第2話「ノエルと迷宮探索」
第三ダンジョンが閉鎖されているため、今回は第六ダンジョンを探索した。
ノエルと僕の近衛二人をつれてダンジョンに潜っていく。
5層。
6層。
7層。
極めて順調だ。
モンスターを見つけた端からジェノサイド。
斬ったり刺したり叩き潰したりして、次々処分していく。
「ウォーレン様は、その」
「なんだ?」
「お強かったのですね。知りませんでした」
フルアーマー装備のオーク兵を突き倒して蹴り殺したところ。
ノエルはまじまじと僕を見た。
表情が驚いている。
オーク兵はそこそこ強敵なので、危なげなく倒したことを評価されたらしい。
「ほれなおしたか?」
「多少は。思ったよりも頼りになるかただと感動しています」
「素直だな。珍しいじゃないか」
「私も年中怒っているわけではありません。ウォーレン様が怒らせるようなことばかりするのが悪いのです」
確かに。
以前のウォーレンはセクハラマスターだった。
ノエルの肩をもんだり胸をもんだり。
抱き寄せたり。
キスを迫ったり。
邪悪の権化のような男である。
それだけならまだいいいのだが。
会話をしようとしない。
冗談を言わない。
相手に話させて自分は沈黙を貫く。
女の子に嫌われるためだけに生きているような男が、以前のウォーレンだ。
「まあ、僕も少し歩み寄ることにしたのだ。それが両家の繁栄のためでもある」
「そうですね。私も歩み寄らねばなりませんね」
「さしあたって、帰ったらセックスをしないか? あれは楽しいものだぞ」
「まっぴらごめんです。ウォーレン様はそれと肥満さえなければよかったのに」
おおう。
やはり太った男は嫌われるのか。
150キロはぽっちゃりで済む領域ではないのだ。
わかってはいるのだが。
ショックだ。
好きな女の子から否定されると悲しい気分になる。
ちなみに僕の体重だが、現在は少し減って140キロぐらいになっている。
とはいえ、これはダイエットが進んだわけではない。
水気が抜けただけだ。
食事を減らしたから胃腸に詰まっている食べ物が減っただけ。
ダイエット初心者特有の症状である。
飽食の限りを尽くした者が減量をはじめれば、すぐに10キロは減る。
ダイエットはそこからが長い。
血管が詰まって脂肪細胞だけが孤立した肥満体。
そこに再び血を通わせる。
脂を体に巡らせて少しずつ処分していく。
気の遠くなるような作業だ。
最初の一週間で10キロが落ちたとしても、決して油断はできない。
一か月で6キロ。
一年で70キロ。
それぐらいのペースで減らしていくべきだろう。
当面の目標は1年後のスキル再取得まで。
その時までに標準体型を作り上げておくことが、今の僕の仕事だ。
道中のノエルは鬼神もかくやという強さを発揮した。
ヒュージスライム。
マッドモンキー。
闇コウモリなど。
いずれも初心者冒険者ならば1対1でも手こずるモンスターだったのだが。
「たあっ!」
ノエルは一撃で仕留めた。
出会いがしらに次々と斬り捨てて顧みることもない。
本人にとっては当たり前の結果なのだろう。
言うだけのことはある。
ノエルの剣は速くて鋭く、僕とは違って思い切りのほうもいいらしい。
「もっと防御のほうに力を入れるべきじゃないか?」
ケガを心配して行われた僕の提案は、しかし、空振りに終わった。
「何を言うのです。一撃で倒した方が結果として安全ではないですか」
「反撃を受けることもあるだろう?」
「それは避ければいいのです。戦闘時間は短ければ短いほどいいに決まってます」
「万が一ということもある」
「ウォーレン様は考えすぎです。戦いは最善の結果だけを思い浮かべて動き、後は現実がそれに追いつけばいいのです」
直情的なノエルらしい戦闘観である。
いや、そういえば僕の護衛もそんな感じで動いていた。
ならば悪いのは僕か。
140キロの体重という前提があるから、ノエルと同じには動けないのだが。
「あいつ相手だと、そうもいかないだろ?」
「そうですね」
僕が指さした先では巨大な猿型モンスターがこちらをにらんでいた。
でかい。
2メートルはある。
しかも弱いが魔力も持っている。
体重は目算で200キロというところか。
「僕が前に出る。ノエル達は遊撃を」
「了解!」
それ以上作戦を練る暇もなく、猿型モンスターが開戦の雄たけびをあげた。
両腕に持っていた石弾を僕たちに投擲する。
パァン!
