第1話「冒険しましょう」
ノエルは紅茶に手を付けずに去っていった。
やれやれ。
むかしに媚薬を盛って犯そうとしたことを忘れていないらしい。
めちゃくちゃ警戒されている。
どうせ婚約者だし、いつかはそういう関係になるのだが。
ノエルは学校でも10指に入る美少女だ。
過去のウォーレンはもちろん彼女をモノにしようとした。
しかし腕力ではかなわない。
部屋に呼び出して無理やり抱こうという試みは失敗した。
その時にはタコ殴りにされた。
後々両家の当主を巻き込んだ問題になったほどだ。
激怒した父はノエルの実家にすさまじい嫌がらせをした。
貸し金の返済をせまったり。
重要物資の輸出を止めたり。
侯爵家の息のかかった商人に圧力をかけて取引をやめさたり。
そりゃそうである。
いくら非が僕にあるとはいえ。
格下の家の娘が侯爵家の跡取りに暴力を振るったのだ。
ただですむはずがない。
それがまかり通るなら、もはや当主とかわらない。
結婚してからノエルが侯爵家を乗っ取ることだってできてしまう。
案の定、ノエルは父親と共に頭を下げに来た。
くやしさでポロポロ泣いていた。
思えばノエルの泣き顔を見たのはあれがはじめてで、そして最後だった。
以来、ノエルは婚約者としての分際を忘れずに僕と付き合っている。
肩を抱いたぐらいでは抵抗しない。
胸を触ると睨む。
服を脱がそうとすると烈火のごとく怒り、するすると逃げ出してしまうのだ。
えらい。
ノエルはえらい。
ぶっちゃけ処女じゃなければ全然興味を持てないのが僕という男である。
貞操観念が強いノエルはとてもまぶしく見える。
彼女は僕の女神だ。
いつか好きになってもらって、そしてデートしてもらうのだ。
わくわく。
今から楽しみである。
午後になった。
メイド長ジーナが作った健康的な昼食を平らげる。
なかなかだ。
味も悪くない。
さすがはジーナ。
僕の舌の好みというものをよく心得ている。
「この調子で夕食も、といいたいところだが」
「問題がありましたか?」
「いや、単にいらないのだ。昼からはダンジョンに潜る」
「これからですか?」
「当然だろう」
「かしこまりました。そのように伝えます」
ジーナは僕の護衛を呼びに出ていった。
ダンジョン。
この世界には、魔物が住んでいる迷宮が存在する。
ダンジョン攻略は貴族の義務の一つだ。
ダンジョンの魔物を倒す。
魔物の数が減る。
地上に出てこなくなる。
治安が安定する。
人類が繁栄する。
これらのサイクルを生み出すために、ダンジョン攻略は重要だ。
ダンジョン攻略は完全に人任せにすることもできる。
他所の領地ではそうしている。
しかし、王立貴族学校。
これは世界最大規模のダンジョンの上に建てられている。
必然、出てくる魔物の数も増える。
王立貴族学校には卒業の概念はない。
ここは学ぶだけの場所だ。
学歴などというものはこの世界ではほとんど役に立たない。
就職に必要なのはコネ。
つまり人とのつながりだ。
一般の入学生は、在学中に他の貴族に対して自分の有用性をアピールする。
それは学問であり。
あるいは武術であり。
商才。
話術。
容姿。
特殊技術など。
私はこんなにも使えるやつですよ、ということを主張する。
授業の多くは、その機会を提供するためにカリキュラムが組まれている。
ダンジョン探索は武術系の授業だ。
魔物と戦うことによって戦闘力をアピールすることができる。
貴族もそれをする。
なにせ世界最大のダンジョンだ。
一般人だけに任せるのは荷が重い。
貴族の私兵や、学生、傭兵、冒険者などを集めて地下にもぐる。
みんなでダンジョンを攻略する。
王立貴族学校ではこのダンジョン探索を特に推奨している。
それだけで在学資格が取れるほどだ。
もちろん優秀な者に限る。
貴族に対しては義務として課されている。
自分で攻略する必要はないのだが、私兵を使って貢献する必要はある。
ノエルは貧乏なので自分で戦っている。
おつきの武官が一人と、あとは学生たちを寄せ集めたパーティーだ。
けっこう強い。
学生たちも優秀。
ノエルの人望が高いため、学内でも上位にいる学生が集まっている。
もっとも、優秀すぎてノエルの親衛隊として活躍するのは無理だろう。
ノエルには彼らの給料を払うための財力がない。
コネもない。
僕が雇うこともない。
僕ではなくノエルに忠誠を誓う親衛隊なんていらない。
どれだけ強くてもゴミである。




