第3話「教えて妖精」
「それで、ピクシーのお助け機能には何がある?」
「いろいろー」
僕は妖精の体をつかんで投げ捨てた。
「ぎゃー!?」
「ボケはもういい」
「ボケてないよ! ほんとにいろいろなんだって! なんで質問の前に手が出るのさ!?」
「お前がからかうからだ」
「からかってるわけじゃ……すみません! ちょっとからかいました! だから離してください!!」
壁に向かって投球フォームを取ると、香山美咲は必死で泣きを入れた。
僕の手をぺちぺちと叩いてきたので離してやる。
「それで、具体的には?」
「今はせいぜい勇者システムの開放ぐらいだね。レベル制限があって段階的にできることが増えるんで、将来的に何ができるのかは私にもよくわからない」
「勇者システムとは?」
「おほん。この世界にはレベルの概念はありません。しかし、プライベートピクシーのマスターとその仲間には、レベルアップ機能があるのです」
香山美咲は無意味に説明口調になった。
ちょっとかわいいな。
可憐な妖精が先生然として説明する姿は、背伸びしている感じがほほえましい。
「そのレベルというのは、上げれば強くなるのか」
「うん。ステータスにブーストがかかる」
「比率は?」
「レベルパーセントアップ。100レベルで2倍ってことだね」
おおお。
それは最強じゃないか。
まわりが全部レベル1で、僕だけ1000とかなら11倍ってことだぞ。
向かうところ敵なしか。
一人で世界征服とかもできそうだ。
「そうでもない」
僕の顔色を読んだ妖精さんが間髪入れずに否定した。
「レベルは簡単には上がらないし、上限値も100で打ち止め」
「ふむ。しかし、100でも2倍だから」
「ところがどっこい。毎日ダンジョンで戦う最前線冒険者とかでもレベルは10年で20か30ってところ。100まで上がることはまずないね」
「レベルとやらは何をすれば上がるんだ?」
「生き物を殺せば上がる。毎日魔族を殺せば、10年ぐらいでレベル40にはなるかな。そこからの必要経験値は跳ね上がるから、ほとんど変わらないだろうけど」
「実質50で打ち止めか」
「うん。強いて言えば……あーっと、これは私の意見じゃなくて、あくまでもシステム上の話ってことをわかってほしいんだけど」
香山美咲はやたらともったいつけた後、言いにくそうに説明した。
「クラスメートを殺せば無条件でレベルが1上がる。あと、気づいてるかもしれないけど、この世界には学校関係者の500人近くが転移してきてるから。そっちは10人で1レベル上がる。全滅させれば、まあ、レベル80にはなるんじゃない?」
なるほど。
それは言いにくいだろうな。
人格を疑われる話だ。
とはいえシステム的には極めて重要な意味がある。
「レベル100ならステータス2倍。例えば体力100が200になると考えていいのか?」
「その通り」
「体力の世界平均値はいくらぐらいなんだ?」
「100きっかり」
「ううん? しかし僕は、魔力50でも十分強力な力を持っていたが?」
「それは勘違い。あの体力っていうのはあくまでも割合評価。君が憑依したウォーレン本来の力に割合をかけたものにすぎない。もともと人の倍の魔力を持っている人間なら、半減しても人並みの数値に落ち着く」
ふむ。
もともと半死半生の肥満体だったウォーレン。
だから体力80の僕は、転生した直後に死にかけたと。
つまりはそういう話か。
「強いて言えば、権力と財力と魅力に関しては絶対評価になる。これは初期値だけが重要だから。権力なら180で侯爵貴族級、200で公爵家の跡取りということになる」
「体力や魔力や知力は相対評価だと」
「うん。それは本来のウォーレンが持っている力への掛け算。権力と財力と魅力については外部環境による。それはレベルでどうこうなるものじゃないから」
そりゃそうだな。
レベルが上がったから所持財産が2倍になる、なんてことはありえない。
しかし、魅力はどうだろう。
これは変動しそうに思うのだが。
「魅力の扱いはどうなる?」
