第6話「宝探し」
ガガガッ、と、ノエルと海賊頭のブラッドリーは激しく打ち合った。
剣と剣が火花を散らしている。
意外に手強い。
しかし。
経験ならブラッドリーが上だが、そもそもの地力が違った。
「たあっ!」
ノエルの剣がブラッドリーの剛剣を両断する。
続けて肘へ。
ブラッドリーの腕が夜空に飛ぶ。
胴なぎに払った一撃が腹の筋肉に止められ、ノエルは剣を離した。
間合いをつめる。
蹴りつける。
内臓がねじれるほどの衝撃。
直撃を受けたブラッドリーは吐しゃ物をまき散らして倒れた。
「そこまで」
ぴくぴく痙攣するブラッドリーを見て、僕は終了を宣言した。
「勝負ありだ。投降しろ。悪いようにはしない」
「ふ、ふざけ」
ざっ、と近衛のフィルが素早く飛び込んで反論する幹部を両断した。
数秒とかからなかった。
真っ二つになった海賊幹部は胴体をずるりと滑らせて、二つに分かれて死んだ。
「勝負ありだ。わかるな?」
「わ、わかった」
「部下たちの扱いは」
「悪いようにはしない。信じろ。それで解決する」
これは本当だ。
悪いようにはしない。
見栄えのいい者は性奴隷だし、力のある者は労働奴隷だが。
命を失うよりはましだろう。
彼らは貧民だ。
冷たい金属の刃が肉を食い破ることの恐ろしさは十分に知っているはず。
殴られてもレイプされてもションベンをかけられても。
死ぬよりはましなのだ。
生と死のはざまに置かれた経験のある者は命と屈辱の価値を間違えない。
命は大切だ。
なによりも。
生きているだけで素晴らしいということは、貴族より貧民がよく知っている。
まあ、強いて言えば。
幹部連中については拷問の末に死んでしまうこともあるだろう。
その場合は死んだ方がましな苦痛を伴うことになる。
が。
それは仕方がない。
彼らは本当の意味での責任者だ。
貴族は貴族を相手にした拷問なんてしないが、海賊はまた別である。
夜の闇よりも暗い未来の待っている海賊たち。
しかし。
この場での抵抗が無意味であることは理解したのだろう。
彼らは剣を捨てた。
そしてお縄についた。
あとは残党狩りを進めれば今回の作戦はおしまいというところか。
「ウォーレン様。勝ちました!」
「ああ。見事だった。えらいぞノエル」
ほめてやると、ノエルは満面の笑みを浮かべた。
髪が潮風で揺れている。
表情は誇らしげだ。
まあな。
この場の主役だったわけだし。
いささか強引すぎるやりかたで出番を得たにしても。
注目されたことだけはまちがいない。
「後始末をしようか」
「はい! わかりました!」
元気よく答えたノエルを引き連れてアジトの探索へと向かう。
財宝。
船そのもの。
食料や奴隷など。
さすがは総勢数百名ともいうブラッドリー海賊団である。
なかなかの金持ちだ。
これほどに美味しい戦いであれば、定期的にやるのも悪くはない。
「この船を動かすことはできるか?」
「可能です。安全に動かすならば1隻。無理すれば2隻ほどは」
「1隻でいい。財宝や物資、捕虜などを積んでクラフトの港に向かえ」
「了解いたしました」
「船と早馬、どちらが早い?」
「風向き次第ですが、おそらく早馬のほうが」
「わかった。すぐに飛ばせ。運搬のための増援を連れてくるのだ」
正規兵といえども操船の専門家と言える者は多くない。
港から水夫たちを連れてくるべきだろう。
不安もある。
捕虜にした海賊たちが暴れないかどうか。
反抗はせずとも逃げ出して潜伏しないかどうかなど、危険の種は尽きない。
「何人ほど残すべきだ?」
「反乱時の制圧要員を考えれば、やはり100ほどは欲しいところですな」
「わかった」
1泊して英気を養い。
200の兵を残してアジトを警戒させ。
僕たちはおのおのばらけ、ひとまずは財宝探索をはじめた。
妖精さん謹製の宝の地図を広げる。
アジトの隠し部屋。
周囲の森。
岩陰やら海の底やら。
小さなものであれば盗賊の懐やペットの胃の中など。
ありとあらゆるところに隠し財産は存在する。
これらさえ回収しておけば海賊が逃げ出したとしても怖くはない。
金というのは組織にとってのエサだ。
なければ育たない。
人も雇えない。
食料も資材も買えないため、集団としてまとまることが事実上不可能になる。
いくらカリスマのあるリーダーでもこれは変わらない。
「海賊というのは色々と考えるのですね」
ノエルなどはのんきに感想を漏らしているが。
横にいる参謀のローリーや近衛兵などは顔を固くしている。
そりゃそうだ。
いくらなんでもな。
彼らにはある程度の実務経験があるため。
妖精さんサーチの異常さとすさまじさがダイレクトにわかるのだろう。
「その……ウォーレン様の諜報網というのは」
「内偵に3年ほどかけたそうだぞ?」
「そ、それでは、まさか結成時のメンバーなどが」
「まあな。足抜けできなくなって困っていたそうだが、つい先日連絡が取れた。罠でなくてよかったな」
口からすらすらと大嘘が流れてくる。
僕は嘘が苦手だが。
確認の取りようがない話題に関しては別だ。
諜報組織などというのはファンタジー世界の住民と変わらないため。
何を言ってもいいし。
当事者さえ実態は知らない。
諜報員の多くは民間人である。
普通の主婦がはした金をもらって噂話を流す、みたいなケースがほとんどだ。
飲食店従業員。
運送業者。
巡礼者。
浪人。
吟遊詩人など。
ありとあらゆる形でスパイは存在する。
それらをまとめる窓口自体は当然あるわけだが。
情報は玉石混交。
真実も嘘も入り混じっている。
何も知らないよりはまし。
ごみだらけ。
何回も裏を取ってはじめて実用できる。
情報とはそういうものだ。
「こんなものか」
僕たちは探索を終えた。
背負いはパンパンだ。
金銀財宝を満載した馬車がいくつも並んでいる。
やはりな。
海賊は実入りが違う。
船というのがどれほど大量の物資を低コストで運べるか。
流通に関わる者であれば、誰でもそれを知っている。
「そろそろ出発するとしよう。幕僚長のボリスはどこだ?」
「まだ寝所のようで」
「しょうがないな」
上がっている情報について報告させようと思っていたのだが。
まあいい。
こちらから出向くとしよう。




