第1話「アイテム収納」
当主である父と校長に向けてケンカの顛末を記した手紙を書いた後。
僕は学校に向けて出発した。
時刻は昼過ぎ。
食事を終えた学生たちがスポーツで遊んでいるころだ。
授業が始まるにはまだ時間がある。
僕は冒険者ギルドの機能を持っている探索科へと足を運んだ。
「ウォーレンだ。結果を報告したい」
「はい」
第三ダンジョン担当の職員に活動記録を渡す。
待っている間に室内を眺めてみた。
活気がある。
ざわざわしている。
売店と直結しているため、装備を整える冒険者の姿もある。
パーティー募集やら仕事の依頼やら。
掲示板には無数の紙が貼りつけられていて、空きはほとんどない。
第二ダンジョンでブルースライムが大繁殖
パーティー急募
ガイアサウルス東へ
デビルマッシュルームの群れが移動中。メッシナの森には近寄らぬこと
ゴブリンキング発生!
北部の村がストーンバードに襲われています。至急援軍を!
罠師募集。害虫駆除の指導をお願いします
森林火災発生。現在は下火。魔物の移動に注意
どうやらイベントというのは常に起きているらしい。
感覚としてはバイトの募集。
プラス災害速報というところか。
たぶん僕がもたらした情報もここに加わるのだろう。
6層で魔族出現。危険度B。探索者は気を付けられたし
そんなところかな。
あの魔族は一般学生の手に負える相手ではなかった。
討伐隊が組まれるか。
もしくは第三ダンジョンの入場が制限されるかもしれない。
めんどうな話である。
『だったら倒しとけばよかったのに』
『ばかを言うな。ただ働きだぞ?』
『見てないけど、勝てる相手だったんでしょ?』
『むりむり。意味がない。魔族ってのは被害が出て初めて戦う価値も出るんだ』
ちなみにプライベートピクシー。
香山美咲。
彼女は僕の体内に引っ込み、僕の目を通して世界を見ているらしい。
相変わらずの不思議生物である。
寄生プレイを願ったニート少女は、今も絶賛引きこもり中のようだ。
『そーいえばさ』
『なんだ』
『気にしたことなかったんだけど、男の子の視線ってけっこうあれだね』
『なんの話だ?』
『いや、メイドさんとか女学生とか職員とか。胸とか尻とか太ももとか。エッチな目でガン見してるじゃん。ちょっと居心地が悪いかも』
『それはあきらめろ。男の習性だ』
『もーちょっと紳士的にふるまって欲しいといいますか』
『バカを言うな。そういう目で見るから気があることに気付いてもらえるんだ。見なければ何も起きないぞ』
『童貞の主張?』
『これはウォーレンの主張だ』
女関係に関しては彼にはとてもかなわない。
さすがに100人斬りとはいかないが。
10人を軽く超える女とセックスしてきた男である。
その話は聞くべきだろう。
暇つぶしの会話をしながらぼんやりしていると、職員から声がかかった。
「ウォーレン様。確認できました。10層攻略おめでとうございます」
「ありがとう」
「こちらが魔石の対価になります。ご確認ください」
「うむ」
枚数を数えてから金貨袋に入れる。
ちょっと不安だな。
僕は現金を持ち歩くのが嫌いなのだ。
こういう時にアイテムボックス機能があればよかったのに。
『そういえば、ピクシー』
『なーにー』
『スキルの道具箱とやらがあれば、異空間にアイテムを収容できたのか』
『それはできないよ』
『できないのか』
だったら取らなくて正解だったな。
『道具箱ってのは水と食料とお金とナイフ、あとは薬とか包帯とか。まあ森で迷っても1週間ぐらいはなんとかなるかな、という程度の救済アイテムだから。そんな便利機能はない』
『それで100ポイント消費は高くないか?』
『気づいてると思うけど、あれは消費ポイントが高いからいいスキルってわけじゃないんだよ』
『そうみたいだな』
『だからチェック外してる君は英断だったと思うよ。てゆーか、むしろなんで外せたのか意味わかんないぐらい』
どうやら香山美咲は設定勘の力を知らないらしい。
別に言う必要もないか。
彼女が完全に味方であると、まだ確定したわけではないのだ。
『僕は運がいいからな。天運スキル持ちだし』
『天運にそんな力はないんですけど……ああ、そうそう。プライベートピクシーにはアイテム収容機能があるよ』
『それを先に言え!』
一番重要な情報だろうが。
なぜ黙っていた。
アイテムボックスは異世界転生者の夢だ。
これがあれば長期間のダンジョン探索だって決して不可能ではない。
『ちなみに、どの程度の量が入るのだ?』
『6畳1間丸々ぐらい』
『素晴らしい』
『ただ、ちょっと整理に手間取るってゆーか……種類が多いと探すのに時間がかかるかも』
『異空間に山積みしておく感じか?』
『部屋の壁一面に棚があって、そこに並べておく感じかな。だから単一の品ならたくさん入るけど、部屋がアイテムで埋まってると取り出すのに一時間以上かかる』
『ゴミ屋敷か』
『そーだね。そんな感じ。整理整頓は大切だよ』
僕はさっそく金貨を収納してもらうことにした。
アイテム収納と念じる。
袋が軽くなった。
どうやら無事に使用できたらしい。
『出すときはどうするんだ?』
『私に言って。取ってくるから』
『袋の中に直接戻したりはできないのか?』
『できるけど、めんどう。両手ですくうようなポーズを取ってくれればその中に落とすから。自分でしまってほしい』
ものぐさなやつだ。
まあいいか。
あまり命令しすぎて関係が悪くなっても困る。
美咲は僕の部下ではない。
本人が言うのならそうするべきなのだろう。
しかし、アイテムボックスか。
便利を通り越したすさまじい力だな。
宝石とか盗み放題だし。
顔が割れないようにする必要はあるが、窃盗にはうってつけだろう。
懸念事項としては、美咲がどの程度僕に協力してくれるかだ。
僕はアイテムを出せない。
つまり、美咲にアイテムを質として握られている状態とも言える。
抜け道はあるのかもしれないが、現状ではわからない。
念じてもアイテムは出なかった。
預けたアイテムの所有権は、すなわち美咲の側に移ったということになる。
……重要なアイテムは預けないほうがいいな。
せいぜいが小銭と食料、生活必需品なんかにとどめておくとしよう。




