第5話「海賊退治」
叫び声が聞こえる。
海岸線で突っ立っていると、洞窟の奥から刃物の響きと悲鳴が聞こえてきた。
本隊が海賊のアジトを強襲したのだろう。
ここは洞窟の外。
アジトの裏口に当たる隠し通路のすぐそばだ。
今は敵が出てくるのを待っている。
妖精さんサーチの力によってアジトの構造は完全に暴かれている。
内部構造。
人員配置。
罠の場所。
戦力。
脱出経路など。
すべて筒抜けだ。
僕たちは泡を食って逃げ出した海賊どもを、ただただ待てばそれでいい。
時間にして10分かそこら。
ハリボテの岩が持ちあげられ、中からわらわらと人があふれてきた。
海賊だ。
これで民間人だったら驚きである。
僕たちはしばらく待ってから、一斉に矢を放った。
バタバタと人が倒れた。
「ぎゃっ!?」
「な、なんだ!?」
「待ち伏せだ! な、なぜここが…………誰だ! 誰がチクリやがった!?」
悲鳴。
絶叫。
大混乱。
幹部らしき男が怒りの言葉を夜空に叫んでいる。
ううむ。
なんだか勘違いをしているな。
誰もチクっていないのに。
拷問されても言わなかったのだから、そもそも知らせていないはずなのだが。
いずれにせよ、無駄なあがきである。
妖精さんサーチに秘匿は通じない。
なんでも感じ取れる。
それはそういうものだ。
200を超える正規兵に囲まれているこの状況。
すでに勝敗は決した。
にも関わらず。
「うろたえるな! 走り抜けろ! 囲みを突破すればすむことだ!」
海賊幹部たちは悪あがきをはじめた。
混乱している部下を迷わずに斬り捨てている。
おお。
すごいな。
なかなかの統率力だ。
ヒゲ面の大男が大声で指示を出し、即席の突撃陣を組ませる。
「行くぞ! ついて来い!」
あえて開けておいた包囲の隙へと海賊が殺到する。
もちろんその間。
鉄の矢が雨あられと降り注いだのであるが。
それを耐えしのぎ。
20人ほどが囲みを抜けて、一丸となって走り出した。
さすがに海賊の中でも逃走経路を確保するために先行した連中だ。
体つきがいい。
魔力もある。
足もすごく速い。
こんなやつらと正面切って戦えば被害者が出ていただろう。
逃がして正解ということか。
「ウォーレン様。敵が逃げますが」
「わかっている。追うぞ。ゆっくりとな」
決死の賊と戦えばこちらも殺されかねないが。
追われる者は違う。
彼らは臆病で慎重だ。
伏せていた兵に進路妨害をさせて逃走経路を指定し、次々と孤立させる。
はぐれを一人ずつ仕留める。
結果。
海賊たちは崖先に追い詰められ。
数も6人まで減った。
さざなみの音が聞こえる。
「お、お頭。この下は」
「ちっ……追い詰められちまったか」
海賊の頭らしき大男がいまいましげに舌打ちした。
前には正規兵の群れ。
後ろは夜の闇。
下は固い岩場である。
落ちても道はない。
終わりだ。
体のあちこちに矢を打ち込まれて傷ついて、体もボロボロである。
なので。
降伏をうながそうとしたところ。
ノエルがさっそうと進み出て、凛とした口調で問いかけた。
「海賊団の首魁、ブラッドリーはいますか?」
「ああん!? 俺だ! 交渉でもしてくれるのか!?」
「スークス男爵家の次女、ノエル・スークスです。無駄な犠牲を出したくありません。一騎打ちにて勝負をつけましょう!」
「なんだと!?」
ノエルが無茶苦茶を言った。
すごいバカだ。
海賊じゃないが、僕も「なんだと」と叫びたい。
一度痛い目を見なければわからないのかもしれない。
ここで押さえつけて今後暴発するよりも、むしろ好きにやらせておくべきか。
幸い、団長のブラッドリーはあまり強くない。
強いのは部下のほうだ。
見た感じであればノエルの方が強い。
ブラッドリー海賊団は義賊で有名であるし。
無駄な人殺しは避けるという話である。
あくまでもなるべく、ではあるが。
盗みはするし。
さらうし。
犯すし。
海洋交易を脅かすし。
財貨を奪われた結果として商人が首を吊っても知らぬ顔なわけで。
しょせんは下層賤民。
義賊などと言うのはつまり、屑どもの妄言に過ぎないと断言はできるにしても。
……ちょうどいいかもな。
ノエルの憂さ晴らしとしては。
この手のやんちゃはある日突然大けがをすることで収まる。
むしろ海賊のほうに期待してみるとしよう。
保護者あり。
格下。
ケガ人。
残虐性も低い。
これだけ楽な条件で実戦を行える機会はそれほどない。
好きにさせるべきだ。
これで死ぬようならば、それはそれまでであろう。
…………それに、男というのはたぶん。
女のわがままをどれだけ聞いてやれるかということに、一つの価値があるのだ。
利用価値のみで女を測るのであればそれは愛ではない。
僕はノエルを愛している。
そのつもりだ。
だからこれぐらいの無茶については、許してやるべきなのだろう。
さすがに、以前謹慎させたレベルの反抗は許せないが。
「……ウォーレン様。いいですね?」
「好きにするといい。負けてもいいが、死ぬことだけは許さんぞ」
「問題ありません」
ノエルは凛々しく笑って剣を抜き、頭目の前に立った。
付き人がそれに続く。
手は出さないだろうが。
向こうが部下をけしかけた場合は別だ。
即座に飛び出してノエルを守り、それで死ぬ覚悟さえできている。
「あなたが負けたら、そちらは武装解除をして降伏するのです。いいですね?」
「俺が勝ったら?」
「逃がしてあげます。ウォーレン様。いいですね?」
「ああ、かまわん」
もちろん、そんなわけがないが。
100%間違いなく部下をけしかけて皆殺しにするが。
口にする必要はない。
約束を破ったことで失うことになる名誉など。
ノエルが負けて怪我をすることに比べれば、極めて些細なことだ。
「いざ」
「いざ」
「尋常に、勝負!」
海辺の崖の上で、二つの影が真っ向からぶつかり合った。




