第6話「妖精さんにセクハラ」
さて、粛清といえばカルラである。
僕が言っているわけではない。
貴族社会共通の見解だ。
初陣でハムスター子爵家家臣団を粛清したのをはじめとして。
ギルド員、家臣、青眼族に加担した豪族、敵対民族、旧王族など。
とにかく機会があれば粛清しまくっている。
カルラ軍の行くところ粛清あり。
もはや貴族社会では伝説になっている、粛清大好きの女の子だ。
『なあ美咲』
『なんざます?』
プライベートピクシーは胡乱な相槌を打った。
無視だ、無視。
相手にすると調子に乗る。
僕は話を進めた。
『今から会うカルラなんだが』
『うんうん』
『もしかして転生者なんじゃないか?』
『アーアー』
妖精さんはダミ声をテレパシーで放った。
絶妙に不快な音だった。
さすがだ。
人をおちょくることに慣れている。
僕は気合いを入れ、妖精さんを体内から弾きだした。
「きゃー!?」
「僕は真面目な話をしているのだ」
「いきなり追い出さないでよ! びっくりするじゃない!」
「何か問題があったか?」
「妖精が体内に潜ってる時は、眠っているも同然なの! 急に追い出されたら心臓止まっちゃうよ!」
「え、お前心臓とかあるの?」
「ないよ! ないけど! 比喩表現につっこまないで!」
妖精さんはぷりぷりした。
腰に手を当てて頬をふくらませていらっしゃる。
あざとくて可愛いな。
しかし、そうか。
心臓。
ないのか。
心臓が止まるというのは比喩表現になってしまうらしい。
妖精さんボディーは神秘に満ちているな。
「そういえば、妖精さん」
「なにさ」
「妖精さんは女体化とかできないの?」
「はぁ!? 私は正真正銘女なんですけど! どういう意味で言ってんの!?」
「いや、男勝りとかそういう意味じゃなくて。ほら、あるじゃん。人間サイズに変化したりとか。そーゆーマジカルなやつ」
「ああ、そういう話ね」
「一言でまとめると、セックス可能なボディーになれるかってことだが?」
「そのまとめいらないから!」
「何を言う。必要不可欠だろう。なんのために女体化機能があると思っている」
「セックスのためじゃないし! 何なの!? 君って私のこと好きなの!?」
「愛がなくてもできることがある。それがセックスだ」
「うるせー!」
後頭部に蹴りが入る。
ぐぇっ。
痛い。
いい足してるじゃないか。
戦闘能力はないという話だったが、挑発や攪乱ぐらいには使えそうだ。
「いや、僕もそろそろ童貞を捨てたくなってな」
「うわぉー、男同士の鉄板会話ネタを妖精に振ってきたよこの野郎」
「知っての通り、ノエルはあのざまだ」
「そだね」
「なびく気配がない」
「うん。当面は無理っぽいよね」
「かといって、商売女や中古女とセックスする気にはなれん。ここは一つ、身近な不思議生物で経験を積みたいと思ってな」
「お断り! そんな理由でうなずく女はいねーよ!」
「またまた。うぶなねんねじゃあるまいし」
「あるよ! 私まだ処女だし! この体がってことじゃなくて、前世とか色々含めて経験ないからね!?」
妖精さんは衝撃の告白をした。
おおお。
そうか。
処女だったのか。
僕は感動した。
これで二人の間にある障害は、女体化の一点に絞られた。
「それで、考えてはもらえないか?」
「嫌だよ! 貞操の危機を感じるし! そもそもまだできないし!」
「まだ、ということは。いずれできるのだな?」
「できるけど! できてもやらないし!」
「なぜだ?」
「そこに愛がないからだよ!」
なんだ。
そんな理由か。
問題は解決したも同然だ。
僕はキメ顔でこう言った。
「香山美咲、僕は君を愛している」
「この状況で信じられるか! なんなのこの人! 童貞にもほどがあるよ!?」
妖精さんへのセクハラを楽しむことしばし。
カルラの寮が見えてきた。
さすがに人に遭遇することも増えるので、妖精さんを体内に収納する。
『それで、どう思う? カルラは転生者か?』
『会えばわかるんだけど』
『スキルも見れるんだったか』
『うん。ステータスとスキルは見える。その他項目は見えない。ちょうどマスターとは逆だね』
『個人の能力はわかるが、仲間についてはわからないということだな』
『イエス。だから同盟相手とかがいてもわかんない。そーゆー仕様だから、これは私が成長しても変わらない』
妖精さんの力も万能ではないということだ。
まあそうだな。
自分が仲間だと思われているかどうかなんて、別に知りたくもない情報だし。
人の心は読めない。
それでいい。
むしろ読めたりすると、世の中が楽しくなくなる。
『推測でいいんなら、カルラは違うと思うよ』
『そうなのか?』
『うん。公爵家の後継者ってのは相当ハードルが高いから』
『僕は侯爵になったが』
『君はもともとウルトラ金持ちだからね。権力を180まで上げれる人自体が限られる』
『公爵家は200だったか』
『うん。ちなみに女性限定ね。だから、もしもカルラに転生する可能性があるとすれば』
僕は一人の女の子を思い浮かべた。
おそらく。
香山美咲が想定しているのと同じ人物のことを。
容姿端麗。
成績優秀。
運動もできる。
学園のアイドルでマドンナ。
『神鳥きららか』
『うん』
『たしかにありそうだな。あいつは天然入ってたから、粛清とかしそうにないが』
『つまり別人なんじゃないの』
『そうか』
『あの子なら権力100にしてても貴族に生まれたと思うし。普通に伯爵令嬢とかありそうかも』
『それならいい。仲良くできそうだ。いつの日か会えるかも』
『私は絶対仲良くできないな。あの子嫌い』
『そりゃ、お前とは完全にタイプが違うからな。むしろ好きなほうが驚く』
性格が違う友人というのもいるが、その場合は立場が同じだったりする。
香山美咲。
神鳥きらら。
この二人に接点はない。
仲良くなりようはないだろう。