「それも初期値。だいたい100が人並み。80なら人並み以下。60ならクラスで一番不細工。40なら学校一の不細工。20なら目を背けられるレベル。10だと異臭を放って近づけないとか、伝染性の病気持ちとか、何らかの問題があることになる。0はもう、人に見つかったら殺されるレベルだね」
なぜ人並み以下の具体例ばかりが出るのかについては置いておこう。
言いたいことはわかる。
僕も自分の醜い容姿に関して自覚がないわけではないから。
「ダイエットをすれば魅力は上がると思うか?」
「上がらない。あれは転生体の遺伝的な美しさに現状をかけたものだから。君の場合は遺伝的な美しさはそこそこ、現状のデブでマイナスがかかってるって感じかな。やせればモテるかもしれないけど、魅力の数値は上がらない」
「魅力が低いとどんな問題がある?」
「別に何も。高ければ美男美女に生まれやすいってだけ。部下からの忠誠心とかに影響のあるステータスじゃない」
ほほう。
魅力の値を低くしていたのは大正解だったということか。
さすがは設定勘だ。
もしも必要だった場合、伸ばせ伸ばせと説教されていただろうからな。
「レベルが上がるのは僕だけか?」
「それはノー。勇者システムの持ち主なら誰でも上がる。仲間もあがる。一騎当千とはいかなくても、もとが強ければ100人ぐらいは相手にできるようになる」
「その勇者システムの持ち主とやらは何人いる?」
「世界で5人」
「誰だ?」
「君しか知らない」
微妙に使えない妖精さんである。
いやしかし。
十分役には立っているか。
レベルが上がれば能力も解放されるらしいし、今後に期待するとしよう。
「うちのクラスにも勇者がいると思うか?」
「わからない。可能性はあるよ。初期ポイントだけだと足りないはずだから、たぶんいろいろ制限かけてぎりぎりだと思うけど」
いない目のほうが多そうだな。
そうであってくれ。
元クラスメートが勇者として成長して王政打倒とか。
まったく笑えない状況だ。
芽のうちに摘んでおくべきかもしれん。
現状だと他の転生者のうわささえ聞かないから、特には何もできないが。
それにしても。
香山美咲。
まだ転生して二日と少しだというのに。
ずいぶんこの世界のことに精通しているじゃないか。
「色々詳しいが、それがプライベートピクシーの力ということか?」
「うん。世界システムの翻訳機が頭にある感じかな」
「他の機能は? まだ使えないか?」
「うん。今は無理だね。そのうち転生者の場所とかもわかるようになるけど」
「それは強力だな」
「あとね、持ってるスキルとかもわかるよ。モンスターの鑑定とか。お宝の世間一般での相場とかも。このへんは妖精の基本技能だから、今でもある程度できる」
「ほう」
ますます便利だな。
それなら姫プレイでも許せる。
ものの役に立つのであれば、お座りするだけでも文句はない。
「たとえば、これはわかるか?」
ダンジョンで手に入れた一番いい魔石を見せてみる。
「金貨37枚」
「おお」
正確だな。
ウォーレンの知識と照らし合わせても、だいたいそんなものだ。
「ああ、でも私にわかるのは末端価格だけだから。高いものがその値段で売れるとは限らないけれど。例えば骨董品とか、金貨500枚相当の品でも売るのに何年もかかったり。金貨100枚で売っても買い手がつかなかったりする。流通ってのは相場とはまた別の概念だからね」
「換金性が高ければ正確にわかるということか?」
「イエス。芸術品とかの鑑定はちょっと難しいかな。なんとなくはわかるけど」
金貨なら誰にとっても1枚は1枚だ。
芸術品だと人によっては10倍を超える値段の差が生まれてしまう。
鑑定が難しいのは当然か。
「ところで、着替えないの?」
美咲は僕をじろじろ見た。
ああ、そういえばパンツ一丁か。
迷宮帰りで体を拭いている最中に現れたので、着替えている余裕がなかった。
下から気配がする。
メイドが僕を呼びに来たようだ。
風呂が沸いたようなので、さっさと入ることにした。




