第6話「面接終了」
ノエルとの待ち合わせ場所には、8名程度の人間が集まっていた。
王立魔法学校にある運動場の一角だ。
木陰なので涼しい。
風もよく通る。
使用には事前申請がいるのだが、僕は貴族である。
空いている場合には使える。
誰からも文句はでない。
遠目にノエルたちの姿を確認した僕は、そこで首を傾げた。
あれ、場所を間違えたか?
ノエルと一緒にいるのは彼女のパーティーメンバーだ。
ダンジョン探索のための人員である。
男女混合で7人ぐらい。
授業で見た顔も混じっているから、たぶん学生仲間なのだろうけれど。
いやしかし。
今日の予定はダンジョン探索ではない。
僕の領地運営に使える人材を推挙するとのことだったが。
まさか彼らが?
いやいや、そんなバカな。
ノエルと彼らとはあくまでも迷宮探索の同行者という付き合いだ。
その縁は浅い。
若くて未熟な彼らを推挙する意味がない。
ノエルにはお付きの武官がいるし、男爵家で顔なじみの家臣もいる。
それらを差し置いて友達を推すなんて。
友達というものは孤独をいやしてくれるが、モノの役には立たないのだ。
貴族なら誰でもそれを知っている。
もしかして、推挙する候補者は他にいるのだろうか?
お付きの武官もいないし。
ダンジョンで待機しているとか。
今から移動して魔物討伐の戦果を見てもらうとか、そういう話なのか?
「ウォーレン様、お待ちしておりました」
「ああ、ごくろう」
「お言葉の通り、有望な人材を集めました。彼らを近衛に推挙いたします」
「彼らとは?」
「ご冗談を。目の前にいるではありませんか」
「その7人を……推挙?」
「はい」
「僕の近衛に?」
「はい。彼らは誠実にして優秀、仁と義とを心得た者たちです。ウォーレン様の忠臣になれるかと」
ぽかーん。
僕は放心した。
魂が口から抜け出て空高く浮遊した。
そして現世に戻る。
時間にして数秒ぐらいか。
ノエルのぶっとび理論を飲み込むためには間を置く必要があったのだ。
え、まじで?
なにいってんのこの子?
僕はあぜんとした。
つーか、知らなかった。
ノエル。
こんなにバカな子だったのか。
ショックだ。
いや、14歳だ。
世間知らずなのが当然だと、理屈の上ではわかるのだが。
思わずふりかえって背後を見る。
連れてきた近衛が2人。
申し合わせたように苦々し気な表情を作っている。
が、次の瞬間。
ふりかえった僕のバカ面を見てそれは苦笑に変わる。
うん、そうね。
僕も同じ気持ちだ。
肩をすくめて共感の笑みを浮かべ、再度ノエルたちへと向き直る。
ノエルの連れてきた親衛隊もどきを見る。
みんなノエルのパーティーメンバーだ。
不敵な顔をしている。
そこそこ強い。
あくまでも学生としては。
あー、なんつーか、あれね。
ノエルちゃん。
学校しか世界がないから、そこでヒロインを張ってて勘違いしちゃったのね。
ある意味学生から人気がある、というのは無能の証明でさえあるのだが。
カルラでさえ学生仲間からはあまり好かれていない。
僕なんて評判最悪だ。
それでも全然問題ないのが貴族というものなのに。
実のところ、ノエルは僕よりも自分が上だと考えているふしがある。
世間の評価ではそうだろう。
あたりまえだ。
ノエルは世間側。
僕は支配者側。
僕の人気が低いのは絶対に覆らない。
ノエルのパーティーメンバーたちは、それを隠そうともしなかった。
むしろアピールした。
彼らのうちの一人が前に出て、まっすぐに僕を見つめる。
「ウォーレン様よ、ひとつ言っておくことがある」
「なんだ」
「俺たちはノエル様には心酔している。しかしあんたは別だ。俺たちにふさわしい主であるかどうか、これから見極めさせてもらうぜ」
「……そうだな」
この空気の中で育ったというなら、勘違いもしかたないか。
しかし、それに多少の影響は受けるとしても。
ノエルよ。
ちょっとこれは異常だぞ。
最低限、自分の身のほどぐらいはわきまえてもらわないと。
鼻を折る必要がある。
今回のことについては、彼女と僕の父の双方に手紙を出すとして。
まずは自分で折るか。
それがノエルのためだ。
「これより面接をはじめる。おのおの正直に答えよ」
僕はせいぜいいかめしい表情を作り、ゆっくりと質問した。
「僕がこの場でノエルを殺せ、犯せ、などと命令したとする。どのようにふるまうか答えろ」
ちょうど僕の気分をそのままに質問してみたところ。
やはりというべきか。
彼らは全員が怒りの表情を浮かべた。
「そのようなこと、とてもできません」
「お前は」
「無理です」
「お前は」
「そのような質問をなさるとは。ウォーレン様の人格を疑います」
「お前は」
「私はまだ部下ではありません。しかし、良心の範囲内で、主の命令を最大限守ることは当然と考えます」
「なるほど」
全員が質問に答えた。
やるといったのは一人だけか。
どうでもいい。
この質問に対する答えだけでも、彼らの人となりはわかる。
僕はざっと全員を見つめて言った。
「いらんな」
結論は明らかだ。
考える余地もない。
それで話は終わったので、僕は去ることにした
「合格者はなしだ。これで面接を終了する」
さて、帰るか。
まずは報告書を書かないと。
ノエルの父に送る手紙の文面を考えていると、背後から声がかかった。




