第2話「勘違いなさらないで」
「カルラとしては、学校近くの朝市では楽しめないってことか?」
「当然です」
カルラはきっぱりと断言した。
「近くの市場で楽しむ。レンはそれもいいでしょう。未経験だから問題ありません。見るものすべてが新鮮で楽しいかと思われます」
「だよな。僕もそう思う」
「しかし、一方の私ですよ。朝市に10回は足を運んですっかり熟年夫婦の倦怠感を身にまとったカルラちゃんなのですよ。なぜいつも行っている場所にいくのですか。意味がわかりません」
「いや、僕を案内するなら慣れた場所がいいだろ!?」
理由は明らかだろうが!
「はあ、これだから支配者階級は」
カルラは見下げ果てたような視線で僕を見た。
「奉仕されすぎてすっかりお客様気質に染まっちゃって、やですよねえ。どーして私がレンのご機嫌をとるのです。普通逆ではないですか」
「誘った側とは思えない暴言がきたぞ!?」
この女、生粋の姫様体質か!
思わずつっこみを入れた僕に対して、カルラは諭すように説明した。
「どうやらレンは勘違いしているようですね。いいですか? 今回は私が誘ったんだから、あらゆる準備の手間は私が引き受けます。それがホストとしての義務でしょう。でもその分、私が自分で楽しめるようにプランを組むのは当然の権利です。何か間違ったことを言ってますか?」
「い、いや、その通りだ。カルラは正しい」
僕は気圧されるようにして納得した。
なるほど。
確かにそうなのかもしれん。
人から尽くされるのが当然の立場だったから勘違いしていたが。
カルラが僕を楽しませることは、別に義務ではないのだ。
デートは誘う側が準備をする。
そして自分で楽しむ。
それでこそ対等と言えるのかも。
エスコートさせておきながら、さらに僕を楽しませろだなんて。
あまりにもお客様気分が過ぎたというものだ。
「わかればいいのです」
カルラはえっへんと胸を大きくそらし、そのたわわな胸部をアピールした。
うおお。
もみたい。
つっつきたい。
公爵令嬢様の高貴な胸をつんつんしたい。
僕は身を乗り出してカルラのおっぱいをガン見した。
「レンは平常運転ですねえ」
ピシッ、と鼻を軽く手ではたき、カルラは仕方がなさそうな目で僕を見た。
「レンは素材自体はいいのですから、もう少しやせればモテると思いますよ?」
「僕は今でもモテる。すでに百戦錬磨だ」
「そりゃー権力にものを言わせれば誰でもなびくでしょうけれど。空しくないですか? 女は自分の魅力で口説かないと」
「僕は結果だけあればそれでいい。手段は問わない。そこにこだわりはない」
「体だけが目当てなのです?」
「だいたいそうだな。でも、はじめての時だけはロマンが欲しかった気がする」
ウォーレン的には、もうすでに美人なら誰でもいい領域に達している。
僕はそうではない。
はじめての相手は処女でかつ親しい相手でないと。
そういう縛りプレイの最中だ。
婚約者のノエルか。
唯一の友達のカルラ。
もしくはまあ、ぎりぎりで、女体化した妖精さん相手なら考えてやってもいい。
だいたいそんなところだ。
ふと気が付くと、カルラは嬉しそうな表情で僕のことを見ていた。
「レンのそういうところ、いいと思いますよ」
「そういうところとは?」
「色々とゲス野郎なところです」
にこにこしながらひどいセリフを言い放つカルラちゃん。
僕は悲しくなった。
「カルラはゲス野郎が好きなのか?」
「そうですね……まあ、秘密ということにしましょう。レンのことは好きですよ」
「僕のどこが好きなのだ?」
「ゲス野郎なところと、あとは私に無礼を働いても平気なところです」
「無礼にされるのが好きなの?」
「それはもちろん。浚われて犯されて孕まされるのが女の喜びというものですよ。私といえども決して例外ではありません」
「そんな例外の使い方、はじめて聞くわ!」
僕は全力でつっこんだ。
つーか、これは冗談じゃねえな。
カルラは本気だ。
本物の凌辱願望持ちである。
知らなかったら下品なジョークで済むのだが。
おそらくは本気の本気で、僕に浚われて犯されて孕まされるのを望んでいる。
『ゲテモノ喰いっているんだねえ』
『誰がゲテモノだ』
妖精さんのささやきには思わずつっこんでしまったが。
内心では僕も同意見だ。
どうも常々、カルラはあまりにも僕に対して好意的すぎると思っていた。
それはもちろん、上級貴族仲間としての共感があるからだろう。
僕とカルラは友達だ。
この世界でほとんどいない同格の仲間同士。
絆は太くて強い。
彼女が僕に向ける好意は決して不自然なものではない。
しかし、その一方で。
凌辱願望もある。
カルラは内心、僕ならやってくれるのではないかと期待している節がある。
あまりにも重い期待だ。
いや、僕だって、できるものならやりたい。
カルラで楽しみたい。
無理やりのほうが興奮するぐらいなので、性癖としては全く問題ない。
が、それには護衛が邪魔だ。
この馬車にも僕とカルラの護衛が合わせて5人は乗っているし。
正真正銘の二人きり、というのは相当に難しい。
護衛は教育ができているから、貴族同士の会話に割り込んだりはしないが。
さすがにレイプ現場に遭遇すれば百発百中で止めるだろう。
「カルラはなんというか……その、少々高望みが過ぎるのではないか?」
「かもしれません」
「ま、まあ、僕に任せておけばいずれ解決してみせよう。機会を待つといい」
「楽しみにしています」
カルラはにっこりほほ笑んだ。
試しにそっと手を伸ばす。
座席に置かれているカルラの手を握ってみた。
カルラは嬉しそうに笑っている。
僕はゲスい笑顔を浮かべてさわさわと肌をなでた。
困ったような顔になった。
太もものほうに手を伸ばそうとすると、ぎゅっとつねられてしまった。
「はあ、レンはもっとムードを考えるべきですね」
「これでも努力したのだ」
「もっと念入りに努力してください。私もがんばりますので」
「ああ、機会があればがんばるよ」
なにをどうがんばるのかは、自分でもよくわからんが。
護衛といえども四六時中カルラに付き従っているわけではない。
来月には領地に来る。
学校などではなく、勝手知ったる僕の庭の中だ。
そこならば。
カルラが連れくる護衛の数にも限度があるわけだし。
うむ。
いいじゃないか。
いろいろと想像がはかどるというものだ。
さて。
先の計画については、また次の機会にでも考えることとして。
僕とカルラは指先でいちゃいちゃしたり。
目を合わせて笑ったり。
お互いの長所を持ち上げたり。
まるで恋人同士のような雰囲気のままで、港までの道中を楽しんだ。




