第4話「粛清がブームです」
地上に戻ると、粛清がブームになっていた。
僕がノエルのパーティーを処分したのがきっかけだ。
貴族関係者が色々うっとうしかった庶民をいじめだしたのである。
もともとウォーレンの評判は悪かった。
しかし寛大だった。
寛大ゆえに悪かったといってもいい。
彼は家庭教師達の教えを忠実に守り、権力をふりかざすことをしなかった。
学校のトップがそれだから、他の貴族達もある程度我慢することになる。
結果、庶民は増長する。
平民が貴族批判をしてはばからない風潮が生まれる。
貴族の金で運営されている学校の中で。
市民こそが世界の主役であるというトンデモ理論が平然と横行していた。
が。
僕が多少暴れたせいで、今まで抑圧されていた貴族側に火がついたらしい。
陰口を叩いていたものは退学になった。
平民派閥のリーダーも次々と退学になった。
たまには処刑もされた。
3000人前後が通う王立貴族学校の生徒のうち。
実に200人あまりが消滅してしまったのだ。
大事件である。
なけなしの授業料といえども決してただではない。
金貨1000枚の収入が200件減れば20万枚になる。
額にして20億円。
大金だ。
退学になったのは特待生が多いので、それほどの損失ではないが。
それでも10億円ぐらいの損害は出ただろう。
馬鹿にはできない数字だ。
王立貴族学校の運営を任されているフレイザーは頭を悩ませていた。
なにせ貴族がやることである。
いかに校長といえども圧力をかけて止めるのは難しい。
できなくはないが、それには根回しがいる。
その一環としてフレイザーは侯爵家に属する僕を校長室に呼び出した。
「困ったことになりました」
「そうだな」
「学校から追い出されたのは素行の悪い者ばかり。とはいえ、今のままでは優秀な学生までがいじめられかねません」
「よくわかる話だ」
「ウォーレン様は派閥を作って、平民学生を守っていただけませんか?」
「なぜ僕がそんな面倒なことをするのだ」
「しかし、領地運営のための人を集めていると聞きました」
「僕が集めているのはあくまでも優秀な生徒だ。権力にたかるハエは必要ない」
もともと優秀なやつには全員声をかけたのだ。
鼻で笑うように断られたわけだが。
バレンティーンをはじめとして、10人程度は僕についてくるという。
ひとまずはそれでいい。
自分の身が危なくなってからすり寄ってくるのなら、せめて頭を下げるべきだ。
でなければ道理が通らない。
僕には先に雇った人間を優遇する義務がある。
「向こうから雇ってくれというなら考える。今は何もできん」
「しかし、学校の運営が」
「資金はたっぷりプールしてあるだろう?」
「向こう10年間は問題ありません。でも、それとこれとは別の話です」
「ならば、貴族当主に寄付を求める手紙を書け」
「それは当然打つべき一手ですが……他にも案がありましたら、ぜひ伺いたいものです」
校長のフレイザーはもみ手をしながら僕に頭を下げた。
やれやれ。
中間管理職は大変だな。
彼はそれほど権力が大きくない。
施策が失敗した時に、僕の肝いりだったという保険が欲しいのだろう。
それならば言い訳は立つ。
「学生向けに作ってある採掘品マーケットに税金をかけよう」
「問題が出ませんか」
「もともと庶民向けの救済策だったのだ。引き締めにはちょうどいい。特例の取り消しなら校長の権限でできるだろ?」
「わかりました。そうしましょうか」
庶民に流れる金が減れば、貴族はより頼られるようになる。
上下関係が明確になる。
認可を取るにしても上の意向を窺う必要があるので、反抗心は減るだろう。
「これだと、ダンジョンの魔物対策が少々おろそかになりますが」
「貴族向けの義務を強化しよう。私兵を使ってダンジョンを探索をさせるのだ」
「実質的な授業料の値上げですか」
「そういうことだ」
もともと、貧乏貴族でも学校に来られる今の状況がおかしい。
ここは選ばれた者の学び舎だ。
男爵家や子爵家の次男三男が僕にケンカを売るとか理解不能だし。
「後は宣伝だな。門戸を広げて、貴族の紹介がなくても入れるようにしろ」
「そ、それではわが校の伝統が」
「もともと他の貴族に流れる賄賂なのだ。うちで回収してもかまうまい」
「問題になりますぞ」
「もちろん危険人物は面接で弾く。地域ごとの入学制限もつけろ。後は試験でふるい落とせばいい」
「それは我々の一存では決められません」
「当たり前だ。父に相談して、他の貴族へ根回しをしてからだな。今回の事件を盾にして相談してみろ。おそらく通る。それが歴史の流れだ」
最近は通商が盛んになり、市民が力を持ちはじめている。
もっと門戸を広くして一般に開放するべきだという声もあるようだ。
他の公爵家からもそういう打診があったという。
ならば問題ない。
伝統を重んじる保守派の貴族からは嫌われるだろうが。
多数派でありさえすれば改革は成立する。
政治とはそういうものだ。




