第11話「妖精さんは激おこ」
やくざの事務所を襲い、次々と金を巻き上げる。
メジャーなところは終わった。
みんな泣いていたが。
人生も終わったが。
死んでいたが。
それはどうでもいい。
次だ。
文官アイザックが使っている手足はやくざだけではない。
麻薬商人。
奴隷商人。
密輸入業者など。
どんどんガサ入れをして遠慮なく滅ぼしていく。
なにせ、文官アイザックは本当に真正の屑なのだ。
政敵の娘をさらって奴隷商人に売ったり。
麻薬漬けにしたり。
税関を通さずに外国船籍の船を勝手に入れて、独自に売りさばいたりと。
考えうる限りの悪行を尽くしている。
なかでもひどいのが、クラフト港における特例風紀独立行政区。
通称アイザック園の存在だ。
ここは表向きには、みんなで楽しめる風俗街ということになっているが。
実態は文官アイザック一派御用達の福利厚生施設である。
区画内にはぼったくりバーしかないし。
アイザック一派以外は利用不可。
働いている女の子たちも、庶民を浚ったり借金漬けにしたり冤罪を着せたりと。
かなり強引なやりかたで集めてきたらしい。
うむ。
容赦の必要はないな。
「て、敵襲! 敵襲だ!」
「なんで正規軍が!? ここは文官アイザック様の庇護下にある施設だぞ!?」
「ま、待ってくれ! 我々は雇われていただけだ! 戦闘の意志はない!」
アイザックの護衛や私兵。
ハーレムを守る傭兵。
盗賊ギルドからの出張派遣シーフなど。
次々と倒していく。
いちおう事前に投降はうながしたし、大多数の者は剣を捨てたのだが。
職務意識の強いまじめな人もいて。
そういう世渡りの下手な者は、必死に正規兵と戦って討ち死にしてしまった。
『いい人ほど早く死ぬ。残念なことだ』
『え、いや、この人たちって文官アイザックの手下でしょ? すごく悪人だと思うけど?』
『部下には上司を選ぶ権限などはない。こいつらは死ぬとわかっている戦いに挑んで死んだ。それだけでも忠義のほどはわかる』
『そ、そうかなあ……いい人なら悪い上司を見限って仕事をやめるんじゃないの?』
『それも一つの真理だ。しかし、守るべき家族がいる場合にはそのようなわけにもいくまい』
誰だって正義のために戦いたい。
そう思う。
しかし。
そのための上司に恵まれず。
逃げることもできず。
かといって、裏切りなどというゲスい行為に手を染めるのも潔しとはしない。
そういう痛々しいほどにまじめな人間というのも、けっこういる。
できれば助けたかったが。
しかたないな。
文官アイザックが犯した罪は重すぎる。
生贄は必要だ。
多ければ多いほどいい。
『さて、妖精さん。まだまだ行くぞ。次の相手はアイザック賛美を組織的に宣伝してまわる扇動要員だ』
『もーやだ!』
妖精さんは僕の体内から飛び出し、いやいやと首を振った。
『なんでこんなに悪人ばっかりなの!? 人間不信になりそう! 私はもっと人の優しさとか思いやりとかに触れていたい!』
『僕がいるだろ』
『マスターは優しくない! 妖精使い荒すぎ!』
『あー、あれだ。今度観光とか、そーゆーのに連れてってやるから』
『私は歌劇とか好きかも!』
『わかった。必ず連れていく。だから働いてくれ。妖精さんが働いてくれないと、その、こまる』
すごく困る。
超困る。
最近の作戦は全て妖精さんサーチを前提に立てられているのだ。
サボタージュをされてしまっては活動が成り立たない。
『働くのはいいけどさあ』
妖精さんはぶつくさと文句を言った。
『この世界ってちょっとひどすぎない? 平和じゃなさすぎるよ』
『核ミサイルで数十億人が死ぬ危機に常にさらされていた前世のほうが、はるかに平和じゃなかったと思うがね』
『そ、そりゃ確率論で言えばそうなのかもしれないけど…………毎年死んでる数とか、市民の人権とか』
たしかに。
この世界は下層の人間に対して優しくない。
それはその通りだが。
『この世界も基本的には平和だぞ。ひどいのはごく一部だけだ』
『ぜんぜんそうは思えないんですけれど』
『だから、ひどいのは世界というよりはむしろ職業だ。僕たちは平穏な場所で仕事をする意味がない。腐った人間がたくさんいてはじめて動く価値がでる』
実のところ、大多数の街は平和である。
しかし。
平和な場所においては貴族のやることはない。
貴族がいるだけで部下が委縮して仕事の邪魔になってしまう。
それはよくないことだ。
まあ、強いて言えば。
貴族がいる街では治安が極端に向上するし、犯罪の予防もできるが。
同時に金もかかる。
人手もたくさん使う。
事実上、世の中がうまくいっている時には貴族の仕事など何もないのだった。




