第7話「前世でも会いましたね」
カルラの寮は女子区画から離れた丘の上にある。
寮というよりは屋敷。
屋敷よりむしろ豪邸。
そんな感じの家だ。
整備の行き届いた道がぐねぐねと続いている。
『この寮を借りる人間はまずいない、はずだった』
『なんで?』
『金がかかるから』
年間で金貨5万枚。
日本円にして5億円という寮費。
言うまでもなく大金だ。
それだけあれば、メイジー50人を学校に通わせることができる。
額にして50メイジー。
などと言えば、きっとメイジーは気分を害するだろうが。
学生が住むのに適した場所ではない。
『もともと5代魔王の息子が使っていた場所でな』
『王族御用達だったわけね』
『借り手がいないまま放置されるはずだったのだが。まさか入居者がいようとは』
『5億円ぐらい、カルラには屁でもないもんね』
女の子が屁という表現を使うのはいかがなものか。
思ったが口には出さなかった。
人には生まれ育った環境で培う品性というものがある。
妖精さんは元気っ娘枠だ。
しとやかな魅力までは望めない。
『それとも、5億円はやっぱり大きいかな?』
『カルラなら問題なかろう。住居費用と考えればそんなものだ』
『人もたくさんいるしね』
『ああ。彼女の親衛隊がうじゃうじゃ詰めている場所だ』
ある意味、これから僕は虎口に飛び込みに行くわけだ。
カルラが転生者だった場合。
僕を殺すなんてわけない。
できるできないでいえば、それこそ花を摘むようにできる。
それほどの兵士がいる。
『ふむ。少し緊張してきたな』
『よく会う相手なんでしょ?』
『転生してから会うのははじめてだ。ウォーレンは喜んでいる』
『マスターは?』
『期待と不安が半々というところか』
もしかしたら、神鳥きららではないか。
もう一度会えるのではないか。
それが半分。
転生者に乗っ取られて、すっかり変わっているのではないか。
以前のカルラとは違うのではないか。
それがもう半分だ。
驚いたことに、僕はもう一度あの子に会いたいと思っているらしい。
好きだったのだろうか。
いや、単純にきららは学校で一番かわいい女の子だったのだが。
そういうことでもなく。
『そーいや、家で付き合いあるとか聞いてたけど』
『前世の話か?』
『そうそう』
『別に大したものはない。社交パーティーとかでたまに会うぐらいだな』
『社交パーティーって現代日本でもあったの!?』
『あるに決まってるだろ。日本にはセレブがいない、なんて言うやつは、単にそういう場所に行ける立場にないだけだ』
セレブは土地と財産があれば生まれる。
テレビには当然出ない。
ああいうところに出てくる人間は例外だ。
普通の大金持ちは身内とのんびりやっている。
政治畑と経済畑では住人が違うため、僕は財界のほうしか知らないが。
『仲良かったの?』
『んー、まあまあ?』
『微妙な返事だね』
『実際微妙だからな。会話の邪魔になるような時はセットで追い出された』
『何を話すの?』
『普通に社交会話だよ。ああいう場所で下ネタで盛り上がったりはできない』
なにせ、子供というのはゴミだ。
15歳時点で億単位の金を持っていた僕やきららでもそれは変わらない。
人の邪魔をせずに大人しくしていることが求められる。
あとは可愛さか。
彼女はお人形さんのように可愛かったので、どこででもちやほやされたが。
『戻りたくなったりしない?』
『はあ?』
『ほら、異世界転生であるじゃん。元の世界に帰りたいーってやつ』
『特にないな。どこででも住めば都だ』
『私もないんだよね。家族とか大好きだったんだけど』
『そういう洗脳を受けてるんじゃないか?』
『うわ、ありそう。でもなー。今の生活が楽しいのも事実なんだよなー』
妖精さんは悩み多き年頃であるらしい。
うだうだやっているうちに、門の前まで来た。
ベルを鳴らす。
カカカカカッ、と足音が響き、中から顔なじみの令嬢が飛び出してきた。
「レン! 来たのですね!」
「ああ。カルラ。久しぶりだな」
僕は手土産を差し出し、カルラの全身をじっくりと観察した。
カルラ・ブロッコリー。
15歳。
中肉中背。
燃えるような色の瞳と、つやつや輝くダークブロンドの持ち主。
美少女といえば超のつく美少女である。
健康的な体だ。
ノエルと同じく、動物的な魅力がある。
僕の婚約者が肌をあまりさらさないのとは対照的に。
カルラは半袖短パン。
夏を快適にすごせる動きやすい服を着ている。
「レン、何か変わりましたか?」
「気づいたか。僕は最近ダイエットをはじめてな」
「ああ、それで雰囲気が違うのですね。なんというか、普段はもっとこう」
「どうした?」
「いえ、大したことではないのですが」
僕はウォーレンに意識のいくらかをゆだねた。
彼は躊躇なく視線を胸に移す。
太ももや股などを楽しむ。
それからむき出しの首などをなぶるように見て、最後にカルラの目を見た。
「おお、いつものレンです」
カルラは感心したようにうなずいた。
「歓迎の用意があります。どうぞお入りください」
「失礼する」
僕は屋敷に足を踏み入れた。
カルラに案内されて屋敷の中を歩く。
広い廊下だ。
天井が高い。
さすがに王族向けに作られていただけのことはある。
居住空間は別にあるので、ここはあくまでも来客用のルートだが。
応接室までの道中。
体の中にいる妖精さんが僕に鋭くささやいた。
『マスター、聞いて』
『なんだ』
『カルラに向けて転生者の話を出さないで。理由は後で話す』
『わかった』
美咲はバカではない。
そして僕の味方だ。
彼女が言うのであれば従うべきだろう。
まあ、もともとその話を切りだすつもりはなかった。
そして。
妖精がそう警告したということは。
カルラは転生者だ。




