第9話「童貞ですから」
素直に目を閉じたノエル。
その肩を抱き。
唇を合わせてみる。
ノエルは身を固めた。
しかし抵抗はしてこない。
うむうむ。
いけそうだな。
そのまま口内に舌を入れて、同時におっぱいに手を伸ばした。
「…………っ!?」
身をよじって嫌がるノエル。
ねちゃねちゃ。
舌と舌をからませつつ胸をもみもみする。
おお。
なんということだ。
僕はこの日この時のために生まれてきたのではないか。
手の中でふるえる柔らかな感触をもっと楽しもうと舌を抜いて身を離し、
バチン!
快音が天幕内に響いた。
「…………あ、あほー! ウォーレン様のあほー!」
僕を罵倒したノエルは顔を真っ赤にして口をぱくぱくと開閉し。
それから背を向けて逃げた。
呆然と見送るぼく。
ほほがじんじんする。
どうやら殴られたらしい、と気づいたのは、ノエルが消え去った後だった。
ううむ。
最近のノエルは幼児退行が進んでいるような気がするな。
反応が子供っぽくなっている。
いやしかし。
仮にそうだとしても、これはおかしいだろ。
今のは何をどう考えても押していける場面だったと思うのだが。
魅力70のせいか。
もしかしてこの体、セックスできない呪いでもかけられてるんじゃないのか?
『妖精さん、何が悪かった?』
『いや、知らないし』
『失敗した原因がわからない』
『そりゃーまあ体重とか体重とか体重とか。あとは体重とか』
『それを差し引いても押せる場面だったと思うのだが』
『あえて技術論を出すなら、もーちょっと雰囲気作りはするべきだったかも。急に迫られても受け入れる用意ができてないよ。あとは体重とか』
『なるほど。雰囲気か』
『あとは体重とか』
妖精さんがしつこく真実を告げてくる。
『そんなに重くないもん。120キロ切ってるもん』
『もんって……いい年した男がそれはどうなの?』
『僕はいずれやせる。それは明らかだ。ならば結果を先取りして、すでに痩せているようなものだと断言してもいいはず』
『シュレーディンガーのデブ?』
『妖精さんは不思議生物なのに優しさ成分が足りていないんじゃないか?』
『妖精の中の人がリアリストなものですから』
『中の人などいない』
『最近のマスターはつっこみ雑になってるよ。精進してほしいと思う』
『お前は僕の相方か』
『そうそう。そんな感じで。欲を言えば話題を広げつつボケも入れてほしいかな』
このうえなく時間の浪費でしかない会話をすることしばし。
ようやくショックが抜けてきた。
やれやれ。
いきなりビンタとは。
憑依転生した直後にもそんな事件があった気がするな。
女の子は貴族を殴らなければならない、とかの慣習があるのだろうか。
むう。
欲求不満である。
ノエルのせいだ。
あこまでいったならやらせてもらえないと。
代わりの女を抱くにしても、僕は童貞なのだ。
それはしないと決めている。
なんてことだ。
このあふれる獣欲をどこで発散しろというのか。
『妖精さん。僕は君を愛している』
『その話題は広げなくていいから』
無粋なつっこみが入った。
おおう。
後の候補は誰だ。
カルラか。
いやしかし。
彼女はここにいない。
やはり妖精さんを。
それともノエルか。
追いかけて頼んでみるべきか。
少々機を逸したような気がするので、それはさすがに無理だろうが。
はあ。
どうやら失敗したらしい。
もういい。
ふて寝しよう。
ノエルについては、あれだ。
次の機会を待つということで。
適当にプランを練るか。
今度はちゃんとデートで遊んで夕食をセッティングして。
宝石とかをプレゼントしてから愛とかなんとかの妄言をほざきつつ。
部屋に誘うとしよう。
さすがにその状況で断られることはないはずだ。
…………いや、しかし。
それだと支配欲が満たされないというか。
なんだか女から搾取されているような気がするので。
実際にはやらないかもしれない。
あまりにもあほらしく感じる。
やれやれ。
まったく。
童貞というのは度し難い。
妖精さんではないが。
さっさと捨てるべきなのかもしれないな。
人は童貞ゆえに苦しまねばならぬ。
童貞ゆえに。
アイロニーだ。
誰でも抱ける立場になったせいで、逆に捨てるのが困難になってしまう。
それが童貞というものか。
僕は暇人のみに許される実りのない悲哀にくれながら。
とりあえず。
今日は眠ることにした。




