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嘘つき魔術師  作者: その他大勢
第二章【孤独と闘う魔王候補】
22/133

04

 リリアとメル、リリスは運動会の優勝商品である食堂のタダ券(一〇日ぶん)で昼食をとっていた。ちなみにリリアとリリスは今日弁当を作ってもらっていないので、美味いと評判の食堂の料理を存分に胃袋の中に収める事ができる。

 三人で食事をとっていると、高等部一年の魔人の女子の集団が近づいてきた。どうやらリリスの同級生であるようだ。

「リリスちゃん」

「……なに?」

「あなたのお兄さんの事で訊きたい事があるの」

「……訊きたい事……?」

「ユウさんって、どんな娘が好みなのかなっ?」

 吹き出しそうになったのをリリアは必死で堪えていた。吐き出しそうだったものを強引に飲み込んでいく。

 メルとリリスは目をパチクリとさせて、相手が何を話しているのかわからず混乱しているようにも見えた。

「ブホァ! ゲホ、ゲホ」

「おい、大丈夫かよ?」

 隣のテーブルに座っている不良──二人組の金髪の男女でたぶんカップル──の男の方は盛大に吹き出していた。リリスの同級生から思いきり睨まれ、ソッコーで目を逸らす。はて、この学園にこんな不良居ただろうか? ただ単にリリアが知らないだけかもしれないが。バッジは外してるが、たぶん一年の生徒だろう。

「ユウはね、ちっちゃい女の子が好きなのよ!」

 リリスの代わりに答えたのはメルだった。

「そんな訳ないじゃないですか。ユウさんがロリコンだったら生徒会長さんはとっくに付き合ってるじゃないですか」

「むぅ……」

 一年の間でもメルの風評は知れ渡っているようだ。

 メルは不機嫌な顔を晒け出し、黙々と食堂の料理を頬張っていく。

 それにしてもユウの好みの女の子か。あの糞虫がどんな女性が好きで、どんな奴と付き合おうが知ったこっちゃないが、少しは気になるところではある。

「それでリリスちゃん、ユウさんってどんな娘がタイプなの?」

「……えっと……ごめん、わからない」

 そもそもユウと話自体あまりしないのだから、身内であるのにも関わらずユウの情報は圧倒的に少ない。そういえば一つだけ今思い出した。

「そういえばアイツ、甘いもの好きだったな」

「リリア先輩! それは本当ですか!?」

「え、ああ、アイツの味覚が変わってなければ話だけどな」

 その代わり苦いものと辛いものは全然ダメだったような気がするが。

「ありがとうございます!」

 わざわざわお辞儀までしてその魔人の女の子は去っていった。

 なぜ急にあの男がモテ始めたのかものすごく疑問に思うのだが、魔人嫌いのアイツが魔人の女の子と付き合う姿が想像つかない。あの女の子がユウに告白したところで、フラれるのが目に見えているので正直可哀想である。

「ふむ、近々甘いものが食べられそうだな」

 隣の不良の男子生徒は何を言っているのだろう?

 今の会話を盗み聞きしてたとしてもコイツが食べられる要素はどこにも無いはずだ。

「それにしてもあの娘不幸だよな。あんな糞虫とじゃ幸せにはなれねえのに」

「まったくもってその通りだぞ、うん」

 だからさっきから何でこの金髪男子は盗み聞きしているのか。盗み聞きは不愉快だし、正直堪忍袋の緒が切れそうだ。

「……まさかとは思っていたけど……その声、兄さんでしょ?」

 ──兄さん……?

 不良の男子をジロリと睨みつける。魔力は完全に抑え込まれているため波動は感じない。けれどよくよく見てみると、金髪で眼鏡をかけていないが間違いなくユウだ。そして近くの金髪の女子はサイガで本名は確かアイリだったような気がする。

 そもそもなぜこの二人が居るのだろうか?

 食べている物は食堂の料理ではなく弁当。

 アイリの弁当がやけに豪華である。さすがは帝都の皇族の娘というべきなのか。

「ホントだ。糞虫じゃねえか」

「違うよ。全然違うよ」

「そのふざけ方は間違いなくユウね」

「おいアイリ、リリスとリリアだけじゃなくメルにもバレちゃったぞ」

「お前が静かにしてないからだろ」

 アイリは溜め息をついて、ユウはこっちに『静かにしろ』というジェスチャーをこちらに送ってきた。その変装でわざわざこんな所にまで来て弁当を食べているのは何か事情がありそうだ。

「それで、ユウとアイリはどうしてこんな所にいるの?」

 小声でメルがユウにそんなことを訊く。逆に小声で話しているのが怪しすぎる。

「知らん!」

 なぜこの糞虫は堂々とそんなことを言えるのだろう。

 アイリの方の理由はだいたい察しがつくが、ユウがそのアイリのボディーガード的なものじゃないのだとすると、ユウがこんな所に来ている理由が全くの不明だ。

「なあなあアイリ、何で俺まで追いかけられてるの?」

「ああ、それは──」

「ちょっと待て。何で糞虫が追いかけられてる話が出てくる?」

「だから、それは俺が知りたいんだって」

 ここは余計な口出しをしないで話を聞いていた方が良さそうだ。

 アイリが徐に口を開く。何ともその口は重たそうである。

「俺がユウの眼鏡割ったのが原因なんだよ」

 ──あぁ~、そーゆー事な。

 確かにユウは普段は眼鏡男子でわりと地味な部類に入るが、外してしまえばそのイメージが一気に払拭されてしまうイケメンである。面食いであるリリアだって、一応兄妹という立場さえなかったら追っかけをしていたかもしれない。

