第11話「いじめっ子いじめ」
「おまえら、侯爵家の名を出した僕に対して笑ったよな?」
「だ、だからなんだよ!?」
アゼルとその取り巻き達が気圧されたようにのけぞった。
「公衆の面前で言ったのだ。この場の誰もが聞いている。忘れてやることはできんぞ?」
僕は右腕を軽く上げる。
護衛の二人が臨戦態勢を取った。
腰に下げた剣を抜き、戦うための魔力を体にまとわせる。
「フィル。サディアス。多勢に無勢だ。僕を守れ」
「お、おい、なんのつもりだ!」
「戦闘になった場合、剣を持っているやつはアゼル以外全員殺していい」
「なっ!?」
僕の指示を聞いたアゼルの取り巻きが顔を青くしている。
話が違う。
態度でそう言っている。
彼らはブタをいじめることを楽しんでいただけだ。
ここまで本気の対応をされるとは思わなかったのだろう。
なんだそりゃ。
うぜえ。
おまえら、ガキだからって調子に乗りすぎだ。
僕一人ならともかく、護衛を連れている状態の僕にケンカを売るなんて。
正気の沙汰とは思えないぞ。
僕は腐っても侯爵の後継者。
付いている護衛二人は侯爵家の精鋭といっていい。
父の近衛や教導隊トップの数名を除けば侯爵領最強の男達である。
学生などは物の数ではない。
侯爵家が誇る僕の近衛。
フィル。
そしてサディアス。
この二人とやりあえる戦士は限られる。
王立貴族学校といえども教師の上澄み数名。
あとは学生最強の一角と言われるテオボルト。
同じくオフィーリア。
公爵令嬢カルラ本人とその付き人。
せいぜいそれぐらいのものだ。
もちろん彼らには不可能。
取り巻きのほとんどは剣を捨てて降参のポーズを取った。
「て、てめえ。子供のケンカに大人の力を借りて恥ずかしくないのか!?」
「もちろん恥ずかしい。だから普段はやらない。しかし、侯爵家に対する直接の侮辱だけは異なる。お前はさっき、僕の家にケンカを売ったのだ」
「よせ、よせよ! 近寄るな!」
「謝罪があれば許してやってもいいが?」
「わかった! 謝る! 謝ってやる」
「何について謝るのだ?」
「侯爵家を侮辱して悪かった!」
「……誠意が足りんな。もっときっちりと謝れ」
「調子に」
ひゅおう、と石つぶてがアゼルの耳をかすめた。
壁にぶつかって爆散する。
顔に当たっていれば骨が砕けていたかもしれない。
ナイスだ護衛。
それぐらいの機転は利かせてくれると助かる。
「ひ」
アゼルは小便を垂らして震えた。
ほどなくして膝をつく。
地面に頭をこすりつけ、目に涙を浮かべながら必死の謝罪をはじめた。
「す、すみませんでした! ウォーレン様には二度と逆らいません!」
「いや、そこまででなくていい。僕は侯爵家への侮辱を撤回してほしいだけだ」
「撤回します! 撤回しますから!」
必死で叫ぶアゼル。
それを聞いた僕は大仰にうなずき、それから彼の取り巻き達に目をやった。
「けっこう。僕は先ほどのことを忘れた。お前たちも忘れたな?」
取り巻きは勢いよく首を縦に振った。
うむ。
これにて一件落着だ。
僕たちはその場を後にした。
彼らは残るようだ。
怪我人の治療をしてから戻るらしい。
男爵家の次男をおぶって地上まで連れていく……のはめんどうだな。
放置でいいか。
よしんば魔物に襲われて死んだとしても、僕の責任ではない。
家の格も違うし。
後でどうにでもなるだろう。
もくもくと先頭を歩く僕に、後ろから声がかかった。
「ウォーレン様。頼もしくなられましたな」
「よせよせ。おべっかはいらんぞ」
「いえ、立派でした」
「お前たちの力だ。僕の力ではない」
「我々の力こそがウォーレン様の力です。胸を張ってよろしいかと」
「あまりおだてるな。勘違いして僕の頭がパーになったとき、困るのはお前たちだぞ」
というか、あんな状況になる前に手を打つべきだったと思うがね。
子爵家の三男とか。
雑魚だろ。
家からの抗議があっても、むしろ子爵側が白い目で見られる。
そういう家のガキだ。
いくら子供の世界のこととはいえ、ウォーレンが譲る相手ではありえない。
前の学校では理事長に言えばよかった。
生意気な外部生は生活指導室に呼び出して囲む。
教師数人で射すくめて威圧する。
素行不良の冤罪をきせて退学をほのめかす。
それで黙った。
誰もが言葉をなくした。
身の程を教えるための行事はどこの世界にもある。
封建社会のここでもあるはずだが。
やれやれ。
ウォーレン。
この男は優しすぎるな。
それは不要な優しさだ。
権力を使って人を押しつぶすのに気が引けるなんて。
上に立つ者の持つべき考えではない。
よほど子供のころから悪い洗脳を受け続けてきたということか。
僕は教育係のめんめんを頭に浮かべた。
いらんな。
あいつらは全員カスだ。
王たるべきものが備えるべき徳と仁愛だと?
本気か。
僕を庶民の奴隷だとでも思っているようだ。
真に受けるウォーレンも悪いが、教えるのはもっと悪い。
人の上に立つ者は決して下から操作されてはならない。
そんなのは常識だ。
名君ほど子供時代には常にバカと呼ばれる。
行儀作法を押し付けて傀儡にしようとする勢力と戦っているのだから。
評判は悪くなる。
強ければ嫌われる。
だが、そんなことを気にしていては人を使うことはできない。
残念ながらウォーレンの父であるバイロンには子育ての才能はないようだ。
教育係の人選に不備がある。
仕事はできる。
本人はきちんとわかっている。
ただ、それを息子に伝えるという当然のことを怠った。
どうやら僕は父に対してもっと自己主張を重ねねばならないらしい。
甘えかたが足りなかったということだ。
さしあたっては、そうだな。
今回の後始末についておねだりをするとしよう。
親は子供から頼られると嬉しいものだ。
ウォーレンは自立心からそれを嫌がったが、そんなことでは関係が悪くなる。
家族仲が悪いのはまずい。
家族を粗末に扱って喜ぶのは部外者だけのことだ。
立派で自立しているとほめてはもらえるだろう。
バカか。
他人の共感を得て何の役に立つ。
家族を貶めることが美談だと勘違いしていいのは、貧民だけだというのに。
つーかウォーレン、お前が強いのは女に対してだけかよ。
なぜその強さを他で発揮できないのだ。
僕とか超弱いのに。
童貞なのに。
意味がわからねえ。
まあ、女関係については僕は詳しくない。
はやく婚約者のノエルを口説いて脱童貞したいものだ。
うむ。
そうだな。
それがいい。
異世界生活における当面の目標は、そこに定めるとしようか。




