第4話「善悪の彼岸とは」
僕たちが500の兵を率いてアジトへ向かったところ。
おりよく、行商に向かう構成員の集団と出くわすことになった。
逃がす意味はない。
包囲して捕らえ。
てきとうに拷問を加えて、アジトの情報を聞き出すことに成功したわけだ。
幕僚長のボリスは拷問好きである。
拷問は専門家がやる。
それが基本だが。
進軍中の場合は尋問施設がないので連れてきていない。
ゆえに。
誰かやらないかと聞いてみたところ。
幕僚長のボリスが立候補した。
してしまった。
当たり前だが、拷問というのは誰もやりたがらない。
できれば避けたい行為だ。
必要だしやるべきだし安全のためにもなるのだが。
自分でやるのはまっぴら。
みんなそう思う。
人望を失ってしまう。
が。
ボリスは例外というべきか。
彼は法務大臣レイモンドの息子なので、人から嫌われても問題ない立場なのだ。
嫌われるのが普通。
むしろ好き。
人をいじめるのが大好き。
幕僚長のボリスはそんな男のようである。
なるほど。
ぜったいに解任しよう。
僕は心を決めた。
……ただ、まあ。
悪いことをしているわけではないのだし。
命令に従っているだけの善人であるとも言える。
体系もぽっちゃりだし。
背も低い。
ウォーレンよりも小さい80キロほどのスマートデブである。
デブ同士の仲間である以上、あまりにも無碍な扱いをするのは気が引ける。
この戦いが終わったら尋問官あたりに推薦してやるか。
明らかな左遷だが。
むしろ喜ぶかもしれない。
「ウォーレン様、お話があります」
「だめだ」
「まだ何も言っておりませんが」
「だいたい予想できる。だめだ。聞けない。下がるがいい」
ノエルはしぶしぶと去っていった。
ふう。
面倒ごとを増やさないでくれよ。
ただでさえ絵面がひどいのだ。
体重100キロを超すデブが海賊女を縛って引っ張って歩いている。
言いたいことはわかるが。
情報源はすぐそばにいたほうがいい。
それをわかってほしい。
決して鵜飼いのように女の子を引っ張るのが楽しいと思っているわけではない。
ない。
ないったらない。
日が暮れて視界が闇に閉ざされるまで待ってから、僕たちは移動を開始した。
「おい、女」
「なんだ?」
「お前たちは普段、どのように出入りしているのだ?」
「ロープを使って入る。縄はしごがあの辺に……そう、その岩の影だ。あそこにあるはずだ。ある程度動ける奴なら飛び降りても平気だと思う」
「合図などは?」
「ない…………はずだ。報告したものの他には。囚われた時には笛を吹いて知らせることになっている。後のものは知らない」
「なるほど」
僕はざっとがけ下に目を向ける。
真っ暗だ。
日が暮れているのだから当たり前である。
かがり火はない。
見張りはいるはずだが。
わざわざ外部に人がいることをアピールできない以上。
警戒は最低限に抑えているということか。
「間違っていたら、今度はそこの妹ともども尋問官の元に送り付けてやるが」
僕がそう言うと、海賊女のキャンディスは体を固めておびえた。
全身がぷるぷると震えている。
みずみずしい肌に汗が浮いていた。
暑さではない。
恐怖によるものだろう。
どうやら尋問中にたっぷりとお楽しみされたらしい。
それでも姉妹愛が勝ったのか。
キャンディスは拳を固め、きっと顔をあげて僕に強く哀訴した。
「ま、まってくれ。ラナはまだ13歳なんだ。武器を持ったこともないし、悪いことなんて何一つしちゃいない!」
「海賊の構成員自体がまちがいなく悪いことだぞ」
「しかたがないんだ! 生きていくためには! 私たちは奪わなければ死んでしまうんだ!」
女海賊は悲痛な声で叫んだ。
まあ、そうかもな。
もっとひどい境遇でいる者もいる、などという言葉が僕から出たとしても。
心には響かないだろう。
僕たちは持つ者だ。
法によって人から奪う者。
下賤な人間未満である海賊の心はわからない。
女海賊は妹と目を合わせた。
ふたりしてぽろぽろと涙を流している。
海賊にも情はある。
むしろ庶民のそれよりも強いかもしれない。
彼らは悪人だが。
暴力で奪うことしか知らない孤児や仲間たちからすれば、善に属する側なのだ。
貴族は悪。
海賊は善。
彼らにとってはそれが正しいと言える。
この海賊女にしても。
行商先の村人からすればありがたい存在なのだろう。
商品を格安で運んできてくれる善良な流通業者。
美人で感じのいい妹思いの行商人。
その商品の仕入れルートが購入であるか。
略奪であるか。
それは買う者にとっては何の関係もない話である。
……いや、もちろん。
貴族や庶民からすれば物流の血をすする蚊とかダニなわけで。
海賊はまちがいなく悪なのだが。
『なんてゆーか、こっちが悪人みたいだね』
『そりゃそうだろ。人はみな、誰かにとっては善人で、誰かにとっては悪人でいるものさ』
『私、どちらかとゆーとゲス顔で襲ってきてくれる悪人のほうが好きかも』
『僕もそうだ』
珍しく意見の一致を見た僕と妖精さん。
とはいえ。
やることは変わらない。
好むと好まざるとに関わらず、賊は殺すしかないのだ。
できることなら、誰だって邪悪の化身とも言うべき敵と戦いたい。
しかし。
それは望むべくもない。
もし仮に。
誰にとっても邪悪といえる存在がいるとしたら。
それはきっと、誰からも必要とされない人間ということになる。
そんなやつはあまりいない。
「…………そろそろはじめるか」
僕たちは海賊アジトの撃滅作戦を開始した。




