第1話「デートで一番大切なこと」
デートの日になった。
屋敷の前に馬車が横付けされている。
一番大きい型のやつだ。
僕の巨体が乗り込んでも走れるように4頭立てになっている。
「迎えにきました!」
カルラは元気よく家の門をたたいて挨拶した。
「おはよう」
「おはようございます! 今日はいいことありそうですね!」
「朝からテンション高いな」
「それはもう! 昨日は眠れませんでした!」
さすがにそれは冗談だろうが。
カルラ。
相変わらずすさまじい美人さんだ。
着ている服がぱっと見ただけで高いものだとわかる。
最上級の絹糸で編まれたサマードレス。
白を基調とした生地がつやつや輝いている。
髪や瞳なんかもそれに劣らず輝いていて、どこからどうみても姫だ。
やんごとなき身の上であることを疑う者はいるまい。
「相変わらず美人だな。こうしていると緊張してしまうほどだ」
「またまた、お上手ですね!」
「その服もよく似合っている」
「嬉しいです! レンは気が利くようになりましたね!」
誰もが触れることを嫌がる僕の手を取り、カルラはぐいぐい引っ張った。
「さあ、行きましょう! いろいろ計画があるのです!」
「エスコート役が逆だぞ」
「今日は私がホストです。なんでも任せてください!」
どうやらカルラは何事も自分で仕切らねば気が済まないタイプらしい。
まあ、それは以前からそうだったが。
学校で出会った当初からウォーレンは引っ張りまわされていた。
その関係は今も変わらない。
僕が乗り込んで席を決めるほどもの間もなく、カルラが合図を出した。
「レッツゴー!」
御者が手綱を引き、馬車が走り出した。
速い。
とてつもないスピードだ。
景色がすごい勢いで流れていく。
いくら整備された街道を走るとはいえ。
ずいぶんと乱暴だ。
人の迷惑を考えないカルラらしい走らせ方である。
「ちょっと速くないか?」
「大丈夫です。うちの御者さんは腕がいいので、まだ5人しか轢いたことがありません」
「5人もあるの!?」
「残念なことに、そのうちの2人は死んでしまいました」
「今すぐスピードを落とせ!」
「あはは、レンったらおかしなことを言いますね。庶民なんか10人100人と轢いても何の問題もないじゃあないですか」
カルラは童女のようにあどけない笑みを浮かべている。
僕は戦慄した。
悪質なジョークなのか本気なのかがわからない。
ウォーレンでさえ望んで虐殺したりはしないのだが。
カルラはやるかもしれん。
そういう雰囲気を持っている。
「その、なんだ。あんまり人の恨みを買うようなことは」
「あ、轢いたのは山賊と暗殺者ですよ。この馬車は戦車としても活用できるタイプなので」
「それを先に言え!」
「今回は交易用に改装してあるので、あんまり戦闘力は期待できません。ドラゴンに襲われたら逃げましょう」
「当たり前だ! つーか、カルラのジョークはわかりにくい! もっと安心して楽しめる嘘をつけ!」
「ううん? 私は嘘など一つもついていませんが?」
カルラはきょとんとした表情になった。
なんだその反応は。
天然か。
いや、そういえばそうだったな。
神鳥きららは天然だったかもしれない。
少なくとも言葉を選んだり相手の気持ちを考えたりはしないタイプである。
カルラはしたいようにする。
それで通る。
そういう立場の人間だ。
僕はいろいろと諦めて、視線を彼女から外して外の景色を眺めた。
「到着まで10分ぐらいか?」
「何を言っているのです。今から一時間は走りますよ」
「え? 学校の西にあるマトリックスの広場に行くんじゃないの?」
「違いますよ。イイユメ港の隣にある朝市に行くのです」
え、まじで?
僕はぽかんとした。
確かに進行方向が逆だなと思ってはいたのだが。
「いや、しかし。僕としてはマトリックスの広場で十分なんじゃないかと思うんだが。イイユメ港は遠すぎだろ」
「レンはわかっていませんね」
「なにが?」
僕が問いかけると、カルラはぴっと指を立てて聞き返した。
「レンはデートで一番大切なことって何だと思います?」
「えーっと、それはまあ、二人が各々お互いを気遣いつつ楽しい時間を共有できるように配慮することかな?」
「確かにそれも重要ですが、優先順位としては二番目です。もっともっと重要なことがあります」
「それは?」
「私が楽しいことです」
なんか最低なこと言い出したぞこの女。




