第3話「スパイ妖精」
現在、僕の側近にはあまり人がいない。
人数ではなく。
使える人間がいないのだ。
特に幕僚長のボリス。
彼の話はわかりにくい。
いちいちもったいつける上に、論旨をぼかして無能をごまかそうとする。
いらない人材だ。
僕がわざわざローリーのような危険人物を加えねばならなかった。
そのことだけを見ても、ボリスの無能さはよくわかる。
まあ、コネがあるから使うのはいいにしても。
幕僚長としてはどうかな。
さっさと変えたいところだ。
この件が終わったら、父に頼んで配置換えをしてもらうとして。
さて。
そのローリー。
実のところ、武力ばかりが突出したイノシシであることも想定していたのだが。
そのようなこともなく。
与えられた資料をまとめて、クラフト港の攻略計画を簡単に作り上げた。
「資料の中に、海賊どもの拠点情報がありましたが」
「ああ」
「これは正しいのですか?」
「もちろんだ。妄想などではない。場所、規模、進軍用のルートなど。直接物見を出したのと変わらない精度の情報が入っている。それで全拠点だと考えていいはずだ」
ローリーは指で目をこすり、渋面を浮かべながら聞いてきた。
「ウォーレン様の諜報部はどうなっているのですか? 理解を超えていますぞ」
「まあ、僕も伊達にバカ息子と呼ばれてはいなかったのでな。それだけに注力すれば、わりとなんとかなるものだぞ」
「これまでは情報網づくりに励んでいたと?」
「そんなところだ」
いや。
もちろん。
それは大嘘だが。
実際には妖精さんサーチの力である。
この力は強力無比。
ほんとうにそうなのだ。
情報力チートもいいところであって、ローリーが驚くのも無理はない。
「攻略の順序ですが」
「ああ」
機密事項であるスパイ組織についてはそれ以上触れることもなく。
ローリーは話を戻した。
「情報の価値から考えて、海賊の拠点を真っ先に潰すべきです。街から離れているので他の勢力と連携が取りにくいですし、作戦も安定します」
「なるほど」
不確定要素を先に潰すわけか。
「漁夫の利を狙うのであれば、やくざや武装商人などとかみ合わせて疲弊を狙うという考えもありえるが?」
「我々が平均的な勢力であればそのようにすべきでしょう。しかし、我々は最大勢力たる軍隊です。全ての作戦は力で押しつぶして進むべきであって、その道の安定だけを求めればいいと考えます」
「なるほど」
そんなものか。
安定した作戦というのは先が見通せすぎて、僕なんかは逆に不安になるのだが。
ローリーは堅実だな。
悪くない属性、と言えるか?
格下相手ならともかく。
格上の相手に対しては、できるだけ混沌とした手を打つべきだ。
でなければ格だけで勝負が決まってしまう。
まあ、この場合であれば、状況に即した一手だからそれでいい気もするが。
保留だな。
ローリーの資質については今後の課題としよう。
海賊ややくざという敵がいなくても、商人や民衆が貴族を頼るものかどうか。
それも問題だ。
しかしながら、力で押しつぶして解決するというのは一つの理想ではある。
工夫の余地がないかわりに。
失敗の余地もない。
ことの最初とはそのようにあるべきかもしれない。
「それで」
「はい」
「出発はいつにする?」
「今日明日ではいけませんか?」
「もうすぐ追加の兵が200ほど送られてくるはずだ。それを待って、という手もありえるが」
「後々合流すればいいかと思われます。戦力的には500で十分かと」
「そうか。わかった」
とうことで。
僕たちは荷物をまとめ。
500の兵をいくつかの部隊にわけて、クラフト港への道を進むことにした。
アルテピア内海の沿岸には海賊の拠点がいくつもある。
それらは住居であり。
物資集積所であり。
闇商人との取引場所であり。
大規模なものになると、船の修理や建造なんかまで行えてしまったりする。
まあ、さすがに造船所があるような拠点はうちの領地にはないが。
脅威には違いない。
海賊というのはバカにした勢力ではないのだ。
彼らは強い。
どこまでも成長する。
育ち切った海賊は海軍とだって対等以上に戦える。
可及的速やかに潰しておくにしくはない。
「あれか?」
目の前には大きな洞窟。
半島の陰に隠れるようにして掘られていたものだ。
手には縄。
その先には海賊女。
近場の村にまで行商に向かうところを、待ち伏せして捕虜にしたわけだが。
「どうなんだ?」
縄でふんじばった海賊女を後ろから蹴りつける。
女はぐうっ、と悲鳴をあげてうめいた。
いい尻だ。
蹴り心地がいいし。
体つきもいい。
僕が童貞でさえなければ楽しむところなのだが。
「あれがお前達のアジトか、と聞いている」
「そ、そうだ」
むちむちとした肉体美を誇る海賊女は消え入るような声で言った。
表情がおびえている。
他の仲間が受けていた拷問を間近で見ていたので、当然の反応であろう。
「暗礁が多いように見えるな?」
「そ、その。黒い布を沈めて見せかけてあるんだ。実際には船でそのまま通れる」
「なるほど」
「中には中型船が3隻と、小型船が5隻だ。人数は戦闘員が200弱。非戦闘員が300ほど」
「それは知っている」
「宝物庫や隠し通路については……ないと思う。私は知らない。ほ、本当に知らないんだ。その、だから、妹のことは」
「わかっている」
僕は言葉を遮った。
隣を見る。
近衛に捕らえられた少女が目をうるませている。
海賊女の妹だ。
姉の方はキャンディス。
妹の方はラナと言うらしい。




