第13話「会議」
港の各地に点在していた財産が集結をはじめている。
海外へと逃げ出すつもりだ。
僕たちは検閲を強化して、船による運搬を厳しく取り締まった。
事前申請されていた積荷にはなかった貴金属。
宝飾品。
芸術品。
極上の魔石や素材など。
次々に押収しては国庫へと補てんしていく。
いっそのこと、完全に港を封鎖してしまえば楽なのだが。
それでは交易が進まない。
交易が行われなければ海外に財産を持ち逃げされる以上の損害が出てしまう。
民間人の生活が成り立たなくなる以上、そんなことはできない。
アイザック文官一派のうちで生かすべき人間を確認するためにも。
仕事はしてもらわねば困る。
でなければ、誰が港をまわしているのかもわからない。
「ウォーレン様。リストができあがりました」
「うむ。そろそろであるか」
「いつでもいけます」
「明日役所へと向かう。文官を集めておけ」
正直なところ、アイザック派は全員殺してしまってもよかったが。
さすがにな。
上司に従うしかない部下を無慈悲に断罪するのは気が引ける。
アイザックは殺すしかないし。
生贄はたくさん必要なので、無罪放免というわけにもいかないにせよ。
「ウォーレン様! どうなっているのですか!?」
役所へと入ったとたん。
文官たちがわらわらと寄って来て、近衛に止められつつ苦情を言いはじめた。
「やりすぎです!」
「乱暴すぎます!」
「やくざといえども軽々に殺してはなりませんぞ!」
「捕虜が多すぎる!」
「市民からクレームが届いています!」
「そのようなことでは次期侯爵としての信用さえ失ってしまいますぞ!」
口々に勝手なことを言い出す文官たち。
ばかばかしい。
信用だと。
アイザックのような文官をのさばらせておいて信用もくそもあるものか。
「意見があるときは書面にして提出せよ」
「ウォーレン様!」
「うるさい」
近衛がばしばしと。
文官を殴りつけて地面に打ち据えた。
呆然としている文官たち。
おいおい。
当たり前のことだぞ。
僕にそういう態度を取っていいのは、本来なら文官アイザックただ一人だ。
まあ、この場合。
文官アイザックにそんなことをされては殺してしまうだろうし。
今は指揮系統が機能していないも同然なので、多少はしかたがないにしても。
「身の程をわきまえろ。自分の職掌内でなすべきことをなせ」
僕はそのようにたしなめて、会議室へと向かった。
やれやれ。
ウォーレンはなめられすぎだ。
たしかに15歳だが。
バカ息子だが。
それでも。
木っ端の文官ごときが僕に直接口を聞こうなどというのはおこがましい。
「さて、そろったな。これより会議をはじめる」
会議室にはクラフト港の運営をつかさどる文官200余名。
そのうちの150ほどがそろっていた。
残りは欠席だ。
欠席者のいくらかについては、すでに死んだり拘束されたりしている。
「こちらで新たな組織図の草案を作っておいた。今後はこの通りに働け。状況に即して多少入れ替えるつもりだが、現時点での意見がある者は今のうちに言うがいい」
配られた紙面に目を通す文官たち。
反応はさまざまだ。
感心した風の者。
顔を青くする者。
首をかしげる者など。
中でもアイザック一派への風当たりは極めて強く厳しく。
ごく一部の例外を除き、この組織図の上には誰も名前がのっていない。
「ウォーレン様。私の名前が見当たらないのですが」
「仕事がないのだろうな」
「そんなバカな! 私はこれまで港の運営に誰よりも深く関わり、率先して予算を分配して精力的に指示も出してきましたぞ!」
なにやら吠えたてる文官。
いや、知らんし。
僕はあくまでも諜報部や参謀や得られた資料などから判断しただけで。
前情報の一切ない、隠れた忠臣みたいな者まではわからない。
「そもそもお前は誰だ?」
「なっ!? 長年身を粉にして働いてきたこのウルフガングの名を知らないのですか!?」
ああ、あいつか。
ウルフガング。
アイザック一派の幹部。
収賄容疑が確定で50件以上。
職権乱用で部下を吊るすこと3回。
予算を流用して港の娼館で飼っている女が2人、だったか。
有罪だ。
残念だったな。
お前が生きているのは必要だからではなく。
単にここで死ぬためだ。
「やれ」
僕が指さしたところ。
瞬くうちに屈強の近衛が駆け寄ってウルフガングの首を掻き切った。
抗議する間もない。
彼の最後の言葉は「ひえっ」などという、とてもありふれたものだった。
「ウォーレン様! 何をなさるのですか!?」
「彼は職務を汚すことあまりにも多く、死をもって償うしかない。証拠についてはそろえてある。後で提示しておくので、気になるなら確認しておけ」
「…………だ、だとしても! 我々はウォーレン様の部下というわけではありませぬぞ! 侯爵家に仕えているのです!」
「だから?」
「処刑権限がないと言っているのです!」
「いや、あるぞ。父からは人事の委任状を受け取っている。僕はなんでもできる。この場で僕の権限によって殺せない者はいない」
ひらひらと委任状を振ってやると、室内の文官たちは例外なく総毛立った。
「そ、そんな」
「いつまで部外者でいるつもりだ。組織図にのっている者であっても無罪というわけではない。犯した罪が見逃されているだけだ。これからの働きで償え」
沈黙が場に満ちる。
そりゃそうだ。
この中には程度の差こそあれ、罪を犯したことない者などほぼいない。
次に殺されるのは自分だ。
たとえ軽微な過失しかない者であっても、その恐怖をぬぐえはしないだろう。
いや、まあ。
世の中にはクソがつくほどに真面目な人間というのがいるもので。
誰も評価しないのに会議に出席し。
市民の声に耳を傾け。
予算を要求して。
なけなしの金を使って必要な場所に資材と人員を送り、必死で働く者もいる。
この中にも何人かいる。
数十人を誅殺すれば彼らのような者を数十人登用できる。
それが僕の望みだ。
残念ながら準備期間が短かったので、優秀な人間のあては多くないのだが。




