第6話「養殖聖女」
聖女とはようするに。
権力者へと送られる公認の女スパイなのだ。
娼館が庶民向けのスパイ組織だとすれば、こちらは貴族向け。
普通の女に飽きた上客に向ける生粋のエリート娼婦。
彼女たちはボエボエ聖教が張り巡らしている諜報網の一端を担っている。
ボエボエ聖教が世界的な宗教になった原動力はこのスパイ組織だ。
権力者の性格。
趣味嗜好。
重臣や一族における力関係やら、各種のトラブルなど。
すべて筒抜けである。
それらの情報をもとにして勝ち組に投資すること。
これがボエボエ聖教が勢力を広げていくための秘訣であったらしい。
「な、なんという」
『うわー』
「そして、聖女の少年バージョンが聖人というやつだ」
聖人は女性権力者向けのハニートラップである。
全員が未成年。
ショタ属性はいても、髯ダンディーはいない。
男らしいイケメンであれば世の中にはざらにいる。
聖人はそれとは違う。
愛玩動物として特化して育てられた、生粋の無害ピュアボーイちゃんだ。
彼らは女を知ることもなく日々の生活を送る。
異性に対しては逆らわないように。
どんな命令でも聞くように。
徹底してしつけられる。
そして、外に出されて。
主人を紹介されて。
そこで縁のあった女性に、生涯の忠誠を誓うという。
聖人はみんなの人気者。
主人持ちもいるし。
特定の主人を持たない聖人というのもいる。
彼らは清潔でぱりっとした服を着て信者に信仰を説く。
夜は権力者の女性のお相手だ。
乱れる姿と昼とのギャップが燃えるということで。
修道服のまま楽しむ女性が多いとの話である。
そんなひどい扱いをして、逃げ出したりはしないのかという話だが。
この世界は孤児だらけ。
ハーフだらけ。
貧乏人だらけ。
子供はどこにでもいる。
そのうちの中でも、醜い少年少女たちは真っ先にのたれ死んでしまう。
美少年美少女ならば助かるのかと言えば、そんなわけでもなく。
彼らはいろいろな場所で拾われて。
なぐられて。
なぶられて。
人間以下の扱いを受け続け。
最終的には病気になったり体やら心やらを壊してから捨てられると。
そういう道をたどる。
基本的には始まる前から人生が終わっている孤児のみなさんたち。
であるが。
善良な保護者に拾われた場合にはその限りではなく。
庶民よりもはるかに高い水準の教育を施されたりするケースもある。
いわゆるアタリの孤児。
衣食住と人生とを与えられた究極のラッキーマン。
ボエボエ聖教における聖人聖女とはそういう幸運な者の例だ。
逃げ出したりはしない。
もちろん。
権力者のおもちゃになる人生が幸運なのかどうか。
それは本人にしかわからないが。
ちなみに。
矛盾しているようだが、ボエボエ聖教では恋愛は非推奨。
というか厳禁である。
加えてセックスは不浄なものであり、処女や童貞こそが至高であるとされる。
上のようなシステムを作っておいて何を言っているんだという話だが。
聖人聖女とは権力者向けの嗜好品である。
貧民はお呼びではない。
貧しい者同士で自由恋愛などをされた日には性産業の価値が減る。
それはよくないことだ。
ゆえに。
性交渉は禁止。
絶対に禁止。
身勝手に恋愛してセックスした若者などが、たまに吊るされて死ぬらしい。
以上が、聖女システムの大まかな解説である。
…………あとは、例として一人。
身近な聖女をあげるなら。
ウォーレンの学生寮にいた美少女メイド。
名前は忘れたが。
16、7歳ぐらいの三つ編み美少女ちゃん。
彼女は聖女である。
聖女メイド。
来た当時は正義のために働こうと思っていたらしく、意気揚々だったようだが。
養殖聖女の実態を聞かされて大ショック。
てごめにした時の顔は見ものだったなどと、ウォーレンが自慢している。
死ねばいいのに。
死ねばいいのに。
僕は強く呪う。
美少女をむりやり犯す男は犯罪者だ。
うらやまけしからん。
いずれは僕も、権力にあかせて似たようなことをやるつもりなのだとしても。
今の僕は心清らかな童貞なのである。
犯罪は許されない。
この場合は完全合法の性交渉だからウォーレンに罪はないとはいえ。
僕個人の主観裁判ではきっぱりと有罪である。
で、その傷ものになった聖女メイドちゃん。
その件の後、もともと明るく前向きだった彼女はすっかり沈んでしまい。
以後は人形のように淡々と任務をこなしていると。
うむ。
まあそんなものか。
世間のあこがれである聖人聖女様の実態は、おおむねそんな感じだ。




