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第2話「港の独立を防ごう」

「さて、ローリー。意見を聞こう。これからについてだ」

「ゴブリン退治は終わったのではないですか?」

「何をいっているのだ。たかだか人口3000の村を助けるために正規兵を500も集めるわけがないだろ。この兵はクラフトの港を攻めるためのものだ」


 ローリーは表情を固めた。

 次に、周囲をゆっくりと見渡す。

 部屋の中の顔ぶれを確認したのだろう。


 別に問題ない。

 この部屋の中には近衛しかいない。

 彼らの口から作戦が周囲に漏れるなどということはありえない。


 万が一にでもあれば。

 家族郎党、ことごとく皆殺しにしてもいいぐらいだ。


「クラフトの港は……ウォーレン様の領地ではありませんか」

「いまのところはな」


 港湾都市クラフト。

 人口5万。

 衛星都市を入れれば20万に届こうという経済圏である。


 塩、鉄、薬、香辛料、繊維、工芸品、食料品など。

 エニウェア侯爵領の特産品を集めて、海外へと運ぶための集積地。

 加えて言えば。

 クロノ港で受け入れた輸入品を運ぶための定期船も大量に出入りしている。

 要地中の要地だ。

 ここから入る税収は、僕の持っている領地全体の1割に相当する。


「何のために」

「ううん?」

「何のために攻めるのです。敵は誰で、戦術目的は何なのか。それをまず説明していただかなければ、意見もなにもありません」


 そりゃそうだ。

 僕は情報がたくさんあるから理解できているが。

 ローリーの立場からそれを推察するのは無理だろう。

 これは有能無能とは関係ない。

 単なる条件の違いだ。


「敵は海賊で、目標は治安維持だ。クラフトの港はヤクザ勢力が取り仕切る闇市などもあってな。これを根こそぎ潰すのと、海賊退治と、独立の機運を見せている市民への見せしめなんかも目的の一つとなる」

「ど、独立でありますか」

「ああ。バカな話だとは思うがな」


 領地運営に興味を持たなかったウォーレン。

 それだけならいいのだが。

 他の港とは違い、クラフト港の場合は部下達が無能だらけなのが悪かった。


 トップである文官のアイザックからして最悪だ。

 彼はウォーレンの直属である5人しかいない文官の1人なのだが。

 横領大好き。

 汚職大好き。

 庶民をいじめるのも大好きと。

 まさに人間の屑のような男であるらしい。


 トップがそんなだから、下にいる部下だって腐ることになる。

 仕事はサボる。

 わいろは受け取る。

 やくざや海賊は見て見ぬふり。

 むしろ情報を流して商人を襲わせると。

 そんなすさまじい状況になっている。


 もちろん。

 商人だって無抵抗でやられはしないわけで。

 武装勢力を雇って個別に同盟を組み、海賊やらやくざやらに対抗するわけだが。


 武力を持った者は、自衛だけを考えない。

 その牙はどこにでも向く。

 あらゆる支出の中でも最大のものである税金。

 それを奪う貴族。

 彼らの手先である役人どもに目にものみせてやろうと。

 ため込んだ怒りの矛先が暴発することもあるわけだ。


 もともと、港湾地域というのは独立を望んでいる。

 彼らは金持ちだ。

 税金によって自分の金が田舎へと再分配されることは望まない。

 それは不公平である。

 しかしながら、治安の安定には代えられない以上。

 やむを得ず従うわけだが。


 このケースにおいて、貴族は守ってくれない。

 むしろ敵。

 金だけを奪っていく邪悪な存在と化した。

 独立の機運が起こるのは、ある意味では当然のことだと言えるだろう。


「なぜそこまで放置しておいたのです」

「僕が無能だったからだな」

「そ、そんなばかな。何らかの思惑があるのでしょう? わざわざ混乱を起こしてまで領地を不安定にする意味がありません」


 おお。

 なんだか買いかぶられているな。

 僕の無能ぶりは評判のはずなのだが。


 ローリーよ。

 覚えておくといい。

 世の中には本当に無能、というか。

 領地運営に関して何の興味もない人間だっているのだ。


 ウォーレンはそれである。

 正真正銘のそれ。

 彼は領地運営に関して本当に興味がない。

 それは部下が誠実なケースにおいては名君たりえる資質だが。

 部下が不誠実なケースだと悲惨なことになる。


 今回の件では後者。

 文官アイザックは真正の屑である。

 生かしておく理由はないし。

 そのための兵だって、このように集めたわけだが。


「さて、ここからが問題だ。腐った文官。海賊。やくざ。地元の武装商人。あとは反抗的な庶民か。これらは全て打倒する必要がある」

「尋常ならざる敵の多さですな」

「そうなのだ。それで、順番に悩んでいてな。どの敵からどのようにやっつけるべきなのか。意見を聞かせてくれ」

「…………なるほど。状況はわかりましたが」


 ローリーはそこで言葉を切って。

 僕をまっすぐに見つめた。

 

「詳細な資料が欲しいところです。用意していただけませんか」

「ここにある。一日待つ。明日までに意見をまとめてこい」

「承知いたしました」

「誰か補佐をつけようか?」

「では、タラとマティアスなどを」

「わかった。好きに使え」


 僕はさっそく、部下に対する命令書を一筆こしらえて。


 ローリーを参謀に任命し。


 専用の部屋を与えた。

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