第5話「もっと増やすぜ」
仕官の打診を受けたバレンティーンは不愉快そうにふんと鼻を鳴らした。
それだけで回答はわかる。
とはいえ、口に出すまでは確定しないのが会話というものである。
「どういうことですかな?」
「僕の領地運営に一枚かんでみないかと聞いている」
「我々には接点がありません」
「そうだな」
「他の人を雇うのがよろしいかと思われますが?」
「そうでもない。バレンティーン殿のうわさは聞いている。政治家として非常に優秀であるそうだ」
「恐縮です」
まったく感情のこもらない声でバレンティーンがうなずいた。
「しかし、噂とはあてにならないもの。実際に使えるかどうかは使ってみるまではわからない。みずからの実力を証明するつもりはないか?」
実のところ、バレンティーンの実力はすでに証明されている。
彼は十分な実務経験のある官僚だ。
派閥争いに負けた末に、伯爵からうとまれて放逐されたという経歴を持つ。
調べても後ろ暗いうわさは出てこない。
めったにない人材だ。
ぜひとも僕の部下に欲しい。
しかし、そういう優良人材に対しては、当然引く手もあまたになる。
やはりというべきか。
バレンティーンは嘲るような表情で僕に返事をした。
「お断りします。私にも選ぶ権利というものがありますゆえ」
「率直だな」
僕は苦笑し、しかし諦めるつもりはないので勧誘を続けることにした。
「なら聞くが、バレンティーン殿はこのまま野に埋もれたままでいるのか?」
「それもいいですな」
「本心とは思えん。政治に携わる者は大きな仕事を成し遂げる喜びを知るものだ」
「主によりけりでしょう」
「僕では不満か。他の候補としては誰をあげる?」
「たとえばカルラ殿ですかな。私はかの御仁からも熱烈な勧誘を受けております。ウォーレン殿はカルラ殿を上回っている自信がおありですか?」
「あるとも」
目を丸くされた。
そりゃそうだ。
カルラと言えばその英雄的な活躍が貴族社会全土にまで知れ渡っている女傑。
僕などでは及びもつかない。
しかし、バレンティーンの主としてということなら話は違ってくる。
「ふむ、どうやらウォーレン殿はご自身のことがよくわからぬご様子」
「そうでもない。それはむしろお前だ」
「ほう。おもしろいですな。私のどこに理解不足があるというのです」
「簡単だ。カルラは英雄だぞ」
「ふむ。当然ですな」
「英雄は大量の人を集める。名声にひかれた優秀な人材が集うだろうな」
「いいことです。国も繁栄しましょう」
「それほどの光り輝く綺羅星の群れのなかで、お前程度がどの程度輝けると思うのだ?」
「……なるほど」
さすがに悟ったらしく、バレンティーンが目を細くした。
「僕の評判は聞いているだろう。忌憚なくいってみろ」
「エニウェア侯爵家のアホ子息、というのは、いささか言いすぎでしょうが」
「そう、それだ。そんな僕の周りには人がいない。お前が活躍できる余地が広くあるとは思わないか?」
「……たしかに」
彼の姿勢が少しずつ前のめりになっている。
わかりやすいな、この人。
僕は続けることにした。
「人が人としてどれほど活躍できるか。そのすべては予算規模による。どの程度の金を任されるかで動かせる仕事が決まる」
「当然ですな」
「僕の家の人口は4000万。港も多い。カルラの家は1億だ。予算規模はまあ、3倍というところか」
「公爵家の強大さです」
「しかし、カルラは10歳のころからの手腕で人を大量に集めている。おそらく僕の10倍は忠臣を持っているだろう」
「それは想像に難くありませんな」
「仮にお前の能力が互角かそれ以上だとして、古くから仕えてくれた忠臣よりも上にお前を置けると思うか?」
「……」
答えはなかったが、その沈黙がどちらの意味を持っているのかは明白だ。
「考えろ、バレンティーンよ。僕とカルラ、どちらにつくのがお前のためか。カルラの下で働いて本当にいいのか。まわりに人がいない僕こそが仕えるべき君主だとは思わないか?」
「以前は思いませんでしたが、なるほど。たった今、私の気が変わりました」
バレンティーンは立ち上がって服を整え、そして姿勢を正した。
「なら、ついてきてくれるな。出発は1か月後だ」
「お供いたしましょう」
よしよし。
人材を一人ゲットだ。
この調子でどんどん勧誘していくとしようか。
何人か声をかけて10人ほどの同行者を得た。
しかし、まだ足りないな。
僕個人の知っている才人は全員回ったのだが。
だいたい断られたし。
二回目の勧誘は時期をみて、ぺこぺこへりくだりながらお願いするとして。
後は周囲のコネを使って人を集めるしかないか。
カルラは……最後にしよう。
こわいし。
まずはノエルから行くか。
ノエル・スークスは僕の婚約者だ。
人望はある。
スークス男爵家のコネもある。
お付きの武官はもとより、僕の知らない人材も紹介してもらえるだろう。
「ノエルよ。僕はもうすぐ領地に戻る」
「そうですね」
「お前も来るよな?」
「毎年のことですから」
「それにあたって、使えそうな人材がいたら推挙しろ」
「まあ、珍しいですね」
「僕もいろいろ考えて生きているのだ」
「わかりました。人を集めておきますので、3日後はいかがでしょう。その時に面接するということで」
「それでいい」
そういうことになった。




