第8話「おしおき」
天幕を訪ねて人払いをし、まずはプレゼントを贈ってみる。
「あ、あの? ウォーレン様? これは?」
「ああ。暇なので手作りしたのだ。お前は明日の朝まで、それを首に下げてすごせ」
「ええっ!?」
ノエルの胸元には
『私は突撃大好きな駄犬です。おしおき中なので気にしないでね』
などと彫刻された石板が吊るされている。
僕の手刻みだ。
あまりにも暇だったので自作したのである。
ついでに奴隷用の首輪も取り寄せてみたのだが。
これはやりすぎだろうか。
ノエルはプライドがバカ高い。
冗談であってもそこまでやれば僕にキレるかもしれない。
「ウォーレン様! 私はがんばりましたよ!?」
「そうだな」
「活躍した私が罰を受けるのって、おかしくないですか!?」
「おかしくない。がんばりすぎだ。もっと下がれ」
女性というのは一歩下がって男を立てるのが美徳なのだ。
それは冗談にしても。
ノエルは自らの武功を誇る立場ではない。
人に任せるべきだ。
その点だけを言えば幕僚長ボリスのほうがノエルより優れている。
「お前の命はお前だけのものではない。もしもお前の身に何かあったら、付き人のクエドーラやファイファイなどは処刑だぞ?」
「そうなのですか!?」
「当たり前だ」
よくファンタジーなどでは指揮官突撃をする話がでてくるが。
あれは負け戦で後がないか。
もしくは指揮官としての立場が非常に弱い場合だけに起こる現象である。
現実ではありえない。
リーダーが死ねば部下はそれで終わりだ。
上司を戦場で死なせた部下というのは今後のキャリアが完全に終わってしまう。
最低でも死ぬことが前提の部署に送られて。
上官からしごきをうけて。
何度も何度も教育を施されて、いくらかの場合は戦場に行く前に死ぬ。
それはそういうものだ。
部下は上司を殺すことがある。
まれに、ではなく。
ひんぱんにそういうことが起こる。
だからこそ。
原因のいかんに関わらず、上司を死なせた部下には厳しい視線が向けられる。
見殺しにしたのではないか。
サボタージュの末に上司を追い詰めたのではないか。
反抗的な言動によって操作したのではないか。
などなど。
憶測はさまざまだが。
理由はどうでもいい。
結果だ。
上司が死んだという結果。
それだけで部下が死ぬには十分すぎるほどである。
処刑をまぬがれたとしても。
配置換えが行われる際にはそれを念頭に。
とことんまで追い詰めて殺すという、そういう処置がとられる。
戦争で嫌いな上官が死んでラッキー、などということはありえない。
部下と上司。
それは一蓮托生の関係だ。
上司がこければ部下もこける。
ノエルが死ねばそれは部下の責任なのであって、実際の状況は関係ない。
まあ、あの場合だと。
僕がノエルの一騎打ちを認めたという事情があるため。
いくらかの斟酌はされるだろうが。
「部下を持っている人間は自分で戦ったりしない。人に戦わせろ。それがお前の仕事だ」
「でも。それでは人が付いてこないのでは?」
「付いてくる。こないやつは排除する。それが組織というものだ」
「ひどくないですか?」
「ひどくない。逆に考えろ。お前の付き人は忠誠を示すための機会をノエルに奪われたのだ。お前は人を活躍させてその働きを正しく評価するのが仕事だ。それを間違うなよ?」
ノエルははっとした表情になった。
ううん?
なにか琴線に触れるポイントがあったのだろうか。
自分でがんばる必要はない、なんてのは、上位者には当然のことなのだが。
「そもそもあの場合、戦う必要がなかった。降伏を促して断られてからならともかく、その前の段階で決闘を挑んだのだ。あまりにも意味がない」
「そ、それは……そうですが」
たじたじとなるノエル。
珍しい。
彼女がこんなにちゃんと説教を聞くのははじめてのケースかもしれない。
「そして、何よりも軍の慣行を無視したのだ。お前、現実で一騎打ちなんてするやつを見たことがあるか?」
「ありません。物語の中でなら」
「そういうことだ。まともな指揮官なら部下に一騎打ちを許したりはしない。戦いはみんなでやるものだ」
「みんなで、ですか」
「そうだ。あの時はノエルの意志を尊重する形で決闘を許したが、結果として僕は部下達から盗賊を逃がすかもしれない賭けをした愚かな指導者として見られていたわけだな。それはノエルのせいだ。以後つつしめ」
「……わかりました」
ノエルは素直にうなずいた。
おお。
今回は難しくないのか。
意外だ。
素直なノエルというのは少しレアかもしれない。
「ウォーレン様。今回は迷惑をかけました。これからは気をつけます」
「うむ。そうしろ」
しゅん、と、うなだれるノエル。
全身から覇気が失われ、しおしおと縮んでいる。
むむ。
いかんな。
活躍したのにほめないと、ちょっとかわいそうか。
ここはフォローしてやるべきかもしれん。
「まあ、あれだ。立場上たしなめはしたが、あの時のノエルはかっこよかったぞ。おとぎの国の騎士のようだった。僕も鼻が高い」
「え、ええ!?」
落とされてから持ち上げられたノエルはてれてれと赤くなった。
おお。
滅茶苦茶かわいいな。
ここはちょっと押してみるべきな気がする。
「厳しいことは言ったが、それもお前に期待してのことだ。勇敢で決断力があって力も強い。ノエルは騎士の鏡だな」
「そ、そんなことを言って! おだてても何も出ませんよ!?」
「いや。出るぞ。ほら、ちょっと目を閉じてみろ」
「目を閉じるのですか!?」
首にかかっている石板を優しく取り外す。
重いからな。
あと、邪魔だし。
おっぱいを触るのに邪魔。
せっかくの機会だ。
ノエルには僕の婚約者という本来の仕事を思い出してもらおう。




