第3話「少し待ちましょう」
クラフト港での仕事は『詰め』の状態に入った。
この土地に来た当初。
僕たちには山ほどの敵がいた。
辺境で巣食っていたゴブリン集団なんかをはじめとして。
海賊。
山賊。
魔物。
やくざ。
汚職官僚。
武装商人。
革命軍など。
ありとあらゆる勢力が乱立し。
どこから手をつければいいのかさえ悩ましかったほどだ。
しかし。
もはやその段階は終わり。
残っている敵対勢力は、すでに革命軍だけだ。
武装商人は傭兵団を手放してただの商人になった。
もともと粗暴な傭兵だ。
治安が安定すれば単なる金食い虫であるため、捨てたいと思う者は多いだろう。
山賊、魔物、海賊、やくざについてもほぼ解決済みである。
大勢力は残っていないわけだし。
正規兵にだぶついた傭兵を率いさせて各地へと送り出し、次々と始末させる。
最低でも相手の3倍。
できれば5倍ぐらいの兵力をぶつけておけば、問題なく勝てるはずだ。
後は革命軍。
指導者は聖女ティア・ホワイトロー。
支配圏人口は5000人。
兵力は600ほど。
正規兵級の人材は10~20人程度。
ブラッドリー海賊団よりも一回り大きい、それなりの勢力であるが。
おそるるには当たらない。
彼女たちにはもう、成長するためのバックボーンがない。
革命軍が組織として活動できていたのは食料の心配がなかったからだ。
海路を使って物資を運んでいた密貿易の首魁。
死の商人ディミトリアス。
彼が特産物の家具や木材などと引き換えに軍需品を融通し続けていたので。
革命軍は何ら困ることなく、勢力を拡大できていた。
が。
僕はまず、商人のディミトリアスを追放し。
各地の街道を通せんぼ。
経済封鎖を徹底して行うことによって、物流を封じ込めた。
人体で例えれば。
両手両足を強く縛ってうっ血させ、壊死寸前に追い込むと。
そういう戦法を取った。
結果。
革命軍は弱っていく一方。
すでに統制が取れなくなって混乱状態だそうだ。
はやいな。
こらえ性なさすぎだろ。
僕は冬を越してからの春季攻勢を想定していたというのに。
この分だと晩秋には落ちそうな様子である。
斥候の情報によると。
革命軍は逃亡者だらけの貧民だらけ。
生活はぐちゃぐちゃ。
評判もずたずた。
村人たちは餓えと物資不足とに苦しんで暴動寸前だそうだ。
「ひどい」
「こんなはずでは」
「これならアイザック一派の横暴のほうがましだった」
と、村人さんたちの声はそんな感じである。
まあな。
それはな。
当たり前のことだ。
物流が止まった地域の末路などそんなものである。
略奪はやまず。
女の悲鳴もやまず。
夜も出歩けない。
よくあることだった。
戦乱の兆しがある地域というのは全てそうだと断言してもいい。
国としての独立を試みれば経済圏から干されて交易が止まってしまう。
交易が止まればモノが足りなくなる。
モノが足りなくなれば人から奪うしかない。
治安は悪化。
賊はたくさん。
放火や盗みが日常茶飯事となり、安らかに暮らせなくなるのは当たり前だ。
その状態から復帰できるか否か。
これは全て、指導者である聖女ティア・ホワイトローの手腕にかかっている。
「ウォーレン様。降伏の使者が来ましたが」
「早いな……内容は」
「直接奏上したいとのことで」
「だめだ。条件だけ先に聞かせろ。それで判断する」
使者は怒って去っていった。
「よろしかったのですか?」
「もちろんだ。どうせ権限もない下っ端だろ。せめて聖女直属の幹部が来なければ話にならん」
話し合いにも手順というものがある。
すでに勝っているのだ。
こちらから是非にと交渉するべき状況にはあたらない。
時間は僕の味方だ。
長引けば長引くほど僕が有利になる。
革命軍の兵力は600名。
バカにはできない数だ。
今すぐに力攻めで解決しようとすれば、正規兵も10名ほどは死ぬだろう。
もっともっと弱らせてから対応するべきだ。
それが正着というもの。
理想としては、そうだな。
内乱で組織崩壊。
全面降伏。
幹部全員の首をひっさげて、向こうから頭を下げてくると。
だいたいそんな感じか。
まあ。
さすがに。
そこまでのご都合主義を期待するのは、虫が良すぎるというものだが。




