろしいのではないかと。問題になりますぞ」
「うーむ」
手をさっと振りさえすれば、護衛がやっつけてくれるはずなのだが。
カルラは僕のほうに期待のまなざしを向けている。
これは、あれか。
ピンチの女の子をかっこよく助けてほしいと。
そういう話なのだろうか。
「わかった」
「おお、それでは」
「フィル、サディアス。速やかに制圧しろ」
「そ、その、よろしいので?」
「何か問題があるか?」
「ご自分でやられなければ、カルラ様の期待には沿えないかと」
「ちっ……面倒だな」
僕はナンパ集団のもとに素早く駆け寄った。
「あー、お前ら。その子にその気はなさそうだ。速やかに開放してやれ」
「ああん!?」
「何言ってんだこらぁ!」
「さっさと失せろ! おめーにゃ誰も聞いてねえんだよ!」
チンピラ特有の威圧攻撃がはじまる。
しかしなんというか。
ぬるい。
こいつら、たぶん常習じゃないな。
慣れた悪党であれば、この時点で手が出ていないとおかしいのだが。
「やめといたほうがいいぞ。そっちに染まると戻れなくなる。まじめに働け」
「馬鹿にしてんのか!?」
髪の友達がいないハゲ男が僕の胸倉をつかんで持ち上げようとした。
しかし上がらない。
揺るぎもしない。
重力魔法を軽く展開しているため、僕の体重は300キロぐらいになっている。
彼の腕力では持ちあがらないのだろう。
「な、なんだてめえは!?」
「やめとけって」
僕はハゲ男を突き飛ばした。
尻もちをついて倒れる。
動きはない。
他の男たちも同様だ。
やりあっていいのか悪いのか、迷っているようにも見える。
「てめえ、俺らに逆らうとどうなるかわかってんのか!?」
「いや、知らんし」
僕はざっと5人の集団を見た。
リーダーは。
えーと、たぶん正面にいるこいつか。
黒髪赤目の大男。
瞳に力がある。
なんか偉そうだし。
ガタイもいい。
ちょっとだけ魔力が強い。
チンピラのような集団であれば、ケンカの強さがすなわち階層の高さだ。
彼を倒せばそれで済む。
「おい、てめえら、やるぞ!」
男が掛け声をかけた。
いや、遅いし。
そもそも黙ってやれよ。
チンピラ達が声に反応する前に男の胸倉をつかむ。
そのまま地面に引き倒す。
腹に一発蹴りを入れてやると、大男は吐しゃ物をまき散らしてうめいた。
「ぐええっ!?」
チンピラリーダーが苦悶の表情を浮かべる。
僕はカルラの肩を抱いて引き寄せた。
そのまま彼らをにらみつける。
さて。
どうなることやら。
残りのチンピラとやり合ってもよかったのだが、さすがにそうはならなかった。
「お、覚えてやがれ!」
ありきたりな捨て台詞だけを残して、男たちはすたこらさっさと逃げ去った。
鮮やかな逃げっぷりであった。
ぐったりしているチンピラリーダーの両肩を抱き、路地裏の奥へと消える。
そして歓声。
周囲から拍手が起こる。
後には140キロの豚と、僕に肩を抱かれる公爵令嬢だけが残された。




