第6話「異世界転移はハードゲー」
確かめる必要がある。
カルラは僕を殺しうる存在だ。
彼女が連れている護衛は僕のそれを超える。
公爵家の精鋭だ。
世界最強に近いレベルの化け物がそろっている。
2対1なら勝てるだろうが、1対1だと分が悪い。
カルラには僕を殺す動機がある。
神鳥きららであれば。
僕を殺せば初期ポイントが10増える。
寿命が5年増える。
もしもキャラクター設定で枯渇寸前まで使っていた場合。
そういうこともありえる。
そもそも、僕の初期ポイントはどうなのだ。
確認を怠っていた。
ステータスには表示がない。
初期ポイント、と祈ると表示が出た。
おお。
これで見ればわかる。
初期ポイント
ウォーレン・エニウェア
17ポイント
33/40 380/416
残り33人です。
残り380人です。
0人殺害。
僕はその表示を見た。
見て心臓がドクンと脈打つのを感じた。
開始1日。
その時点で既に7人が死んでいる。
僕のクラスメートは40人。
表示は33人。
初期ポイントが3ならば、足すことの2×7で17ポイント。
おかしなところはない。
しかし、なんだこれは。
7人。
1日で7人だと?
異常だ。
ペースが速すぎる。
どれだけ死んでいるのだ。
異世界転生というのはそこまで危険なのか。
もう一つの表示も気になる。
416人。
これは……おそらく僕の学校の全校生徒数だ。
少し多いのが気になるが。
教師や用務員などを足せばそれぐらいになるのだろう。
異世界転生したのは僕のクラスだけではないのか?
学校にいる全員で転移した。
ありえる。
誰がなんのために?
わからない。
それは神の領域だ。
上からの説明がない以上、僕の力は及ばない。
それはいい。
問題はそこではない。
異世界転生を引き起こす超常存在のことなど深く考えても無意味だ。
宇宙の成り立ちを知るのと変わらない。
それより。
人間だ。
人間の考えることはわかる。
この416人はいかなる目的を持っている?
クラスメートはわかる。
僕と同じだ。
各々が異世界生活を楽しんでいるだろう。
学校のメンバーはどうだ。
敵なのか。
味方なのか。
このゲームの条件がわからない。
誰か知り合いを捕まえて、彼らの事情を聴くべきか?
……無理だ。
一瞬だけ検討し、僕はその案を却下した。
この世界はとてつもなく広い。
総人口は50億人を超える。
地球と同じか、下手をすればそれ以上。
未発見の大陸。
いまだ探索されていない地下世界。
山の奥深い秘境など。
侯爵家の人口だけでも4000万はある。
紅眼族世界だと15億人。
世界はもっと広い。
その中から500人足らずの知り合いを見つけられるだろうか。
答えはほぼ不可能。
確率は1000万分の1。
ありえない。
気が遠くなるほどの作業だ。
なら、今のところは考えても仕方がないということになる。
なにせ、出会うことさえ難しいのだから。
敵になることもない。
キャラクター設定における転生場所の初期設定はランダム。
僕の場合は街で目が覚めた。
ウォーレンの力だ。
侯爵家の人間であれば、どうしたって住んでいる土地に縛られる。
他の人はどうだろう。
人格固定のチェックを外して初期ポイントを稼ぐ選択をするだろうか。
ない。
おそらくしない。
僕でさえ設定勘がささやかなければそんなことはしなかった。
その場合にどうなるか。
クラスメート達の多くが、日本人の姿と記憶のままで。
世界各地にランダムで飛ばされたのだとしたら。
なるほど。
死者の多さにもうなずける。
はじめは死者の多さに驚いた。
しかし、少し考えてみれば当たり前だ。
僕は初期設定で人の生活圏に転移するという幸運に恵まれている。
ランダムならどうなるか。
例えば高校生が覚悟もないまま、魔獣のいる森にでも転移したとしたら。
死ぬ。
1日とたたずに死ぬ。
死者7人というのはそういうことなのだろう。
むしろ少ないぐらいだ。
おそらく、これから死者の数はもっと増えていく。
半数を割るかもしれない。
けっこう。
実にいいことだ。
死者が増えれば増えるほど僕の初期ポイントも増える。
寿命の心配がなくなる。
3しか残さなくていいというのはそういうことなのだろう。
むしろ最初の1年を乗り切れるかどうかが重要だったということだ。
しかしこれ、ハードゲーだな。
知り合いが死ぬことに思うところがないわけではないが。
難易度が半端ない。
僕はイージーモードだが。
金持ちの人生はイージー。
よくあることだ。
異世界転移というのは社会の縮図かもしれない。




