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第11話「原作とは」

『しかし、カルラは見事なまでのエロゲー生物だな』

『その話題もういいから!』


 いやいやするように首を振り、妖精さんは紙面をぱしぱしと叩いた。


『今はこっち! 他の議論をするの!』

『わかったよ』

『当面問題になるのは、今後のカルラとの付き合い方なんだけど』

『普通でいいんじゃないか?』

『よくない! はっきり言えば縁を切るべきだと思う。ぶっちゃけ、私はカルラに二度と近づきたくないんだけど』


 妖精さんは無茶苦茶な提案をした。


『無理なことを言うな。明日はカルラとデートだ。領地運営にも来てもらう。それよりなにより、僕の唯一の友達。カルラとの縁は太くて強いものだぞ?』

『そりゃ、頭ではわかってるけどね』

『何が不満なのだ』

『えーと、まずは破滅の運命かな。とにかくこれがやばい』


 

 スキル 破滅の運命


 詳細説明

 30歳までに死亡する原作キャラクターに憑依します

 危険なトラブルに巻き込まれやすくなります

 原作の流れを壊すことで回避可能です



『僕たちに関係があるのか?』

『あるといえばある。ないといえばない』

『どういうことだ?』

『スキルには詳細説明にさえ記されない効果があることが多い。この場合だと、彼女が破滅する運命に私たちも巻き込まれたりとか』

『そんなことがありえるのか?』

『わかんない』


 ふむ。

 わからないか。

 バカかお前はと切り捨ててもいいのだが。


 しかし、世界システムの翻訳機が頭の中にあるという妖精さんの言うことだ。

 本人にも説明のできない危機感があるのかもしれない。


『単にお前がカルラを嫌いなだけなんじゃないのか?』

『それは……そうなのかもしれない。否定できない。だから私も、彼女が危険だと断言できないでいる』

『原作とはなんだ?』

『原作は原作だよ。ドラクエとかワンピースとか、ドラちゃんとかキュアキュアでもいい。信長の野望でもいいかもね。とにかくそーゆーやつ』

『この世界に原作があるのか』

『ある。私もカルラと会うまで知らなかったんだけど。さっき更新された。ここはニートダンジョンの世界で、ニートフロンティアの世界』

『ふうん』


 タイトルだけ聞いてもさっぱりわからんな。

 ニートか。

 香山美咲の魂のありかたを体現した作品かもしれん。


『原作のストーリーは私にもわからない。ただ、カルラは未来予知みたいな力を持っていると考えるべきだと思う』

『原作知識の青と赤とかいうやつか』

『うん。タイトルからして、たぶん迷宮とか新大陸を舞台にした話じゃないかな。この世界では年中戦争やってるから、そっちとも絡むかもしれないけど』

『原作ってのはどの程度あてになるものなんだ?』

『さあ?』

『さあかよ』

『原作を知らない私に言われても困る』


 妖精さんはあまり役に立たないな。

 いや、それは嘘だが。

 ささいなことで歴史が変わるというのなら、問題視しなくていいか。


 えーっと、カルラは確か、その原作とやらで死ぬ。

 30歳までに死ぬキャラクターに憑依するという話だから。

 ほぼ間違いはない。


 そして、本人は原作を知っているわけだから。

 10歳時点で転生して。

 そこから5年も活動しているわけだし。

 とっくに死亡フラグは潰しているのかもしれん。


 僕なら当然そうする。

 カルラもそうするだろう。

 ならばらこの問題について、僕たちにできることはないということになる。


『カルラはどういう状況なんだ? 前世知識はあるのか?』

『ある。それはある。転生者だという自覚もある』

『たとえば香山美咲の名前を出して、それを認識できるのか?』

『できる。その時点で、おそらく他の転生者がいるという可能性に気付くと思う。今はわからない』

『すでに他の転生者に接触している可能性もあると』

『それは……かなり低いはず。人が人と出会う確率はそんなに高くない。君がカルラと出会ったのは、単に上級貴族の世界が狭いという話にすぎない』


 まあ、割合にして1000万人に1人かそれ以下ってことだからな。

 出会うことさえない。

 出会っても気づかない。

 そういうものなのだろう。

 僕やカルラは容姿が変わっているし、索敵能力がなければ発見不可能なはず。


『カルラはバトルロワイヤルの現状を理解していないんだよな?』

『うん。破滅願望スキルの力があるから。わかってない』

『暗殺されないように忠告するべきだと思うか?』

『うーん、そりゃ、知ってた方が警戒はするだろうけど。公爵令嬢はもともと暗殺されやすいし。忠告はいらないんじゃないの?』


 そりゃそうか。

 カルラを守っている親衛隊は僕のそれを超える。

 アイドルの追っかけなんて目じゃない。

 ガチの近衛兵だ。

 公爵家1億の中から選りすぐった精鋭なわけで、雑兵など敵ではない。


『結論は出たな』

『なんの?』

『明日のデートについてだ。カルラとは今まで通りに付き合う。転生者の話は出さない。それで問題ないだろう』

『まあ、マスターがそういうなら、私もそれでいいけど』


 妖精さんは消極的な肯定をしてくれた。


 本人も理屈ではわかっているのだろう。


 カルラには僕を殺す動機がない。

 クラスメートを殺せば寿命が延びるという記憶がない。

 そもそも、僕がクラスメートであることを知らない。

 安全だ。

 彼女と付き合っていくことについて、何の問題もない。

 そう断言してもよかろう。

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