共犯者と秘密の練習
魔法祭は、学園最大の行事。私は毎日、放課後の訓練場で炎を練り上げていた。
けれど、あの夜――どうしても眠れなくて、こっそり訓練場へ出た私は、月明かりの下に人影を見つけた。
噴水のほとりで、水の柱を立てては崩している。何度も、何度も。額に汗を光らせ、肩で息をして。
「……会長?」
ばしゃん、と水が崩れた。振り返った彼は、私の知っている「完璧な生徒会長」の顔をしていなかった。
「見られちゃったか」
困ったように笑って、濡れた前髪をかき上げる。
「内緒にしてくれるかな。完璧な会長は、努力しているところなんて見せないものだからね」
「でも、見ちゃいました。だから私、共犯です」
「……共犯」
「はい。秘密の特訓、私も混ぜてください」
彼は少し目を丸くして、それから、ゆっくり笑った。今までの笑顔とは、どこか違っていた。
「じゃあ、共犯者。まずは、その火を見せてくれ」
それから毎晩、私たちは二人で練習した。
私の炎が立ち昇り、彼の水がそれを受け止める。ぶつかり合って弾けた白い蒸気の中で、ユリオス会長は声を上げて笑った。
「あははっ! すごい、君の火、全然手加減してくれない!」
「会長こそ、どうしてそんなに正確なんですか!」
「昔から、間違えられなかったからね」
笑いながら言った言葉の底に、かすかな影が落ちたのを、私は見逃さなかった。
でも、聞かなかった。聞いたら、この夜が壊れてしまいそうで。
「リリー、って呼んでもいいかな。共犯者だし」
「……はい、会長」
「ユリオスでいいよ」
「それは、ちょっと……会長、のままで、お願いします」
「ふふ。今は、それでいい」
――今は。
その二文字が、いつまでも胸の奥で、小さな火のように灯っていた。
*
魔法祭の当日は、雲ひとつない快晴だった。
私の番が終わり、拍手が鳴り響く。そして最後を飾る生徒会の合同演目。ギャラントが土の魔法で舞台を築き、ラウリが光を空に散りばめる。
「いくよ、リリー」
「はいっ!」
私の詠唱が空へ駆け上がる。
『赤き炎よ、天を駆けよ――』
彼の水が、それを追って降り注ぐ。
『蒼き水よ、彼の光を映せ』
炎と水がぶつかって、細かな水蒸気になって、そこへラウリの光が差し込んだ。
――虹が、かかった。
学園の空いっぱいに、巨大な七色の橋。観客席から、割れんばかりの歓声が上がる。
「……すげえ」
ギャラントが横を向いて、ぼそりと呟いた。私と目が合うと、慌てて「ちがう、お前じゃなくて演目が、だ!」と怒鳴る。
隣を見上げると、ユリオス会長が、虹ではなく私を見ていた。
「ありがとう、リリー」
「え?」
「君と組めて、よかった」
どうしてだろう。虹よりもずっと眩しくて、私は目を逸らしてしまった。
この胸の熱の名前を、私はまだ、知らないふりをしていた。




