第7話「コーヒーブレイク」
朝が来た。
ダンジョンの中は昼夜を問わず明るい。
空が白みはじめるという現象は起こらないため、風景は昨日の夜と同じである。
違いはといえば、朝を告げる鳥型モンスターの鳴き声。
壁の発光色。
腹時計の具合など。
これらの要素を勘案することで、だいたいの時間がわかる。
今は午前7時。
普段なら起きる時間だ。
護衛2人が茶をたてたりスープを煮込んだりと、朝食の準備をしている。
「お、おおおおお」
僕はうめき声とともに身を起こした。
体が痛い。
全身だ。
野宿のせいなどでは断じてない。
原因は筋肉痛。
それも重度。
普段動いていないのに無理するから。
ウォーレンの体は昨日の冒険に耐えられなかったのだ。
昨晩は獣肉を多目に取って早く寝た。
それでも足りなかったらしい。
体の節々が痛む。
泣きそうだ。
ウォーレンも泣いている。
一晩たって情熱が薄れたらしい。
もう10層なんかやめて帰ろうかと真剣に考えているのがわかる。
肉体強化魔法を使えば楽になることはわかっているが、それはしない。
使いすぎはだめだ。
いくら魔力耐性があるとはいえ、限度というものはある。
痛みは体が発するメッセージ。
どこを治すべきかを知らせてくれているのだ。
逆らうべきではない。
僕は痛くないようにゆっくり動きながら、朝食の場へと向かった。
「おはよう」
「おはようございます。ウォーレン様、お体は大丈夫ですか?」
「全身がいたい。全然平気じゃない」
護衛の二人は柔らかく微笑んだ。
珍しいな。
この二人、こういう顔もできたのか。
「無理もありません。あれほど動かれては」
「お前たちは平気そうだな」
「鍛えておりますので」
「まったく。体の節々が痛いぞ。今日の探索が憂鬱だ」
「10層まであとわずかです」
「わかっているとも。引き返す気はない。ただ、少しゆっくりと歩こうぜ」
護衛はおもしろそうに笑った。
笑うなよ。
僕は真剣なんだ。
体とかちょーいたいし、まじで。
好意的な笑いみたいだから、別に怒ったりはしないけどさ。
肉を食う。
コーヒーを入れる。
昨日のうちに煮込んでいた芋をもぐもぐする。
胃腸を整えるためにザワークラウト(乳酸キャベツ)を無理やり食べる。
すっぱい。
僕はこの手の食品が嫌いだ。
いくら乳酸菌やビタミンCが重要であるとはいえ。
まずい。
できれば食べたくない。
しかし食べる。
涙をのんで食べる。
肥満のウォーレンは食を選り好みできる余裕のある立場ではないのだ。
異世界であっても食物はあまり変わらない。
発酵食品もある。
むしろ多い。
歴史の中で長寿をもたらす効果が実証されている。
乳酸、酢酸、麹、酵母、納豆。
すべて存在する。
しかし異世界なのだ。
せめて味だけでも僕の好みに変わっていてほしかった。
もうブルーベリーだけでいいんじゃないかな?
思わず弱音が出る。
地上ならそれでもいい。
しかし、ダンジョン探索では保存性が何よりも優先される。
水分が多い果物は傷みやすい。
乾燥させれば栄養の一部が飛ぶ。
乳酸キャベツは極めて持ち運びに適しているため、どうしても外せないのだ。
魔力があれば栄養を取らなくても動けるのではないか。
そのように思う人もいるだろう。
僕もできればそういう世界に生まれたかった。
しかし残念なことに、この世界では魔力と体力は同程度の重要性がある。
魔力を使えば体は劣化する。
体力でその劣化を回復させる。
そういうサイクルだ。
魔力エネルギーとミトコンドリアエネルギーはほぼ等価。
強いて言えば瞬発力なら魔力。
持久力なら体力が求められる。
魔力だけに頼っていると体が劣化し続ける。
汚染脂質がたまる。
血管がつまる。
栄養が巡らなくなる。
ウォーレンのように醜く肥え太ったデブができあがる。
はたして魔力耐性のスキルでどの程度それを抑えることができるか。
今の僕には試すつもりはない。
少なくともやせてからだ。
ダンジョン探索の最中ならば使うしか選択肢はないが。
普段は可能な限り魔力を使わない。
それが自分のためだ。
「では行くか」
「はい」
「わかりました」
食休みを取って後片付けをして柔軟体操をしてから30分。
僕たちは10層を目指して出発した。




