第8話「デートの約束」
近況報告やら校長の依頼やらを先に済ましてしまい。
今度一緒にダンジョン探索でもしましょうと合意を取ったところで。
会話は本題へ。
夏休みの予定へと移った。
「カルラ。僕はもうすぐ領地に戻る」
「知ってますよ?」
「しかし、使える部下が足りなくてな。人が余ってたら融通してくんない?」
「うわ、あつかましいですね! 逆にすがすがしい!」
率直に驚かれた。
そりゃそうか。
ノエルのような格下相手ならばともかく。
対等な関係のカルラに対して行う要求ではなかったな。
「やはりだめか。ダメもとで聞いてみただけだ。気分を害したなら謝る」
「いえ、断ってはいませんよ? 私とレンの仲ですし」
「本当か!?」
「そのかわり、こちらのわがままも聞いてもらえます?」
カルラは天使の微笑みを浮かべて交換条件を切り出した。
かわいい。
この笑顔を見ただけでうなずきたくなってしまう。
「いいよいいよ。なんでも言って」
しょせん男というものは可愛い女の子からの依頼を断れない生き物だ。
ましてや頼む側の立場。
話を聞かないまま断るなんて選択肢はありえない。
僕は白豚の微笑みを浮かべて魅力をアピールしつつ、話の続きをうながした。
「実は私もそろそろ領地に戻る予定だったのですが、最近トラブルとかほとんどないんですよね」
「ほうほう」
「粛清されるんじゃないかってびくびくしてるので。むしろ私が戻ると仕事の邪魔になっちゃったりするのです」
「なるほどー」
カルラは粛清大好きで有名だからな。
機会があれば必ずやるといってもいい。
そりゃー、部下としても心安らかではいられないというものだろう。
「なので、もうちょっと放置して悪を繁栄させ……もとい、のびのびとした風土をはぐくみたいので、今年は領地に帰らないことにしたのです」
「それはそれは」
いろいろと事情があるのだな。
「というわけで、私は暇なのです」
「そうなんだな」
「もう、もうもう! わかっててじらしてるんですか!?」
「え、なにが?」
いきなりカルラがすねだしたので、僕は困惑した。
「連れてってくださいよ! 暇だって言ってるじゃないですか!」
「え、連れてくって、カルラを?」
「他に誰がいるのです」
「いや、そりゃもちろん大歓迎だけど。えっと、助っ人さんとかも連れてきてくれるのかな」
「はい。内政と軍事にすぐれた人を20人ぐらい引っ張っていくので。そっちからも来年5人ずつぐらい出してもらえます? 他の領地の交換体験会ということで」
「おっけおっけ。すげーうれしい。ありがとな」
「いえいえ、友達ですから」
「そうだな。持つべきものは友達だ」
僕たちは両手をがっしり組み合わせてぶんぶん手を振った。
この子は僕を嫌悪する様子がない。
むしろ常日頃から好き好き光線を出している。
ウォーレンも彼女のことが好きだし、僕もカルラが大好きだ。
おそらく地上で唯一。
本当に僕が友達だと言える相手だろう。
もしも彼女が次期公爵でなければ結婚もできたのに。
いや、それは無理か。
僕たちは友達だ。
本当に対等な立場。
もちろんカルラのほうが上ではあるにせよ、同じ上級貴族の後継者仲間である。
彼女が次期公爵でない場合、それはもう友達ではあるまい。
ただの同窓生。
遠い世界に住んでいる他人ということになる。
結婚の機会はなさそうだ。
しかし、転生者か。
本当か?
