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人形姫と四つの口付け  作者: かん
人形姫の呪いと、風の願い(カイゼル ルート)

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47/54

ずっといっしょ(カイゼル後日談①)

―――カイゼル―――


 呪いが解けて、半年が過ぎた。


 男子寮の自室で、課題をしていると。


 手首のバングルが、ぶるると震えた。


 青い石が光る。


「――ッ!」


 椅子を蹴って窓から飛び出した。風を纏って、女子寮の二階へ一直線。


「リリー!!」


 窓を、風でこじ開ける。


「あ、来た」


 部屋の中で、リリーがベッドの上でころんと寝転がっていた。


 脚は、どこも固まっていない。ぴんぴんしている。


「…………おい」

「ふふ、本当に来た」

「おい、リリー。お前、呪い、解けただろ」

「うん」

「じゃあなんで押した」

「会いたくなったから」


 俺は、ぴたりと固まった。


「…………は?」


「会いたくなったの。呼び出したら来てくれるかなって」


 リリーは、ベッドの上で頬杖をついて悪戯っぽく笑った。


「本当に飛んできた。……嬉しい」

「お前なあ! 心臓に悪いんだよ、それ!!」

「ごめんごめん。でも、他に方法がないんだもん。寮、別々だし」

「普通に呼びに来い!」

「だって、カイゼル、恥ずかしがって来てくれないでしょ」

「うっ」


 図星だった。


 リリーは、ぷっと吹き出した。



「もう一生外さないでね、それ」

「……外さねえよ」


 ぼそっと、俺は答えた。


「お前が呼べば、いつでも行く。用がなくても」

「うん」

「……その代わり」

「なに?」

「たまには、直接会いに来い。俺もその……会いたい時が、ある」


 言い終えて、そっぽを向く。


 リリーは、目を丸くして。


 それから、花が咲くように笑った。


「うん。毎日、行く」


     *



 卒業の翌月。


 二人は、故郷の小さな町に戻ってきた。


 冬だった。雪が、静かに降っていた。


「……この辺りだったはずだ」


 森の奥。雪に覆われた、小さな空き地。


 あの日、魔女の家があった場所には、今は何もなかった。ただ、白い雪が、しんしんと積もっているだけ。


「ここで俺は願ったんだ」


 俺は、雪の上に立ち尽くした。


「あのとき、俺は八つで、何もわかってなかった。ただ、お前と離れるのが嫌で。……それだけで」

「うん」


 リリーが、俺の隣に並んだ。


「私ね、この場所に、来てみたかったの」

「どうして」

「カイゼルの最初の願いが、生まれた場所だから」


 彼女は、雪の上にしゃがんで両手でそっと雪を掬った。


「魔女は言ったよね。『願いが、呪いになるか、祝福になるかは、お前たち次第だ』って。……私、思うの。あの願いは、最初から祝福だったんだって」

「…………」

「だって、今、私は、こんなに幸せだもん」


 リリーは、雪をふうっと風に散らした。


 きらきらと、雪の粒が宙を舞う。


「カイゼルがあの日、願ってくれてよかった」


 その言葉に、胸が熱くなった。


「……リリー」

「なあに?」

「俺はもう一度、ここで願いたい」


 俺はリリーの前に膝をついた。


「今度は、魔女には頼まない。俺の口で、お前に直接言う」


 ポケットから、小さな箱を取り出した。


 ……ケーキ屋の小さな紙の箱を。

 それを見たリリーが目を丸くする。


「……ケーキ?」

「あ、いや。その、間違えたわけじゃなくて、その」


 俺は、耳まで熱くなるのを感じながら蓋を開けた。


 中には、小さないちごのショートケーキがひとつ。


 その、ケーキの上に。


 銀の指輪が、ちょこんと載っていた。


「……ぷっ」

「笑うな! 大事なときに渡すなら、俺の好きなものでって思って……!」

「あははははは! もうカイゼルらしい!」


 リリーが、お腹を抱えて笑い転げる。涙が、目尻に浮かんでいた。


「……おい、いつまで笑ってんだ」

「ごめんごめん。……ふふ、嬉しい」


 彼女の笑いが収まるのを待ってから、深呼吸をする。

 そしてまっすぐとリリーを見つめた。


「リリー・カラティア」


「はい」


「俺とずっといっしょにいてくれ。今度は、呪いじゃなくて俺の意思で。……結婚してほしい」


 リリーの目から、涙がぽろぽろと溢れた。


「はい」


 声が、震える。


「はい、喜んで」


 指輪が、彼女の指にそっと通された。


 ぴたりと、収まる。


 そのとき、ふわりと風が吹いて、二人の頭上の木の枝から雪が、さらさらと舞い落ちた。


 まるで、誰かが祝福の花吹雪を撒いてくれたみたいに。


「……ねえ、カイゼル」

「なんだ」

「私の願い事も、聞いてくれる?」

「ああ」

「私ね、九年前、行くはずだった港町に、行ってみたいの」

「……港町」

「うん。私たち、あの日から、ずっとこの町を離れられなかったでしょう? 呪いのせいでじゃなくて、心のどこかで」


 彼女は、俺の手を両手で包んだ。


「離れられない、じゃなくて。……いっしょに、遠くへ行ってみたいの」


 俺は、少しだけ目を見張った。


 それから、ふっと微笑む。


「お前が行きたいところなら」

「うん」

「どこまでもついていく」

「……ありがとう」


 二人は、雪の中で静かに額をこつんと合わせた。

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