第1話「今後への布石」
当面の脅威は去った。
ので。
余った兵力を各地へとふりわけることにした。
海賊退治。
山賊退治。
魔物退治など。
文官アイザックの一派が仕事をさぼっていたせいで治安が乱れている。
特にひどいところを重点的に。
小隊をいくつも編成して送り出しておこう。
最低でも相手の3倍。
できれば5倍ぐらいの兵力を集めておけば、問題なく勝てるはずだ。
『革命軍はどうするの?』
『当面は放置だ。交渉の返事を待ってから行動を開始する』
クラフト港の西方にある山に陣取っている革命軍。
彼らは辺境の数か村を支配下に置き。
貴族制度からの解放を訴えて兵を集めている。
ようするに内乱だ。
彼らの言い分をまとめると、おおむね次のようになる。
我々は家族や友を殺された。
土地と財産を奪われた。
罪もない人間が餓えや病気に苦しみ、生きる権利さえ何者かに奪われつつある。
悪いのは誰だ。
文官アイザックか。
違う。
貴族だ。
悪いのは貴族制度だ。
本来平等である人に上下をつけて扱う国家制度こそが悪なのだ。
心あるものよ。
あつまれ。
ともに戦い、みんなが平等に生きられる社会を作り出そう。
革命軍指導者、聖女ティア・ホワイトロー。
各地へと配られた檄文はこんな感じである。
なるほど。
時代を何百年かぐらい先取りしているかのような乱暴極まる思想だ。
シンパが多いのもうなずける。
明日を生きる希望が見えない者にとって、革命ほどまぶしく見える夢はない。
貴族に逆らえば死罪。
一族郎党皆殺し。
貴族反逆罪というのはそういうものなのだが。
さすがに参加者が1000人を超えるとな。
構成員の家族全員皆殺しというのは現実的ではない。
首謀者はやるにしても。
彼らをどのような形で解体するのかが、領主であるウォーレンの腕の見せ所だ。
「こんにちはー」
なぜかカルラがやってきた。
クラフト港にあるやくざ事務所で政務にはげんでいたある日のことである。
領地に遊びに来ている公爵令嬢のカルラが僕を訪ねて来た。
なぜだ。
ここは粛清の混乱冷めやらぬ危険な場所である。
治安は悪いし、遊ぶ場所もない。
カルラが優雅な日々を過ごす場所としてここはふさわしくない。
「来ちゃいました」
「えーと」
「用件だけ端的に告げると、うちの領地で縁のある商人さんに呼び出されたのです。なんでもレンは最近、はではでに粛清しているとか」
「ま、まあな」
「次は自分の番なんじゃないかーってことで、かばってくださいと私に泣きついてきたというわけ。やですよねえ。せっかくのバカンスなのに、仕事での呼び出しだなんて」
「それは、その、大変だな」
「そうなのです。大変なのです。ですので」
いたずらっぽく笑ったカルラはあざとく上目遣いを行い。
両指を祈るように胸の前で合わせ。
腰をくねくねっとくねらせて、媚び媚びなポーズを取った。
「そのへん、ちょっと配慮してもらえたらなー、という感じです。なんでも3日後には付近の商人を集めての一大会合があるとか」
「ああ」
その予定だ。
きわめて重要な予定。
ここらで影響力のある商人全員に出頭命令を出した。
今後のクラフト港周辺での経済活動が安定化するかどうか。
まさにその会合次第であると断言して間違いない。
「いろいろ後ろ暗いところのある商人さんなので、文官さんみたいに殺されちゃうんじゃないかなーって夜も眠れないそうです。レンは集めた商人さんを糾弾して皆殺し、みたいな感じで予定を立てているのですか?」
「バカな。そんなことはしない」
なんだその被害妄想は。
ありえない。
仮に贈賄やら密貿易やらに関わっていたとしても。
経済をまわしている商人を殺して僕に何の得があるというのだろう。
「強いて言えば……革命軍に物資供与をしている奴は返答次第で殺すかもしれん。そこだけは保証できない」
「え、それって誰がとかまでわかっているのですか?」
「ああ。使っている船も倉庫も仕入れ先も特定されている。使い走りになるが証言者も何人かそろえた。言い逃れはできないし、させない」
「名前を聞いても?」
「ディミトリアスだ。知っているか?」
「知らないです。でもまあ、私と関係なければ問題ありません」
カルラはしれっとそう言った。
「ともあれ、ローラさんの命は保証していただけるのですよね?」
「もちろんだ。というか、すでに根回し済みのはずだが。聞いてないか?」
「ああ、なるほど。クラフト港に着いてから直接ここに来たので行き違いがあったみたいです。これは失敗しましたね」
てへへ、と舌をぺろりと出して、カルラはかわいらしく笑った。
「ならば、私の用件は終わりです。レンはこれから根回しですか?」
「ああ。当日までに会議の結末を決めておきたいのでな」
「よほど無茶をしない限り、ぶっつけ本番でもわりとなんとかなるものですよ」
「それはそうかもしれんが……僕は心配性なのだ」
「レンは働き者ですねえ」
カルラは感心したように言う。
「よければこちらの関係者など、私から根回ししておきましょうか?」
「そりゃー助かるが……見返りは?」
「デートがいいです!」
ばっと勢いよく手をあげて、カルラはごほうびをねだった。
「あとですね、この屋敷に私の部屋を作ってもらえません? 泊まるところがないので」
「いちおう高級宿には空き室もあるだろうが……まあ、治安は不安定だからな」
「なのですです」
「わかった。用意させる。人数は?」
「5人ぐらいで」
「わかった」
そういうことになった。