隣の地面がはじけた。
距離があったので避けられたが。
あれを食らえば防御態勢であってもアザぐらいはできるだろう。
猿は賢い。
道具も使う。
嫌な相手だ。
とはいえ1対1でも倒せる敵なので、危険というほどではない。
目の前に迫った僕を迎撃するために大猿が手を振り上げた。
そのまま叩きつける。
体格は僕のほうが小さい。
ひしゃげてつぶれると思っていたらしい猿の一撃は、しかし受け止められた。
「ギッ!?」
大猿はたじろいだ。
バカめ。
見た目には格下に見えるだろう僕だが、持っている魔力の桁が違う。
体重は500キロあるのだ。
しかも魔力で強化されている。
防御に専念すれば猿の剛腕を受け止めるぐらいわけはない。
「かあっ!」
ザクッ、ザクッ、と猿の両足が次々と切断された。
護衛が2人。
横から回り込んで攻撃を加えたのだ。
大猿がバランスを崩したので喉に突きを入れる。
体の大きさだけは上回っていたにせよ、持っている質量が違う。
あっさりと突き倒されたモンスターにノエルが肉薄した。
「てやあああああっ!」
剣を心臓の位置に突き入れる。
悪手だ。
あと一押しというところで分厚い大胸筋に阻まれた。
大猿の腕がノエルを弾き飛ばす。
左腕で受け止めたノエルはごろごろ転がって衝撃を逃がしながら退避した。
蹴る。
蹴る。
蹴る。
腕の届かない位置から僕は猿の足の切断面を蹴りつける。
大猿は悲鳴をあげて転がった。
狂ったように両腕を振るってガシガシと地面を叩き続けている。
しかし、長くはもたない。
距離を置いて見守っていると、だんだんと動きが鈍くなってきた。
大猿は疲れた。
護衛は腰のナイフを抜いて大猿にのしかかり、その首を掻いてトドメを刺した。
「ノエル、大丈夫か?」
「平気です。いたたたた」
猿の一撃を受けたノエルが顔をしかめている。
どうやら受け身に失敗したらしい。
たしかに強敵ではあったが。
ケガをするようではまだまだだな。
もっと後ろに下がって傍観し、護衛の二人に任せておくべきだった。
「でしゃばりすぎだ。だから怪我をする」
「前のパーティーでは私が出ないと戦いにならなかったんです!」
「ここではお前が最弱だ。無理をする必要はない」
「納得いきません」
「なにが?」
「後ろでこそこそ見てるなんて、足手まといみたいじゃないですか!」
子供みたいなことを言うやつだ。
いや、子供か。
そうだったな。
ノエルは子供だった。
私が私がと挑戦して失敗して、人に迷惑をかける。
それでいいのかもしれない。
同じ失敗を繰り返すようではだめだが、ことの最初はそのようにあるべきだ。
「しかし、ケガをしたのはいただけんな。それこそ足手まといだ」
「わかってます!」
「強いのは護衛にまかせろ。僕はそうしている」
「情けない! ウォーレン様はそんなことだから!」
「なんの話だ?」
「……いえ、すみません。八つ当たりです。確かに考えが足りませんでした」
ノエルはしおらしく謝った。
こういう時の女は放っておくに限る。
しかしあれだな。
ノエルか。
優秀な剣士ではあるが。
従順さという点では大いに不安がある。
仲間としては及第点ぎりぎりというところか。
まあ、さすがに近衛並みの活躍を期待するのは無理がある。
彼らは侯爵領土全域を探して、これは、という人材だ。
ノエルの素質はすごいが。
近衛のレベルに並ぶには5年ぐらいはかかるだろう。