 ところがこの糞虫は自分がイケメンという自覚がないうえ天然のたらしだ。今だって「つまり、どういうことだってばよ?」とぼやいている。

 何か見ていてムカついたので一発殴っておいた。



      ●



 ユウとアイリは変装したまま部室の中へと入っていった。変装した姿を見ていないセレンとカガリは思いきり警戒心を剥き出しにしていたが、変装を解くとその警戒心が消えていった。

 この二人もユウとアイリの風評が耳に届いていたらしく、どうして変装していたのかは訊くことはしなかった。

 当分の間は、クラスメイトから借りた変装道具を使い続けなければならないだろう。見つかれば大変な騒動になる。今は売れっ子アイドルみたいな心境である。

 部室の中を見渡す。部員はユウを含めて五人で、部と認められるギリギリの人数だ。

 まずはユウとアイリ。この二人は魔力が低く、この学園の高等部では最底辺の魔力の持ち主である。『魔力の無い奴が「強化」だけでどこまで強くなれるのか』を検証するために無理矢理入部させられた。もっとも、アイリは魔力を取り戻しているため、もはやD組のそれではなくなってきている。

 三年生のセレンは茶髪のショートボブの猫目の女子だ。性格はいつもマイペース。『風属性』を得意として、クラスはB──平民にしては高い魔力数値を持っている。

 そして一年のリリスとカガリ。

 リリスはユウの妹だが血が全く繋がっておらず、どちらもカイト・ブライトの養子である。今までならリリスに全く相手にされていなかったが、最近になってからはちょこっと話す機会が増えている。

 カガリは魔王の娘だ。証拠に魔王の家系の本家に現れる深紅の髪と瞳を併せ持つ。ユウは過去にカガリとある約束をしている。今日それを思い出し、顔が火照ってくる。

 ──恨むぞ、子供の頃の俺。

 そんな事はさておき、これだけを見ればユウ以外は全員女子だということがわかる。

 ──これ、何てエロゲ? うは、俺のハーレム時代キタコレ!

 口に出せばおそらく全員がドン引きするだろうその言葉を自分の中だけで叫ぶ。ただ誰一人として攻略する気など毛頭ないが。

「ユウ、部屋割りちゃんと考えてきたかい?」

「バッチリっすよセレン先輩」

 ここ──魔物討伐部では今まで着々とゴールデンウィークに行われる合宿の準備をしていた。数週間前にユウが『部屋割りは俺に任せてオーケイなんだぜぃ』と、カガリからの誘惑から逃れるために口走ったことが原因で、部屋割りを一任された。というか決定権を強奪してきた。

 ただ、運動会やらアイリやらギルドの事やらでそれをすっかり忘れてしまい、昨日思い出してすぐに部屋割りを考えてきた次第だ。とはいっても一分もかからずに終わってしまったが。

 ということで早速部屋割りを発表する。


 二人部屋 アイリ&セレン カガリ&リリス

 一人部屋 俺!


「何で先輩と私は同じ部屋じゃないんですかっ?」

「倫理的に考えてだ常考」

 ブーブーと文句を垂れるカガリ。なぜ文句を言われる筋合いがあるのか全く理解できない。

「とにかく! 面倒だからこれでいいだろ! アイリも先輩もリリスもこれでいいよな? なっ」

 ユウはほぼ強引に皆を頷かせる。

「うし決定! んじゃ、俺用事あるから。お疲れしたーっ」

「え? ちょっとちょっと、どこ行くのさ?」

「セレン先輩には関係無いっすよ」

 ユウはそそくさと部室を後にする。一応用事というのは建前上、眼鏡の修理である。アイリには言ってあるので、ちゃんと伝えておいてくれるだろう。だが本当の用事はそうではない。スペアはちゃんと家にある。

 ポケットに手を忍ばせる。中を漁り、目的のものを取り出す。

 それは無線機だった。耳に装着してオン状態にする。すぐに喧しい音楽が聴こえてきた。これでリンクは完了だ。

《俺だ》

《コルウス……? どうしたの?》

《感染者が現れた》

 相手は人気の三人組バンドグループ『Shout』のボーカルとギターであるミヤだ。彼女達『Shout』は全員がユウと同じギルドに所属し、主にコルウスになったユウと共に諜報活動を行っている。

《感染者って……、ウィルスをばら撒いていたケイゴはキミが殺したじゃない》

 数日前、ユウは確かにこの手で恩師であるケイゴ教諭を殺した。死んだところもこの目で見た。

 それなのにまた感染者が出た。それにより導かれる答えは一つ。

《ケイゴ以外にもウィルスを撒いてた奴がいたって事だろ。だから頼みがある》

《なに?》

《またウィルスの『元』を探してほしい》

《……了解》

 隠密に行動するのには『Shout』の方が向いている。『コルウス』は有名になりすぎてしまった。まさか『Shout』が秘密裏で暗躍しているとは誰も思わないだろう。

 ユウは無線機をオフにしてポケットの中にしまうと、辺りを確認して人がいない事を確認する。さすがに部室棟の奥まで追っかけてくる熱狂的なファンはまだいないようだ。

 腰に差している刀に手を触れる。すると灰色の鎖の形をした魔力が溢れ出してくる。その鎖を鷲掴みにすると、強引に引っ張って引き千切る。

 鎖が千切れた音と共にユウの頭髪、瞳の色がそれぞれの黒から白へ、緋へと変わっていく。その姿はまさしく武人。ケイゴが『死神』と称するユウのもう一つの姿であり本来の姿である。

 目付きは鋭くなり、寝ていた髪が逆立つ。印象が大きく変わるためユウとコルウスが同一人物だとは気づかれにくい。

 更に視力が回復するので眼鏡は必要なくなるのは余談である。

 今コルウスとしての活動が久しぶりに再開されようとしている。

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