第2話「わくわく」
「来たか」
着替えを終えた僕は親衛隊の到着を待っていた。
来たのは2人。
筋骨隆々とした男達だ。
探索用の装備を背負って直立し、僕に敬礼をささげている。
「いい。楽にしろ」
「ははっ」
「では行くぞ。忘れ物はないな?」
「ありません」
「けっこう。今日は第三ダンジョンへと向かう」
僕たちは連れ立って屋敷を出発した。
王立魔法学校の下にあるダンジョンは入り口がたくさんある。
それらは内部でつながっている。
上部は狭い。
深部は広い。
最深部には誰も到達したことがない。
それがダンジョンというもの。
内部には獰猛なモンスターの群れがうようよいる。
超がつく危険地帯だ。
僕はこれから、異世界転生後におけるはじめての実戦を迎える。
不安だ。
ドキドキする。
うまくやれるだろうか。
恐怖と感動と興奮とが体内で暴れまわり、思わず身震いしてしまう。
常識的に考えれば戦うべきではない。
僕は150キロの巨体である。
極めてケガをしやすい。
こんな状態で動くのは、まともな神経ならばやらない。
しかし、僕は今の体に慣れる必要がある。
肉体強化魔法の力も試したい。
どの程度違うのか。
この体はどの程度動けるのか。
知識として知ってはいても、実践はまた別だ。
確認する必要がある。
ウォーレンはここしばらくダンジョンにこもっていなかった。
ゆえに体調は万全だ。
筋肉痛もない。
足腰の痛みもない。
心臓も今は痛くない。
この状態だと、多少は体を痛めつけておきたいところである。
肉体は怪我と回復とを繰り返して成長する。
過度の怪我は禁物だが、怠けるのは同じぐらい違う。
そして何よりも、ステータス。
あれが変化するのか。
僕はそれを確かめなければならない。
訓練で変わるのか、それとも不変のものなのか。
動いて体力が上がるのか。
魔力は使えば減るのか。
やせれば魅力は増えるのか。
モンスターを倒したときに経験値が入るのか。
これらの疑問を解決するために、できるだけ早く戦っておきたいのだ。
ダンジョン探索。
ダンジョン探索。
ダンジョン探索。
僕はうきうきと心を弾ませながらダンジョンの入り口に向かった。
ダンジョン探索。
それはモンスターと戦えるイベントだ。
いい。
じつに素晴らしい。
異世界転生してよかった。
男子たるものが異世界転生で一番に望むのは、ずばり戦うことだ。
世の中にはあえて戦わずに異世界生活を満喫したいという人もいるらしい。
そういう人間は平穏な暮らしを望む。
むしろ戦うとかバカなんじゃないかという目で人を見る。
意味がわからない。
僕に言わせれば、戦わないほうがバカだ。
戦うことは男の喜びだ。
子供を見ればわかる。
木の棒が落ちていたとき、男なら間違いなくチャンバラごっこで遊ぶ。
女なら魔法少女ごっこだ。
それは本能的な選択であり、嫌々やっているわけではない。
負けることなんて考えない。
自分の力で弱者を屈服させて支配する。
男なら誰でも望む。
僕もまた、その欲望は人並み程度には持っている。
「エニウェア侯爵家のウォーレンだ。今から探索に入る」
「ははっ、どうぞお通りください!」
ダンジョンの入り口にいる守衛に許可証を見せ、僕達は地下世界へと進んだ。
薄暗い。
しかし見える。
夕暮れ時の少し前ぐらいの明るさだ。
ダンジョンの中には数えきれないほどの蛍光虫や幻灯獣が住んでいる。
それらの生き物は光る。
発光する。
夜を忘れるほど輝く。
地下世界の魔力を吸い込んで、視界に不自由しない程度の光をもたらすのだ。
僕たちはもくもくと歩いた。
まだ地下1層。
この辺りは地上と変わらない。
凶悪なモンスターは駆逐され尽くしている。
雑魚は人を見れば逃げる。
戦闘自体が発生しないため、退屈極まりない道中になってしまった。
「ウォーレン様。分岐点です」
「そうだな」
「どちらに向かわれますか?」
「右に行こう。僕はモンスターと戦いたい」
右の道は地下へ繋がっている。
左の道は採掘場だ。
ちょっと珍しい地層があって、掘れば化石や鉱石が見つかることがある。
採掘で得られる利益は雀の涙ほど。
運がよければ金貨数十枚にはなる魔石が見つかったりもする。
ばかばかしい。
幸運に恵まれてなお、その程度の見返りとは。
かける時間と報酬とがまったく釣り合っていない。
採掘場ではモンスターも出ない。
つまり戦えない。
完全に用のない場所だ。
僕たちは右の道を選び、どんどんと進んでいった。