僕は美咲から受けた警告に関して少し疑問を持った。
彼女はどう見てもカルラだ。
前世のクラスメートとしての面影は全くない。
15歳で憑依転生していれば必ず態度にあらわれる。
僕でさえそうだ。
人格の5割をウォーレンが占めている僕も、多少の違和感は持たれる。
ウォーレンの見たところ、カルラのふるまいに齟齬はない。
完全な100%カルラだ。
15歳で憑依転生していればこうはならないはず。
ならば違うのか。
しかし、それなら香山美咲がわざわざ口止めする必要もないはずだが。
よくわからんな。
まあいい。
それを問いただすのは今ではない。
本日の用件は終わったので、後は適当に社交会話を楽しむことにした。
「そういえば、カルラは今回の粛清ブームには乗らなかったのか?」
「粛清ブームとは?」
「さっき校長の話題に出てただろ。貴族対庶民のあれこれ」
「ああー」
「カルラが誰かを粛清したって話を聞かなかったから、そのへんどうなのかと」
「ほえほえ? なんで私が粛清するのです?」
「いやだって、カルラといえば粛清だし。粛清大好きなんだろ?」
「はあ!?」
世間話のつもりが地雷を踏みぬいたらしく、カルラは瞬間的に激高した。
「そんなわけないでしょう! とんだ冤罪ですよ!?」
「え、違うの?」
「当たり前です! 私は領地をよくするため、みんなが仲良くやっていくために仕方がなく粛清したのです! 趣味みたいに言わないでください!」
「そうなのか」
「当然です!」
「す、すまん。てっきり喜んでやっているものだと」
ウォーレンはそういう認識だったので、とても驚いている。
知らなかった。
恐怖政治を行う暴君のようなイメージで固まっていたのだが。
少なくともカルラ本人は善良なつもりらしい。
「まったく! こんなか弱い女の子を捕まえて! 失礼しちゃいますね!」
「いや、粛清はともかく、カルラがか弱いってのはどうかと」
「ああぁん!?」
「なんでもありません」
僕は丁稚のようにぺこぺこ頭を下げた。
そこ、笑うな。
情けなくはない。
公爵令嬢というのは他の女とは違う存在だ。
いくら友達同士とはいえ、定められた上下関係には逆らえない。
「……」
「……」
沈黙が続く。
カルラはそっぽを向いている。
つんと澄ましている。
どうやら相当気に障ってしまったらしい。
もみ手をしながらへらへら笑いかけるのだが、懐柔の気配がない。
「あ、あの、カルラさん? 怒りを解いてもらえませんか?」
「つーん」
「つ、つーんって。そんなわかりやすく無視しなくても」
「私はご機嫌ななめです」
「み、みたいっすね」
「なので、レンには罪滅ぼしをしてもらわねばなりません」
なんか恐ろしいこと言い出したぞこの女。
罪滅ぼしとか。
超怖いんですけれど。
とはいえ、放置もできない。
僕はびくびくしながら問いかけた。
「罪滅ぼしとは?」
「えーっと、そうですね。デートがいいです。朝市に行きましょう」
「朝市?」
「はい。買い物して買い食いして遊びましょう。それで許してあげます」
「そんなことでいいのか?」
「レンは私をなんだと思っているのです?」
じとっとした視線で見られたので、僕はあわてて降参のポーズを取った。
いかんいかん。
必要以上におびえたせいで不満を持たれたようだ。
僕は話題をそらすため、さっさと話を進めた。
「えーっと、それで、デートはいつにする?」
「明日がいいです!」
「わかった。それじゃあ9時に僕の家集合にするか?」
「9時ですか……6時にしませんか? 9時だと品数が少ないです」
「そうなのか?」
「そうなのです」
「そもそも朝市っていつからやってんの?」
「レンは世間知らずですねえ」
公爵令嬢は呆れたような目で僕を見た。
いや、仕方ないし。
僕じゃなくてウォーレンのせいだし。
150キロの巨体を揺らして外出するなんて非効率だろう。
必要なら出かけるが。
買い物なんてものは部下にまかせればいい。
「朝市は5時からです。なので、5時が一番品ぞろえがいいのです」
「なら、5時にするか? 僕はいつでもいい」
「5時でお願いします」
「わかった」
「食事は向こうで食べましょう」
「了解」
そういうことになった。




