第1話「アフターフォロー」
ノエルのパーティーメンバーの末路はひどいものだった。
真っ先にケンカを売った男はギロチン刑。
その首は校舎の目立つ場所に一週間ほどさらされていた。
罪状は侯爵子息への侮辱罪と傷害罪。
校長に先のできごとを相談したところ、風紀の引き締めに手頃だったという。
喜んでやってくれた。
できれば僕がやりたかったのだが。
まあいいか。
うちの妖精さんはあんまり殺戮が好きではないようだし。
人任せにしても、まあ、今回は問題あるまい。
他のパーティーメンバーは3人が退学。
3人がダンジョンで奉仕活動。
ノエルは監督不行き届きで謹慎。
彼女の祖父と兄は侯爵家に滞在していたのだが、すっとんで謝りに来た。
わざわざ僕の寮まで。
もちろんノエルもいっしょだ。
だいぶこってり絞られたようで、謝罪に来たノエルはずいぶん憔悴していた。
そりゃそーだ。
前回はレイプ未遂犯を殴っただけだからまだ理解してもらえたが。
今回はノエルが悪い。
そりゃもう完全に。
人を集めて僕の暗殺をたくらんだという冤罪を着せられてもおかしくない。
そういう状況だった。
付き合う人間は選ばないと、悪友が犯した罪までかぶることになる。
そういう話だ。
もともと婚約者がいるノエルが平民と付き合うのはいい目では見られていない。
僕があまりにも醜くて魅力がないから見過ごされていたのだ。
年頃の娘の自由を奪うのは気の毒かもしれない。
そういう温情として好き勝手にやらせていたのだが、今回は目に余った。
一時は婚約解消という話にまでなったほどである。
それは僕が断った。
なにせノエルはまだ14歳なのだ。
多少の無礼は大目に見るべきだろう。
あと5年もすれば反抗期も収まり、分別もついて、しとやかな淑女となる。
そのように説得したため、話はそれで収まった。
やれやれ。
危ないところだった。
ノエルの処女は僕のものである。
予約済みなのだ。
他の男に奪われるなんてとんでもない!
ノエルは超好みの女の子なので、婚約している現状はむしろ望むところ。
疎ましいとは思わない。
もちろん迷惑は迷惑として怒りはするが、それで突き放すことはない。
傍にいてほしい。
デートとか膝枕とか、恋人つなぎとかするのだ。
イチャイチャしまくるのだ。
今は嫌われているが、いつかはそうなるはずなのだ。
『それは無理なんじゃないの?』
妖精さんは夢も希望もないことを言い出した。
『だってさー、あれ、もう完全に嫌われちゃってるじゃん。脈なしじゃん』
『うるさいだまれ』
『あの状況から好感度がプラスになるわけないと思うんですけれど』
『彼女はツンデレなのだ』
『ないない。デレ期にたどり着くビジョンがまったく見えない件』
『僕には見える』
『都合のいい幻覚だね。シャブでもやってんの?』
『そこまで言うか!?』
いや、そりゃ嫌われてる自覚はあるけど!
むしろ好かれる要素ゼロだけど!
150キロのデブだけど!
『外見はあらゆる要素で一番大事だからね。これは魅力を下げた報いだよ』
『ただしイケメンに限るというやつか』
『まーねー。いや、もちろんイケメンなら誰でもいいってわけじゃないけどさ』
『ほんとかよ』
『肌に合わないイケメンってのもいるから。そういう場合はパス。好みのイケメンなら意地悪されただけでも好感度が上がる。女の子の常識だね』
『汎用的なイケメンではなく個人特化型のイケメンであることが重要と』
『うん。ただ、これはあくまでも自由恋愛の話だから。政略結婚で愛を成立させる方法なんてわかんないよ』
それは僕にもわからんな。
どうしよう。
このまま嫌われたまま、というのは困る。
僕は純愛派なのだ。
無理やりというのも全然いけるが、童貞は純愛で捨てたい。
『普通にすればいいんじゃん?』
『普通とは?』
『季節のおりにプレゼントを贈って、たまにデートに誘って、こまめに会って日常のことを話して』
『そりゃー本当に普通だな』
『外見が劣ってるんだから手間をかけるしかないでしょ。それが嫌なら権力で無理やりモノにするしかない』
『僕は純愛派だ』
『ウォーレンは?』
『どっちもいける』
『うへぇ』
妖精さんは辟易したようにつぶやいた。
しかし、まあ、そうだな。
普通か。
普通にするか。
それが自然なのだろう。
僕は暑中見舞いの品を買って、ノエルの屋敷に向かった。
というわけで、ノエルと一緒にダンジョン探索をはじめることになった。
彼女の寮の物置には探索用の物資が山と積まれている。
次回の探索に使う予定だったという。
その予定は消えた。
僕がつぶしたといってもいい。
パーティーメンバーを失ったノエルは、当面ダンジョンに入れなくなったのだ。
「今のままでは、私はもう外出さえできません」
「謹慎中だからな」
「ウォーレン様のせいです」
「自業自得だと思うが」
「わかっています。今回の件は私が悪いのでしょう。さすがに全方位の知人から叱られればバカな私でも悟ります」
「うん。ばーか」
見舞いのスイカを食べながら罵声を放ってみる。
ノエルはぎりぎりと歯ぎしりして悔しがった。
「ぐっ……と、とにかく。今のままでは体がなまってしまいます。ウォーレン様は最近10層に到達なさったとか」
「いやあ、それほどでも」
「別にほめてはいないのですけれど」
「そうなのか?」
「い、いえ、もちろん感心はしておりますよ。前の私のパーティーでも10層には行けなかったですし」
「まあ、僕も護衛なしだと無理かな」
「そうでしょうね。そこでウォーレン様。もしもパーティーの枠に余りがあるのなら、私を探索メンバーに加えてほしいのです」
驚きの提案である。
どうやら彼女は相当に暇を持て余しているらしい。
いや、まあ、気持ちはわかる。
ノエルは活動的な女の子だ。
寮に閉じ込められたまま日々をすごすというのは拷問にも等しいのだろう。
「ノエルを?」
「はい」
「僕のパーティーに?」
「はい。お邪魔でしょうか?」
「うーん……まあぶっちゃけ邪魔かな。いちゃいちゃするのはデートとかでやるべきだと思う」
「戦闘力にはそれなりの自信があります」
「いや、そういう話じゃなくて。ダンジョンは同性同士で潜った方が都合がいいんだよ。わかるだろ?」
「物資や装備のことがありますからね」
「そうそう」
「しかし、私も多少気遣っていただければ多くは望みません。同行させてもらえませんか?」
僕は少しだけ考えた。
妖精さん。
プライベートピクシー。
彼女にはレベリング機能があるらしい。
得られる経験値は殺した生き物の数と質に比例する。
仲間の上限は4人。
僕を入れて5人。
経験値は人数割りではなく全員共通で入るらしいので、頭数は多いほどいい。
ノエルを入れる枠はある。
彼女はそれなりに強いので、足手まといになる可能性は低いだろう。
「ふむ。まあ、デートの延長だと思えば許せなくもないけど」
「では?」
「それじゃ、お試し期間ってことでいいか? 何回か潜ってみて、いまいち呼吸が合わなかったら解散ということで」
「それでお願いします」
そういうことになった。




