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第5話「鑑定王ウォーレン」

 2時間が経った。


「さあ、準備はいいですか?」

「もちろんだ」


 僕とカルラはスタート地点に戻って合流し、その足で転売屋へと向かった。

 薄汚い店舗の中に怪しげな品が山と積まれている。

 盗品の扱いもしている故買商だ。

 普通ならば金貨100枚の品でも1枚になってしまう。


 が、そこはそれ。

 目利きは目利き。

 ここの店主はエニウェア侯爵家に縁のある人間なので、僕の顔が通じる。

 なんでも父の使っている諜報網の一部であるらしい。

 闇マーケットを通じた情報収集全般を担当しているとのこと。


「侯爵の息子のウォーレンだ」

「これはこれは! 話は聞いております」

「うむ。こちらはブロッコリー公爵家の令嬢になる。公平な評価を心掛けろ」

「わかっておりますとも」


 転売屋の老人はぺこぺこと頭を下げた。

 おお。

 さすがに年を食っているだけあって礼儀を心得ている。

 礼儀とは服装やマナーのことではない。

 格上の人間をうやまう気持ちのことである。

 どれだけ所作がきちんとしていたとしても、態度が悪ければ全て台無しだ。


 老人はぼろを着ている。

 姿も汚い。

 店はほこりまみれだし、声もしわがれていて美しくはない。

 ただ、僕やカルラを見ない。

 常に頭を下げている。

 服従する気持ちがあるのなら、すなわち無礼ではないと言っていいだろう。


「僕はこれだ」

「拝見いたします」


 渡したのは真っ黒に錆びた燭台だ。

 10台セットで銀貨2枚(4000円)で売られていた。

 やたらと重くて、重量は5キロほど。

 妖精さんサーチによると金貨200枚の品だ。

 

「これは」


 店主の老人は瞳をぎょっと開き、磁石をぺたぺた当てて燭台の反応を見た。

 こんこんと音を鳴らす。

 よく見る。

 重さを計ってみる。

 魔力を通しておおざっぱに反応を確かめ、そして結論を下した。


「銀ですな」

「ええっ!?」


 カルラが悲鳴を上げた。


「芸術品としての価値はわかりませんが、まぎれもなく銀の燭台です。いったいなぜここまで放置されていたのか……歴史のある品であることは間違いないですし、作風からして300年以上前の品かと思われます」

「ね、値段はどれほどなのです!?」

「銀単体の値段としては金貨200枚になります。アンティークとしては、正直わかりません。名のある工匠による品ではないと思いますが、不勉強なもので、なんとも」


 ふむ。

 まあそんなものか。

 妖精さんサーチの結果とまったく同じだな。


 おそらくアンティークとしてはゴミ同然の品ではあるのだろうが。

 侯爵の息子が持ち込んできた品だ。

 何かいわくがあるのかも。

 そういう落とし穴に対しての恐怖が、老人の口を重くしているわけか。

 鑑定家も権威には勝てんな。


「わ、私はこれです!」

「拝見いたします」


 カルラはゴミにしか見えない陶器製の人形を差し出した。

 女の子がドレスを着てポーズを決めている。

 ちょっとだけカルラに似ているか。

 相変わらず自分大好きだな。

 勝負のためというか、ほとんど気に入ったから買ったという感じの品だ。


「これは……陶器人形ですな。西方ではよく作られている品です。アンティークではありません。値段は金貨1枚というところかと」

「えええっ!?」


 なぜか驚くカルラ。

 そんなに自信があったのか。

 いやまあ、可愛い人形だとは思うが。

 つくりもやたらと丁寧だし、部屋に飾る分には趣があるかもしれない。


「そんな! こんなにかわいいのに!」

「も、もうしわけありません。販売ルートによっては金貨5枚を超えるかもしれないです」

「聞きましたかレン! 金貨5枚の品ですよ!?」

「そりゃー公爵家の販売網をフルに使えば100枚にもなるだろうよ。でもそれは邪道だぞ。目利き勝負なのだから家の力は除外して考えるべきだ」

「ううう、レンのくせに正論を」


 カルラは負け犬の遠吠えを放った。

 ざまぁ。

 きさまごときが僕に勝てると思ったのか。

 僕の力を知れ。

 僕こそが鑑定王だ。


『ふっ、鑑定侯爵として歴史に名を残す日も近いな』

『どんだけ鑑定させる気なの!? そろそろ給料払ってよ!』

『え? お前、なんか欲しいものとかあるの?』

『ないよ! ないけど! 強いて言えば妖精ははちみつが好きです!』

『わかった。今度用意させる』


 あいかわらず妖精の生態はよくわからんな。

 排泄はしないようだが。

 食事はするのか。

 まあ、なんといっても妖精だ。

 その生態は謎に包まれているため、予断をまったく許さない。


「さて、カルラよ。約束を覚えておろうな」

「ううう、なんでもご命令ください」

「まあ、それは後日にしよう。罰ゲームの内容を考える必要があるからな」

「こわいこと言わないで下さいよ!」

「ふふふ、どんな服を着てもらおうかなあ」

「滅茶苦茶不安なんですけど!?」


 おそれおののくカルラ。

 可愛いな。

 やっぱり女の子はこーゆーとこがないとね。

 うん。

 僕ってどちらかというとサドだから。

 女の子が苦しんだり悲しんだり泣いてたりすると、とても気分がいいのだ。

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