第7話「無能も芸のうち」
幕僚長ボリスの寝ている海賊アジトの幹部室。
そこを訪ねてみた。
部屋に入ると、生臭いにおいが一杯に充満しているのがわかる。
ざっと目を向けたところ。
全裸の美女ばかりが2人ほど。
あざだらけの体を横たえて、ぐったりとうなだれていた。
「お、おお! ウォーレン様!」
慌てて跳ね起きたボリスが小太りの体を揺らして走る。
僕の前で急停止。
もみ手をしつつかしずく。
行動がなめらかだ。
人に頭を下げることに慣れた人間特有の洗練された動きである。
「よい。楽にせよ」
「ははっ!」
直立不動で固まって唇を引き締めるボリス。
なかなかの忠犬ぶりだ。
おべっか使いとしか言いようがない存在だとはもちろん思うのだが。
ボリスの場合はある種のかわいげがあるため。
はっきりと嫌うのは難しい。
「どうやらお盛んだったようだな。よく眠れたか」
「こ、これは痛烈なお言葉」
「よいよい。尋問も仕事のうちだ。それで、首尾のほどは」
「ははっ!」
幕僚長のボリスはパンツ一丁の半裸姿で胸を張り、
「兵務に関してはローリーに、補給や人事ついてはベネットに、情報の取りまとめや各種の連絡に関してはジャスティンに、すべて任せております!」
などと、堂々とそう答えた。
「お前は……まあ、統括だからな」
「ははっ! 部下たちを活用するために鋭意専心、粉骨砕身、適材適所の心構えを忘れずに絶え間なく努力しているのです!」
「うむ。けっこう」
ようするに、自分では何もしていないわけだが。
むーん。
なんとゆーか。
もしかするとこいつ、このままでもいいのかもしれないな。
本人自体には何の能力もないし。
性格も屑だし。
話もわかりにくいが。
無能なので裏切られても怖くないという点については大きな長所だと言える。
唯一の欠点はと言えば、存在する意味がまるでないということか。
いやしかし。
彼はコネ持ちだ。
大臣の父親が関わる任務であればほぼすべてにプラスの補正が入る。
ゆえに。
決して無意味ではない。
ボリスという人間には福を呼ぶ置物としての価値がある。
「そろそろ出発だ。急ぎ準備をせよ」
「ははっ! そ、その、この女たちは?」
「何かあるのか?」
「いえ、そ、その、具合がよかったもので……もしよければ」
「…………2人までなら連れてきてもかまわん。面倒はお前が見ろ。間違っても自由に行動など、勝手にさせないようにな」
「ははっ! ありがたきしあわせ!」
頭をさげるボリス。
はあ。
なぜ童貞の僕がヤリチンを気づかわねばならないのだ。
世の中間違っている。
もしボリスがイケメンであったならば即刻処刑しているところだぞ。
いやしかし。
締め付けすぎるのはまずいか。
性王ウォーレンのハーレム園建設に支障が出てしまう。
処女は僕のもの。
女の子はみんなのもの。
そんな感じで。
いずれは処女税制度の導入など、真剣に考えるべきかもしれない。
ガタゴト。
ガタゴト。
クラフトの街まで続く道は舗装が雑なため、馬車がすごく揺れ動く。
はっきり言えばあまり快適ではない。
しかし。
それでも旧式の馬車よりはまだましなシロモノである。
これは4頭立て。
高級車。
最近はやりの釣り式寝台がついたタイプだ。
揺れることは揺れるが。
ハンモックよりは寝具の分だけ、快適に寝ることができる。
『あ、牛だ』
『ふーん』
『渡り鳥の群れだ』
『ほへー』
妖精さんのつぶやきをてきとうに流しておく。
だるい。
気分はナマケモノだ。
反応が薄いことに腹を立てた妖精さんがゲシゲシと蹴りつけてくるが。
これはコミュニケーションの一種。
全力キックとは異なるこそばゆい攻撃であるから、あまり苦痛には感じない。
行軍はゆっくりと。
疲れないペースで進む。
暇だ。
やることがない。
日が沈んで野営に入ると、なおさら退屈が加速する。
ううむ。
暇すぎるな。
せっかくだし、ノエルでもいじって遊んでみるとするか。
思い立ったが吉日。
僕は腰を起こし。
最近いろいろとやらかしているノエルをおしおきすることに決めた。




