第8話「10層にたどりつきました」
モンスターを殴る。
絞め落とす。
骨を折る。
いろいろ試してみたが、やはり格闘術はいい。
攻防一致。
魔力が体から逃げないので、武器戦闘と比べれば安心感が違う。
外殻が固いモンスターに対しては特に有効に作用する。
鎧が固くても内臓はもろいものだ。
逆に柔らかいモンスターであれば剣のほうがいい。
これらの戦術は使い分ける必要がある。
剣だけではよくない。
体術だけでもまずい。
状況に応じて正しい行動が取れること。
それが魔物相手の戦闘における極意の一つであるようだ。
「あとは実戦で鍛えてください」
「我々は専門外です」
「最低限の型は伝えました。これ以上のことはわかりません」
護衛は僕に教えることをやめた。
あとは勝手に強くなれ。
そういうことらしい。
ありがたい話だ。
あまり詰め込まれても覚えられないし。
当面の教材としての動きは見せてもらったので、ひとまずは成長するだけか。
戦う。
戦う。
戦う。
体が痛い。
全身が悲鳴を上げている。
しかし進むべきだ。
10層には条件がいい休憩ポイントがある。
聖域と祭壇がある。
10層に到達したという証拠の品までが置かれている。
僕たちは進んだ。
モンスターを蹴散らしながらダンジョンを探索した。
全身が汗だくだ。
疲労で気が遠くなる。
どれほど歩いただろうか。
気が付けば時は進み、僕たちは目的地のすぐそばまで近づいていた。
懐かしい魔力を感じる。
地上の魔力だ。
地下世界の魔力は地上のそれとは違う。
人に厳しくモンスターにやさしい。
それが地下の魔力。
ダンジョンに人が住めないのは魔力の違いによるところが大きいらしい。
ただ、ごくまれに例外的に。
ダンジョンの中でさえ。
地上の人間にとって居心地のいい魔力に満ちている場所がある。
俗にいう聖域。
龍脈の吹き溜まり。
ケガが治りやすく疲労が回復しやすい。
魔力の補給もできる。
地下世界で使った魔力はなかなか戻らないのだが、聖域でだけは別だ。
無尽蔵に力を回復できる。
危険なモンスターは寄り付かないし、安全度で言えばピカ一。
植物も生き物も多い。
潤沢な魔力を吸ってすくすく育っている。
ここで何日か過ごしてもいいぐらいだ。
もっとも、高密度の魔力に慣れすぎると体力が衰えるらしい。
体が甘やかされすぎてダレるのだ。
回復するにはいいが、長居は禁物とのこと。
居心地がいいことが常に最善であるとは限らない。
ともあれ、僕たちはここまで来た。
10層に到達した。
長かった。
ウォーレンが感動している。
それはもう猛烈に。
ちょっと僕には理解できないぐらい、彼の感情があふれているのがわかる。
どうやっても来れなかった。
歩くだけでつらかった。
やっとだ。
やっとここまで来た。
もう一生無理なのではないかと諦めていたのに。
まるで夢のようだ。
思わず涙が流れる。
僕ではない。
これはウォーレンの涙だ。
人には努力だけではどうにもできない壁がある。
できる人にはできる。
できない人にはできない。
できる人は「やればできる」というだけで済む話。
できない人は屈辱をかみしめて努力する。
くやしい。
なぜだ。
なぜできない。
無駄な自問自答をしながら超えられない壁の前でもがく。
しかし超えられない。
なぜならできないからだ。
人が超えられる壁の高さは個人ごとに決まっている。
努力で超えられる場合もあるが、たいていの場合は超えられない。
無慈悲にして残酷。
そしてある意味では公平。
才能と運を兼ね備えた人間だけが超えられる高い壁。
ウォーレンはその壁を超えたのだ。
「僕は瞑想に入る。しばらく邪魔をするな」
「はい」
聖域の草原に横になって、僕は目を閉じた。
魔力を体に取り込む。
傷をいやす。
ゆっくりと呼吸する。
ウォーレンはこれでも努力家だ。
魔力操作や気の調律については一通り学んでいる。
単に才能がないから太ったというだけで。
もともとできる子なのだ。
食生活については乱れきっていたが、体のコントロールは下手ではない。
せめて食い物さえまともなら。
もうちょっとマシだったと思うのだが。
あのメイド長。
たしかジーナとか言ったか。
もっときっちり食育すべきではないか。
ウォーレンが堕落したのは、個人的にはジーナのせいだと思う。
いやまあ、内心では嫌っている上司だ。
性的な被害まで受けている。
恨みはひとしおだろう。
不興を買ってまで進言するわけがないと、理屈の上ではわかるのだが。




