灯りを分け合う日々(ラウリ後日談①)
呪いが消えて、数か月。
私は、まだピアスを外せずにいた。
「ラウリ、あの、これ」
放課後の部室で、私は耳のピアスを指で示した。
「もう呪いはないし。あなたの魔力が、吸われることもないんだよね。だから、返した方が――」
「いらない?」
ラウリが首を傾げて、悲しそうな顔をした。
「うっ。そういう顔、ずるい」
「だって、いらないって言われたら、悲しいもん」
「い、いる。……いるよ」
「よかった!」
ぱっと笑顔になる。
この人は、こういうところがずるい。
「今のそのピアスはね、もう魔力を吸わないんだ。ただ、僕の光が、君の耳元でぽかぽか灯ってるだけ。お守りみたいなものだよ」
「うん。……あったかい」
「でしょ? ……それに、僕とお揃いだから」
ラウリは、髪をよけてその耳に付いているピアスを私に見せた。
「……お揃い」
ふと、彼に穴を開けてもらった時のことを思い出す。
同じように言われて、なんだか照れ臭かった。
けれど今は。
(……うれしい。これからもっとたくさん、お揃いが増えるといいな)
耳たぶに温かさを感じながら、私はこれから来る明るい未来に思いを馳せた。
*
文化祭から、半年。
私とラウリのもとに、一通の手紙が届いた。
差出人は、オスカー先生。
封を切る手が、震えた。
『ラウリ君、リリーくんへ。
まず謝らせてほしい。
私は君たちを裏切った。教師として、してはならないことをした。許してくれとは言わない。
ただ、伝えたいことがある。
私はあの日、ラウリ君の光を見て思った。ああ、これが、私が失くしてしまった光なのだと。
君は、私が教えたことを私の想像を超えて使いこなしていた。それが誇らしくて、悔しくて、苦しかった。
リリーくん。君の炎は素直だった。それが羨ましかった。
二人とも、どうかその光と炎を、誰かのために使い続けてほしい。
そしてもし、機会があれば。
『灯火のランタン』が完成するところを、見てみたい。
オスカー』
読み終えて、私は、ぽろぽろと泣いていた。
「……先生」
ラウリが、私の肩をそっと抱いた。
「先生は悪いことをした。それは変わらない」
「うん」
「でも、先生が教えてくれたことは本物だったと思う」
ラウリの声も、少し震えていた。
「だから、完成させよう。二人で」
「……うん」
その日から、私たちは、再び魔道具の作業に没頭した。
光と炎を、ひとつのランタンに閉じ込める。私の炎が色を変え、ラウリの光が、それをやわらかく包む。
何度も失敗して、何度も直して。
そして、ある夜、ついにそれは完成した。
ガラスの中で、金色の光と赤い炎が寄り添うように揺れている。二つの光は混ざり合って、やさしい、あたたかい夕焼けの色になった。
「……きれい」
「うん。きれいだね」
私たちは、そのランタンを手紙と一緒に先生のもとに届けた。
返事は来なかった。
けれど、ある日、面会に行った友人が、教えてくれた。
先生は、そのランタンを独房の窓辺に置いて毎晩、じっと見つめているのだと。
*
二年後、卒業式の日。
私たちは、生徒会室の戸棚の床板を外した。
錆びた缶は、変わらない場所で私たちを待っていた。
公務の合間を縫って駆けつけてくれたユリオス会長も、ギャラントも、そして、並んで立つセシリア先輩とエルンスト先輩も一緒に。
二人の薬指には、お揃いの細い指輪が光っていて、ラウリが「あーっ!」と叫んで、セシリア先輩に書類ばさみでぱこんと叩かれた。
「わあ、懐かしい!」
蓋を開けて、四通の手紙を取り出す。
ギャラントの手紙は、一行だけだった。
『飯は、ちゃんと、食え。』
「これだけ!?」
「うるせえ! 一番大事なことだろうが!」
ユリオス会長の手紙も、短かった。
『あの頃の僕へ。君の隣には、ちゃんと、仲間がいるよ。』
会長は、それを静かにたたんで微笑んだ。
『後輩たちが、いつまでも、笑っていますように。 セシリア/エルンスト』
「……読み上げなくて、よろしいわ」
「では黙読します」
「それもやめなさい」
顔を真っ赤にした先輩の手に、隣からそっと細い指が重なった。
そして、ラウリの手紙は三枚。読み上げるのは恥ずかしいと言って、彼は、一枚目だけを私に見せてくれた。
『十年後の僕へ。ちゃんと、笑えてますか。誰かを照らしてばかりで、自分が暗い場所に立っていることを、忘れていませんか。
もし忘れていたら、思い出して。光にも、あたためてくれる人が、必要なんだってこと。』
「……ラウリ」
「あの時は、君がそんな存在になってくれるとは思ってなかったな」
彼は、照れくさそうに鼻の頭をかいた。
「あの時の僕が聞いたら、飛び跳ねて喜ぶだろうな」
「ふふ」
最後に私の手紙。
『呪いが解けて、みんなで、笑っていますように』
缶の中の、その一行は、今も少しも色あせていなかった。
目の前で、五人が笑っている。
私の呪いは、もうない。そして、みんなが笑っている。
あの日、震える手で書いた願いは。
全部、叶っていた。
「……ちゃんと届いたね」
ラウリが笑った。
私は、涙をこらえきれずにぼろぼろと泣きながら頷いた。




